教えてくれたのは……
化粧品処方開発者
ぽんかんさん
化粧品メーカーにてスキンケア製品の処方開発を手掛ける、現役の研究者。メーカーとユーザー、どちらにも寄らない中立の立場から情報を発信。客観的で冷静なコメントは信頼できると、Xで大人気!
X:@cosmeresearch
メーカーがある程度自由に処方できる「化粧品」の特徴
ぽんかんさん
化粧品は、肌を健やかに保ったり清潔に保ったりするためのもので、メーカーの責任で処方が組まれています。ほとんどすべての化粧品成分は濃度もとくに上限が定められているわけではないので、メーカーが自由に設定することができますが、配合したすべての成分を表示する義務があります。化粧品は「成分の制限が少ない」「メーカーこだわりの成分を配合できる」「医薬部外品では使えない成分を配合できる」という特徴があります。そのため、本来、肌への作用がマイルドなはずの化粧品ですが、一部、極端な高濃度処方の場合もあるのが特徴です。成分を高濃度配合することで、肌への効果が期待できるように思えますが、同時に安全性の心配が出てくるため、手放しに高濃度がいいとは言い切れません。
安全性、安定性、効果のバランスが大切な「医薬部外品」の特徴
ぽんかんさん
医薬部外品は、国が効能を認めた有効成分が一定濃度配合されており、「ニキビを防ぐ」「日焼けによるシミ・そばかすを防ぐ」などといった効果を訴求することができます。これが最大のメリットで、製品が狙っている効果がわかりやすいため自身の肌悩みに合わせて選びやすいです。加えて、国が認めている有効成分が安定的に配合されていることも担保されています。実は原則、有効成分が規定量の90~110%の範囲に収まっていないと製品を発売することができないのです。そのくらい、有効成分の配合が担保されているのが医薬部外品です。ですが、使える成分が限られていたり、濃度の自由度が少なかったりするのも医薬部外品の特徴です。すべての成分を含めた処方を国が審査で確認しているため、化粧品とは違って全成分の表示義務はありません。
ある程度自由に処方できる化粧品にも配合できない成分がある?
ぽんかんさん
メーカーの責任の範囲内で成分を配合したり濃度を定めたりすることができる化粧品ですが、配合できない成分や、配合はできるが濃度の上限が決められている成分もあります。防腐剤や紫外線吸収剤などの成分は「ポジティブリスト」に記載されており、それらは、配合は可能ですが使用部位に制限があったり、最大配合量が設けられていたりします。一方、微量でも配合を許されない成分は「ネガティブリスト」としてまとめられています。メーカーが自由に成分を選べるからこそ、配合のルールはきちんと定められていますし、安全性の高い成分のみを使って効果を出せるように、日々化粧品開発に勤しんでいるのでご安心ください!
化粧品には配合できるけど医薬部外品には配合できない成分がある?
ぽんかんさん
あります! 化粧品の成分リストに載っている成分は25年1月現在で1万6000件以上ありますが、その中でも医薬部外品に配合できる成分はおおよそ3000件程度です。医薬部外品には、有効成分はもちろん、基材(ベース成分)も国に安全性を認められた成分しか配合できません。安全性を認められている成分のみで構成されており、有効成分の濃度を担保されているのが医薬部外品のアイテムです。反対に、医薬部外品には配合可能で化粧品には配合できない成分もあります。おなじみのトラネキサム酸です。もともと医薬品として使われていた成分で化粧品には配合不可です。医薬部外品には、安全に用いることのできる濃度に調整して美白や肌荒れ防止の効果が得られることを国に申請して認められたため、配合が可能になっています。そのほかにも、「ヘパリン類似物質」も医薬部外品にのみ配合可能な成分です。
化粧品と医薬部外品の使い分け方は?
ぽんかんさん
最新の成分や、メーカーこだわりの成分を使いたい方、高濃度の美容成分を求めている方は化粧品の方が狙ったものが見つかりやすいでしょう。一方、シミやシワなど悩みが明確な方は、有効成分が効果を認められた一定濃度で配合されている医薬部外品を使うのがおすすめです。また、敏感肌の方は、ベース成分も含めて安全性・安定性が担保されている医薬部外品で、肌荒れ防止や抗炎症の有効成分を配合されているものから選んでみるのも一つの手です。そうすることで、極端な高濃度や安全性に懸念のあるような化粧品を避けることができます。
教えてぽんかんさん! 医薬部外品の気になる謎を一問一答!
同じ成分なのに医薬部外品と化粧品で成分名が違うことがある?
ぽんかんさん
本当です! たとえば、グリセリンは同じ原料を使っていても化粧品ではグリセリン、医薬部外品では濃グリセリンと表記されることがあります。純度の高いグリセリンの原料は、医薬部外品では「濃グリセリン」の名で登録されているだけで、成分としては化粧品の「グリセリン」とまったく同じものです。そのほかにも、ヒト型セラミドの1種であるセラミド3は化粧品の表示では「セラミドNP」、医薬部外品では「N-ステアロイルフィトスフィンゴシン」となり、セラミドという表記ではなくなります。また、防腐剤のメチルパラベンは化粧品ではそのまま「メチルパラベン」ですが、医薬部外品では「パラオキシ安息香酸メチル」となり、パラベンと表記されません。パラベンフリーの化粧品を選びたいという方は、医薬部外品の場合は名前が変わって見落としがちなのでご注意ください。
新規の有効成分の開発に時間がかかるのはなぜ?
ぽんかんさん
新規有効成分を医薬部外品に申請する際には、安定性・安全性・効果効能にまつわるさまざまな資料を提出する必要があります。そのため、良い成分ができても、これらの審査項目を証明する試験や審査官とのやりとりに時間がかかり、認証が通るまで10年以上もかかることも。さらに、かかる費用も一説には億単位だとか。そのため、新規有効成分はなかなかたくさん出てこないのが現状です。
有効成分の上限量は決められている?
ぽんかんさん
上限量に決まりはありません。成分の安定性、安全性、効果の3点が認められればどのような濃度でも承認される可能性はあります。
少し難しい話になってしまいますが、医薬部外品の承認申請にはいくつかの区分があります。「新規の成分」を申請することもできますし、「既存の認証医薬部外品と処方が完全に同一というわけではないが、同一性がある類似のもの」として申請することもできます。この「同一性がある」というのがカギで、最初に承認が通ったものと似ているものとして申請をすることでハードルの高い安全性と効果効能の2点に関する試験をパスすることができます。市場にある多くの医薬部外品の製品はこの区分(類似医薬部外品)で申請・承認されることが多く、基本的には有効成分の濃度は先発品に倣った濃度になっていることが多いです。
「医薬部外品の有効成分の濃度は決まっている」と言う方が多いのですが、データを取って申請さえすれば、濃度の決まりはないというのが正しい表現です。
イラスト/もちづきいずみ 取材・文・構成/剱持百香