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アジアの新たな名作『Brotherブラザー富都(プドゥ)のふたり』心揺さぶる熱演が絶賛!主演ウー・カンレンインタビュー

  • 2025.1.27

『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』
©2023 COPYRIGHT. ALL RIGHTS RESERVED BY MORE ENTERTAINMENT SDN BHD / ReallyLikeFilms
 
 
クアラルンプールの最下層の街で、兄弟として成長してきたアバンとアディ。兄アバンは聾唖(ろうあ)というハンディを抱えながら懸命に生き、弟アディは簡単にお金を手に入れるために危険な世界に足を踏み入れています。そんな兄弟を中心に貧困層の人々の暮らしを見つめ、社会の歪みをあぶり出したジン・オング監督の新作映画『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』が、2025年1月31日に日本でも劇場公開されます。
 
マレーシア・台湾合作の本作はそれぞれの国で大ヒットを記録し、米アカデミー賞の国際長編映画賞にマレーシア代表としてエントリーされました。そんな話題作で兄アバンを演じたのは、台湾の俳優ウー・カンレン。台湾のアカデミー賞(金馬奨)で最優秀主演男優賞を獲得するなど、本作での熱演が絶賛されています。
 
今回、「おしゃれ手帖web」では、ウー・カンレンにオンラインにてインタビュー。難役に挑戦した思いや撮影秘話をうかがいました。

ウー・カンレンのポートレイト

台湾とマレーシアの手話が違うことを知り焦りました

――マレーシアを舞台にした映画に、台湾の俳優であるカンレンさんが出演した経緯を教えてください。

ウー・カンレン(以下、カンレン):映画でもドラマでも、縁を大事にしています。この映画が撮影に入る1年前に脚本を見せてもらう機会がありました。当時は脚本が未完成でしたし、僕自身も休養期間に入っていたので、そのままになっていました。でも、この脚本のことが心に残っていたので、それなら自分から監督に連絡をとるべきだと思いました。まだチャンスがあれば役に興味があります、と尋ねてみたのです。

 ――カンレンさんが演じたアバンは、聾唖(ろうあ)という設定です。手話を含めて、役作りで苦労した点はありましたか?

カンレン:役に決まってから、台湾で手話を教わりました。その後、撮影でマレーシア入りしたのですが、そこで初めて、台湾の手話とマレーシアの手話が違うことを知り、ものすごく焦りました。もちろん手話には国際的に共通する手の動きがありますが、言葉と同じで、地域ごとの手の動きもあるんです。さらに、流行り言葉のように、時代によって手話も変わってくるということを教わりました。ですから、今回は、今のマレーシアならではの手話も多く盛り込んでいます。

弟役のジャックさんの支えがあったから全身全霊で取り組めました

『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』主演のウー・カンレン(左)とジャック・タン
©2023 COPYRIGHT. ALL RIGHTS RESERVED BY MORE ENTERTAINMENT SDN BHD / ReallyLikeFilms

――アバンとアディの二人からは、兄弟愛のような深い絆が伝わってきました。アディを演じたジャック・タンさんとは、演技の打ち合わせをされたのですか?

カンレン:ジャックさんには心から感謝しています。僕がマレーシアのことをよくわかっていないので、彼は自分も演じないといけないにもかかわらず、通訳を兼ねていろいろなところに連れていってくれました。街でショッピングをしたり、彼が生活している地域に行ったり。僕は劇中でニワトリを殺してさばくシーンがあったのですが、ジャックさんにはそのシーンがないにもかかわらず、一緒に現場まで来て、さばき方を通訳してくれました。彼が丁寧に寄り添ってくれたことが私にとって大きな心の支えになりました。おかげで僕は全身全霊でアバン役に取り組むことができました。

『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』
©2023 COPYRIGHT. ALL RIGHTS RESERVED BY MORE ENTERTAINMENT SDN BHD / ReallyLikeFilms

――ジン・オング監督の現場に初参加されて、いかがでしたか?

カンレン:監督はプロデューサー業において長年のキャリアがありますが、監督としては新人でした。僕もマレーシア人を演じたのは初めてなので、いくつもの初めてが重なり、緊張しつつもワクワクした現場でした。撮影はインド人のカメラマンでしたから、国際色も豊かでした。新人監督とは思えないほど順調に進み、チーム一丸となって良い雰囲気で撮影できたというのはレアなケースだと思います。

痩せこけるために数日間の断食をした結果……

『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』
©2023 COPYRIGHT. ALL RIGHTS RESERVED BY MORE ENTERTAINMENT SDN BHD / ReallyLikeFilms

――カンレンさんの熱演を含めて多くのシーンが感動的で心に残る作品でした。ご自身では、どのシーンが思い出深いですか?

カンレン:撮影を始めるにあたってマレーシアの市場に到着したときに思ったことは、自分はやはりマレーシア人の外見をしていないということです。肌は白く、まったく現地になじんでいませんでした。そこで、日焼け止めを塗らずに、日が強い場所を探して、日焼けをしました。また、僕の役は痩せていないといけないので、食事をあまり食べず、空腹のままで撮影をしていました。

 ――それはつらいですね。

カンレン:面白かったのは、最後の方のシーンのために痩せこけないとならず、数日間、水だけ飲んで、断食をしたのです。そうしたら、助監督が「おかしいなあ。痩せているけれども若返って見える」と言ったんです。ご飯を食べていないから痩せてはいるけれど、なぜか顔色が良かったんです。断食というのは人の細胞を若返らせるんだな、というのを立証できました(笑)。

ウー・カンレンのポートレイト

――本作での演技が高く評価されています。カンレンさんのキャリアにおいて、本作はどのようなものになると思いますか?

カンレン:42歳になり、中堅世代といわれるようになりました。これまでは、好奇心の赴くままに個性的な役にも挑戦してきましたが、今回の役を演じて多くの拍手をいただいて思ったことは、シンプルな役ほど人間の奥深さが滲み出るということです。これからは自分の年齢と相談しながら普通の人々をピュアに演じたいですね。僕にとって原点回帰となった作品です。

来週は、昨年12月に来日したジン・オング監督のインタビューをお届けします。

ウー・カンレン

PROFILE

1982年11月24日、高雄生まれ。大学卒業後、モデルを経て2007年、25歳の時に「沿海岸線徵友」(海岸沿いで友達募集中)というクイア短編映画でデビュー。2009年の出演作『秋のコンチェルト』(TVシリーズ)で人気を博す。日本では、宮部みゆきの『模倣犯』Netflix台湾版の主演俳優として知られる。本作『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』の演技を評してイタリアのメディアは“東洋のロバート・デ・ニーロ”と称賛。金馬奨主演男優賞をはじめ、各国の映画祭で最優秀演技賞を獲得している。

『Brotherブラザー 富都(プドゥ)のふたり』

クアラルンプールの富都地区にあるスラム街で、支え合いながら生きてきた兄弟の物語。不法滞在者二世ともいえる人々や様々な国籍・背景を持つ貧困層の人々が多く暮らしている地域で、身分証明書(ID)を与えられず、兄弟として成長してきたアバンとアディ。聾唖者のアバンは市場の日雇い仕事で堅実に生計を立てているが、アディは簡単に現金が手に入る裏社会と繋がっている。そんなある日、アディの実父の所在が判明し、ID発行の可能性が出てきたが……。

監督・脚本:ジン・オング
出演:ウー・カンレン、ジャック・タン、タン・キムワンほか
配給・宣伝 : リアリーライクフィルムズ
©2023 COPYRIGHT. ALL RIGHTS RESERVED BY MORE ENTERTAINMENT SDN BHD / ReallyLikeFilms

2025年1月31日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、他にて公開

構成・文

ライター 中山恵子

中山恵子

ライター。2000年頃から映画雑誌やウェブサイトを中心にコラムやインタビュー記事を執筆。好きな作品は、ラブコメ、ラブストーリー系が多い。趣味は、お菓子作り、海水浴。

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