昨年12月28日、ピエール・ラコットの『パキータ』の主役を踊ったロクサーヌ・ストヤノフがエトワールに任命された。次のエトワールは誰?とバレエファンが予測する中で、最も下馬評の高かったのが彼女である。テクニック面でも優れ、また、たとえばピエール・ラコットの創作『赤と黒』で召使いエリザ役を見事に演じ、芸術面でも優れていることを証明したロクサーヌ。2013年に入団し、2016年にコリフェ、2018年にスジェ、2022年にプルミエールに上がり、その間にクラシック作品もコンテンポラリー作品も多数踊っている。オペラ座バレエ学校の生活を追ったドキュメンタリー『エトワールへのみち』に登場した生徒のひとりで、学校卒業年の入団試験に受からず涙を流した彼女。その無垢な涙にファンになった人が多いという。念願だった『ドン・キホーテ』のキトリ役はすでに経験済み。彼女が踊りたいと願うもうひとつの作品は『椿姫』だが、これはもう少し成熟してから取り組みたいと語っていた。エトワールとしてのデビューは、初役で取り組む『オネーギン』のオルガ役となる。
3人の新しいプルミエ・ダンスールと5名の新しいスジェ
昨年11月16日にコール・ド・バレエの昇級コンクールが行われた。コリフェからスジェ、スジェからプルミエール・ダンスールは任命方式ということで、今回はカドリーユからコリフェへのコンクールのみだった。昨シーズンはスジェからプルミエ・ダンスールへの昇級のみが試験的に任命制ということで、コンクール直後に男女それぞれ1名の昇級が発表されたのだが、今シーズンの2つの階級の任命は一体いつ発表されるのか?と......。
1月22日、ジョゼ・マルティネス芸術監督の提案を受けて総裁アレクサンドル・ネーフが、プルミエ・ダンスール3名とスジェ5名を任命したことが発表された。新プルミエール・ダンスーズはマリーヌ・ガニオとカン・ホヤン、新プルミエ・ダンスールはアンドレア・サーリである。彼らの日毎のステージ上での活躍ぶり、その実力を思えば、文句のつけようのない当然の結果と言える。新しい階級の適用は今年の1月1日に遡るそうだ。
プルミエール・ダンスーズとなったマリーヌ・ガニオは最近では『パキータ』のパ・ド・トロワで実に正確で端正にクラシックのステップを披露。クラシック作品において、カンパニーが頼りにする存在なのだろう。この『パキータ』に限らず、『白鳥の湖』『ジゼル』などドゥミ・ソリストとして踊る作品でも、コール・ド・バレエとしても毎晩のようにステージを務める重用ぶりだ。また演技者としても優れている彼女は、バンジャマン・ミルピエが芸術監督時代には『イヨランタ/くるみ割り人形』の主役に抜擢され、オーレリー・デュポンが監督の時代には『リーズの結婚』のリーズ役に。またマッツ・エクの『カルメン』ではユーゴ・マルシャンをパートナーに主役のカルメン役を踊っている。『マイヤリング』ではルドルフの妻、ルドルフの妹、ルドルフの愛人に配役されているほどで、もっと早くにプルミエール・ダンスーズに昇級していてもおかしくなかったといえるダンサーだ。3月27日から始まる『シャロン・エイアル/マッツ・エク』ではエクの『アパルトマン』で"ピンク"にオニール八菜とダブルキャストで配役されている。ますますの活躍が期待できそうだ。
プルミエール・ダンスーズに上がったもう1名はカン・ホヤンだ。韓国人の彼女はオペラ座のバレエ学校では学んでいないが、ほっそり長い手脚が美しい彼女の踊りのエレガンスはまさにパリ・オペラ座のダンサーである。2018年に22歳とほかのダンサーに比べると高年齢で入団した彼女は、2020年にコリフェに昇級。『マイヤリング』の主役マリー・ヴェツラ役に抜擢されたのはコリフェ時代のことだ。2022年にスジェに上がり、『ドン・キホーテ』のキトリ役にも配役され、ヌレエフ作品をしっかりとした技術で華やぎいっぱいに踊る一方、イリ・キリアンの『Gods and Dogs』やウィリアム・フォーサイスの『Blake Works I』ではその華奢な肢体を柔軟に動かしてステージ上で輝いていた。ほかのダンサーには見られない、センシュアルな魅力を放つ彼女。次はどの作品で彼女の踊りを楽しめるのだろうか。
プルミエ・ダンスールに上がったのはアンドレア・サーリ。2016年に入団した彼は、2019年にコリフェ、21年にスジェに。ネコ科の動物のようなしなやかさと強さの持ち主で、過去において『ラ・バヤデール』ではファキール役、『真夏の夜の夢』ではパックを演じている。コンテンポラリー作品に配役されることも多く、入団1年後に創作に参加したアレクサンダー・エクマンの『Play』ではプティペールで大先輩のフランソワ・アリュとふたりで互角に踊るという喜びに恵まれた。芸達者なことから『パキータ』のイニーゴ役、『マノン』のレスコー役にも配役された彼。最近ではイネス・マッキントッシュをパートナーに『ジゼル』のアルブレヒト役を好演している。この昇級で念願のプリンス役へ一歩近づいたといえそうだ。
コリフェからスジェに上がった女性ダンサーは2024年にコリフェに上がったエリザベス・パーティントンと2023年にコリフェに上がったルナ・ペニェ。ふたりとも『ジゼル』の"収穫のパ・ド・ドゥ"を踊っている。ルナは『くるみ割り人形』の妹役に配役され、またつい最近カルポー・ダンス賞を受賞した。ふたりともキャリアが短いだけに、観客はステージでの活躍を見る機会にはあまり恵まれていない。芸術監督の目を信じ、今後ドゥミ・ソリストとして踊るふたりのステージに期待しよう。
コリフェからスジェに上がった男性ダンサーはマチュー・コンタ、ロレンツォ・レッリ、マリウス・ルビオの3名である。男性エトワールが不足していることを考えると、この昇級で彼らのエトワールへの距離がぐっと縮まったといっていいのかもしれない。マチュー・コンタは2011年に入団し、2013年にコリフェに上がっている。そこから12年とスジェに上がるまで長かったが、その間、2022年1月1日にはオニール八菜をパートナーに『ドン・キホーテ』で代役としてバジリオ役でステージに立った。2月8日から始まる『オネーギン』では過去にフロリアン・マニュニョネやジェレミー・ルー・ケールといったプルミエ・ダンスールが踊ったグレミン公爵役に配役されている。
彼に比べるとトントン拍子の昇級といえるのはロレンツォ・レッリだろう。2023年に入団したイタリア人の彼は、その年のコンクールで昇級を決め、2024年にスジェに上がっている。『ジゼル』ではエリザベス・パーティントンを相手に踊った収穫のパ・ド・ドゥで会場から大きな拍手を得ていた彼。『パキタ』のパ・ド・トロワでもしかり。『眠れる森の美女』では主役を踊るという噂も聞こえ......。長身、美形の彼。この調子でオペラ座のピラミッドを上がってゆくのだろうか。
3人目は2019年に入団したマリウス・ルビオで、彼は2024年にコリフェに上がった。公演『若いダンサーたち』ではコンテンポラリー系作品に配役されていた彼。オハッド・ナハリンの『Sadeh21』やアレクサンダー・エクマンの『Play』も踊れば、ローラン・プティの『カルメン』にも配役され......。不思議な個性と存在感をステージで感じさせる彼が、今後スジェとしてどういった作品で活躍を見せるのかが興味深い。