パソコンなどに「たまご」と入力して変換すると、表示されるのは「卵」と「玉子」。この違いってご存じですか?「たまごやき」は「玉子焼き」とも「卵焼き」とも書くけど、「たまごかけごはん」は「玉子かけご飯」ではなく「卵かけご飯」。「卵売り場」とは書くけど「玉子売り場」とは書かない…など、なんとなく“感覚“で使い分けていましたが、調べてみると実は、「卵」と「玉子」には、“違い“があるらしいですよ。
「卵」と「玉子」の違いはナニ?
「卵」と「玉子」。わたしは“感覚“で適当に使い分けているだけですが、なんとなく、老舗の卵料理には「玉子」が付くイメージ。例えば、北区王子にある、江戸初期から続く老舗「王子扇屋」の名物が「厚焼玉子」と表記されるように…。
実際のところ、「卵」と「玉子」には、どんな違いがあるのでしょう?
画像出典:photoAC
辞書『学研 現代新国語辞典』で「卵」という言葉を調べてみると、
①鳥・魚・虫などが産み、こども・ひながかえってくるもの。多くは円形または楕円形。殻やまくなどに包まれている。
②特にニワトリの卵、鶏卵。鶏卵を使った料理には「玉子」とも当てる。
③まだ一人前になっていないこと(人・もの)
と書いてありました。
今回調べた辞書には、見出しの漢字表記欄に「玉子」単独では載っておらず、あくまで、「卵」という言葉の一要素であり、「鶏卵を使った料理」に対して使う限定的な表現のようです。
辞書に従って考えてみると、「卵」は、魚や虫なども含め、生き物すべての「たまご」を指します。魚の卵、カエルの卵…というように。
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ただ、②にあるように「卵」と単体で用いられるときは、鶏の卵を指すこともある…ということです。
これは、わかりますよね。レシピの材料に「卵」とだけ書いてあっても、誰も鮭の卵とかヘビの卵とは思わず、鶏の卵だと思いますし(笑)。
一方、「玉子」は、「卵」の中でも「鶏の卵(鶏卵)」に限定され、さらに、「調理したもの」に限定されて使われるようです。
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「玉子」が「鶏卵を使った料理、調理された鶏卵」であるなら、逆に、「調理されてない鶏卵」は「卵」と表記されると言えますよね。
簡単に言うと、生の鶏卵は「卵」、火を通した鶏卵は「玉子」というわけ。
これに基づけば、「卵売り場」を「玉子売り場」と書かないことも、「卵かけご飯」を「玉子かけご飯」と書くと違和感があるのも納得出来ますよね。
「たまごやき」は「玉子焼き」、「たまごどん」は「玉子丼」、「ゆでたまご」は「ゆで玉子」、なまたまごは「生卵」となるわけです。
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とはいえ、実際には、「卵焼き」とか「ゆで卵」との表記もよく見かけます。厳密な決まり…ということではなく、あくまで、使い分ける際の“目安“といった感じですね(笑)。
ちなみに、「たまごやき」を「卵焼き/玉子焼き」と書くように、同じもの・同じことを表現するのに複数の言い方や書き方などが一つの時代、一つの社会で共存している状態のことを「ことばのゆれ」と呼ぶそうですよ。
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「卵」と「玉子」の違いについて紹介しましたが、ふと疑問が…。
なぜ、「卵」と「玉子」、2つの表記が存在することになったのでしょう?
「卵」と「玉子」2つの表記が存在するのはナゼ?
いろいろ調べてみたものの、残念ながら、はっきりした理由はわかりませんでした。
とりあえず、ひとつの可能性として紹介すると…。
平安時代には、卵を「かいこ」や「かいご」と呼んでいたそうです。ところが、「蚕(かいこ)」と音が似ていて紛らわしい!そこで別の表現として、卵が丸い玉のような形をしていることから「玉から子どもになる」→「玉の子」→「玉子」が生まれたとか。それが室町時代あたりから使われ始め、江戸時代に広まったそうです。
「蚕」との紛らわしさをなくすため、「玉子」という新たな言葉が生まれたものの、「卵」も消えずに残った。そのため、「卵」と「玉子」の2つの表記が存在するってことのようです。「ことばのゆれ」の始まりですね(笑)。
ちなみに、鶏は二千年以上前に日本に入ってきたそうです。けれど仏教の影響で「卵を食べることは殺生になる」とされ、長い間、食べられませんでした。しかし、室町時代ごろに「卵は生き物ではないから殺生にならない」と解釈されるようになり、次第に食べるようになっていったみたいです。
そして、江戸時代から本格的に鶏が飼育され、鶏卵を食べる文化がより広まりました。その過程で「玉子」という表記も、日本最古の料理書『料理物語(1643年刊行)』など、料理関係の文献に多く登場するようになるそうです。
余談ですが、江戸時代にはこんな卵料理もあったそうですよ。
画像出典:静岡県観光my旅しずおか
これは、鶏卵とだし汁だけで作る「玉子ふわふわ」という料理。
ユニークで斬新な名前ですが、江戸時代に静岡の袋井宿の大田脇本陣で提供されていた名物料理なんですって。
1813年に大阪の豪商・升屋平右衛門が書いた旅日記『仙台下向日記』にも「東海道袋井宿の大田脇本陣で朝食の膳にのった」と書かれているそうで、表記も「玉子」とあります。ちょっと見づらいけど。
画像出典:袋井市観光協会パンフレット
身分が高い人たちの宿泊施設だった本陣で提供されていたらしいので、“特別“な人たちだけが食べることが出来た、江戸時代の“セレブ飯“といったところかな(笑)。
ちなみにこの「玉子ふわふわ」、袋井市観光協会の力で再現されて、今でも袋井市内の飲食店で食べられるそう。
…ということで、今回は、使い分けが曖昧な「卵」と「玉子」について紹介しました。厳密に決められているわけではないようですが、生の鶏卵は「卵」、火を通した鶏卵は「玉子」と使い分けると、これまでの“曖昧“で“感覚的“な使い分けよりは、しっくりきます。もし、迷った場合は、「卵」と書くか、ひらがなで「たまご」と書くのがよさそうですけどね(笑)。
<参考文献>
WEB
『マイナビ子育て〜卵と玉子の違いがわかる!意味で漢字を書き分けよう〜』
https://kosodate.mynavi.jp/articles/20605
『放送研究と調査〜“卵焼き“より“玉子焼き“ 日本語のゆれに関する調査(2013年3月)から①〜』
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2013_09/20130903.pdf
『教えて!たまご先生〜たまごかけご飯は、誰が初めて食べた?〜』
https://www.japan-tkg.jp/column/2022/09/%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%81%94%E3%81%8B%E3%81%91%E3%81%94%E3%81%AF%E3%82%93%E3%81%AE%E6%AD%B4%E5%8F%B2/#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E5%88%9D%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%9F%E3%81%BE%E3%81%94%E3%81%8B%E3%81%91,%E3%82%82%E5%8B%A7%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
『大熊養鶏場・かっぱの健卵〜養鶏場が解説!「卵」と「玉子」の違いをわかりやすく教えます!〜』
https://kappa-egg.com/?p=1078
『 ジャパンナレッジ・日本語、どうでしょう?〜「たまご」は「卵」か「玉子」か?〜』
https://japanknowledge.com/articles/blognihongo/entry.html?entryid=298
『静岡県観光・my旅しずおか〜たまごふわふわ〜』
https://shizuoka.mytabi.net/hamamatsu/archives/tamagofuwafuwa.php
『袋井市観光協会〜江戸時代の名物料理袋井宿「たまごふわふわ」〜』
https://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/material/files/group/87/tamagohuwahuwa.pdf