2025年の幕開けを寿ぐ「おめでたいモチーフ」大集合
皇居三の丸尚蔵館で開催中の「瑞祥のかたち」[2025年1月4日(土)~3月2日(日) ]を見て来ました。
伊藤若冲の鳳凰、横山大観の富士山など、新たな年の幕開けを寿ぐ「おめでたいモチーフ」が一堂に会します。
蓬莱山や富士山、宝船、鶴亀と松、吉兆の霊獣などの瑞祥のかたちを表した皇室伝来の書跡・絵画・工芸品の名品に出会える展覧会です。
※展示室内は個人利用にかぎって撮影可能です。「撮影禁止」マークのついている作品は、原則撮影禁止です。撮影には注意事項をご確認の上、展示室内の指示に従い撮影してください。
宝船に乗っておめでたいモチーフ巡りへ《宝船「長崎丸」(たからぶね ながさきまる)》
会場を入ると鼈甲細工(べっこうざいく)が見事な《宝船「長崎丸」》が出迎えてくれました。
作者は、宝永6年(1709年)から続く鼈甲細工の老舗・江崎家6代目江崎栄造(えざきえいぞう)。大正天皇(たいしょうてんのう)が大正5年11月に福岡県下を行幸の際の、長崎県からの献上品だそうです。
長崎県の農産物が積載された宝船が、日輪に鶴を描いた帆に風をはらみ、波を蹴立てて進む姿です。宝船に乗って伝説の島・蓬莱山(ほうらいさん)を目指しておめでたいモチーフ巡りへ出発です。
《宝船「長崎丸」》 江崎栄造 大正5年(1916) 玳瑁(たいまい、ウミガメの一種)、木、蒔絵 皇居三の丸尚蔵館収蔵 展示期間:1/4~3/2
伝説の島・蓬莱山巡り、鶴と亀と寿老人(じゅろうじん)
亀の甲羅に乗る島《蓬莱図(ほうらいず)》
狩野常信(かのうつねのぶ)筆《蓬莱図》(左)。
大海に浮かぶ大きな亀の甲羅の上に松の緑と満開の桜が咲き乱れる岩山が聳えています。 蓬莱山は、古代中国の神仙思想にある不老不死の仙人が住むという東海上の伝説の島で、巨大な霊亀の上に聳える山として描かれることが多くあります。
日本に伝わり、霊峰・富士山を蓬莱山と重ねるようになり富士信仰が盛んになりました。
右は、岩瀬忠震(いわせただなり)筆、林学斎(はやしがくさい)、《旭日波涛図幷賛(きょくじつはとうずならびにさん)》です。
左から、《蓬莱図》 狩野常信 江戸時代(17~18世紀) 絹本着色 一幅、《旭日波涛図幷賛》 岩瀬忠震筆、林学斎 江戸時代、万延元年(1860) 絹本着色 一幅 どちらも皇居三の丸尚蔵館収蔵 展示期間:1/4~2/2
長寿への願いが込められた吉祥画《寿老人松鶴竹亀之図(じゅろうじんまつつるたけかめのず)》
幕末から明治にかけて活躍した南画家(文人画家)・野口幽谷(のぐちゆうこく)筆の《寿老人松鶴竹亀之図》です。
中央には、中国風の衣装に長い杖を持ち、白鹿を従えた白髭の寿老人が描かれています。 寿老人の顔と衣装の自然な陰影は、西洋絵画の表現を取り入れているとされ、不思議な存在感をかもしだしています。 向かって右は、松に鶴、左には亀に竹が描かれおり、「長寿を願うモチーフによる吉祥画」の典型だそうです。
絵の前に立つとゆったりとして長生きできそうな雰囲気に包まれる吉祥画です。
野口幽谷は、維新後は、皇室や宮内省依頼の御用画を数多く制作し、明治26年(1893)には帝室技芸員(ていしつぎげいいん)を拝命しています。
《寿老人松鶴竹亀之図》 野口幽谷 明治22年(1889頃) 絹本着色 三幅 皇居三の丸尚蔵館収蔵 展示期間:1/4~2/2
モフモフまったり《鶴巣籠置物(つるすごもりおきもの)》
五代 清水六兵衛(しみずろくべえ)作の《鶴巣籠置物》(右)です。
タンチョウが卵を温めている姿だそうです。嘴を胸の前の羽毛に乗せてふわふわの白い羽毛で卵を包む姿はモフモフしてまったり感があります。
左は、塚田秀鏡(彫金)、黒川義勝(鍛金)の《双鶴置物》です。
右から、《鶴巣籠置物》 五代 清水六兵衛 昭和8年(1933) 陶磁 1点、《双鶴置物》 塚田秀鏡、黒川義勝 大正4年(1915) 銀、彫金、鍛金 1点 どちらも皇居三の丸尚蔵館収蔵 展示期間:1/4~3/2
吉兆のしるし、霊獣の姿、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)《旭日鳳凰図(きょくじつほうおうず)》、麒麟や唐獅子も
高貴さの象徴である伝説の鳥、鳳凰(ほうおう)は古代中国では優れた天子が現れる吉兆として尊ばれました。 同じく霊獣とされる麒麟(きりん)と唐獅子(からじし)の威厳のある姿は、世の安寧と泰平の願いが込められています。
会場には、伊藤若冲の《旭日鳳凰図》、十二代 酒井田柿右衛門(さかいだかきえもん)の《白磁麒麟置物(はくじきりんおきもの)》、前田青邨(まえだせいそん)の《唐獅子》ほか霊獣を表現した絵画や工芸品が華やかに新年を寿ぎます。※全て皇居三の丸尚蔵館収蔵
若冲《旭日鳳凰図》と《鳳置物(おおとりおきもの)》
伊藤若冲筆の《旭日鳳凰図》(中央)。 旭日に目覚めたかのように鳳凰が優雅に翼と尾羽を広げています。色鮮やかな羽は1本1本細密に描かれて鳳凰の神秘性と輝きを増しているようです。 雌雄の鳳凰は、富貴を象徴する大湖石(たいこせき)を模した岩の上に立ち、まわりには鳳凰を象徴する竹が描かれています。 明治宮殿の完成を祝して大谷光尊(おうたにこうそん)から献上された名品です。
右は二代 海野美盛(うんのよしもり)作の《鳳置物》です。 翼と尾羽の広がる姿は、若冲の「鳳凰図」が3Dになって画面から抜け出てきたようです。
左、《旭日鳳凰図》 伊藤若冲 江戸時代、宝暦5年(1755) 展示期間:1/4~2/2、右、《鳳置物》 二代 海野美盛 銀、彫金 1点 展示期間:1/4~3/2 どちらも皇居三の丸尚蔵館収蔵
大観の富士山《日出処日本(ひいづるところにほん)》
蓬莱山に重ねられて来た霊峰・富士山は、世界遺産にも登録されている日本を象徴する山です。
横山大観(よこやまたいかん)筆の《日出処日本》。天井まで届く展示ケースに収められた縦234.3㎝×横448.6㎝の雄大な富士山は圧巻です。
天空には赤い朝日が昇り、白い雪をいただいた富士山と並ぶと、日本の国旗・日の丸をイメージさせます。
「日出ずる處の天子 書を日没する處の天子に致す 恙無きや」
かつて聖徳太子が遣隋使の小野妹子に託した国書の一節を思い出させる画題です。日本からの国書に当時の中国の大国・隋の煬帝は激怒したとされています。 大陸の先進的な文化や仏教信仰を取り入れ、東アジアの新興国として当時の日の出の勢いの日本の気概を感じさせるエピソードです。
大観の描く富士山と太陽のモチーフは、明治・大正・昭和の激動の時代、西欧列強と伍してきた近代日本の理想や願いを描いた姿なのかもしれません。
《日出処日本》 横山大観 昭和15年(1940) 紙本着色 1面 皇居三の丸尚蔵館収蔵 展示期間:1/4~3/2
皇室伝来の収蔵品に見るおめでたい吉祥のかたち
皇居三の丸尚蔵館、「瑞祥のかたち」は3月2日(日)まで。
皇室伝来の収蔵品からおめでたい吉祥のかたちを表した書跡や絵画、工芸品の名品を堪能できる展覧会です。 是非お出かけください。※観覧は予約優先です。
ミュージアムグッズ
図録『瑞祥のかたち』(1,000円)は本展の吉祥のモチーフの意味や作品の来歴も分かり丁度良い展覧会のガイドです。 クリアファイルA4 瑞祥のかたち(350円)は展覧会にちなんだ図柄2種類から選べます。
ミュージアムグッズ 皇居三の丸尚蔵館
〇皇居三の丸尚蔵館
URL:https://shozokan.nich.go.jp/
住所:〒100-0001 東京都千代田区千代田1-8 皇居東御苑内
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
開館時間:9:30 ~ 17:00 ※最終入館は16:30まで
毎週金曜・土曜は夜間開館。午後8時まで開館。(入館は午後7時30分まで)
※ただし1月31日(金)と2月28日(金)を除く
休館日:月曜日(ただし2月24日は開館し、翌火曜日休館)、2月23日(天皇誕生日)
※その他諸事情により臨時に休館する場合があります
〇交通アクセス:
大手門(入門してから約100メートル)地下鉄各線の大手町駅(C13a出口)から徒歩約5分、JR東京駅(丸の内北口)から徒歩約15分
大手門以外からの入門※月曜日・金曜日閉門。その他皇居東御苑の公開日時に準ずる。
平川門 地下鉄東西線竹橋駅(1a出口)から徒歩約10分
北桔橋門 地下鉄東西線竹橋駅(1a出口)から徒歩約15分
〇「瑞祥のかたち」
会場:皇居三の丸尚蔵館
会期:2025年1月4日(土)~3月2日(日) ※前期:1月4日(土)~2月2日(日) 後期:2月4日(火)~3月2日(日) ※会期中、一部展示替えあり
入館料:一般 1,000円、大学生 500円
高校生以下および満18歳未満、満70歳以上の方は無料。入館の際に年齢のわかるもの(生徒手帳、運転免許証、マイナンバーカードなど)をご提示ください。
※障がい者手帳をお持ちの方およびその介護者1名は無料。
※予約優先制
※展示室内は個人利用にかぎって撮影ができます。
・「撮影禁止」マークのついている作品は、原則撮影禁止です。
(フラッシュ禁止、また、撮影の際は他のお客様にもご配慮いただき、長時間場所を占有しないようにご注意ください)
※動画、パノラマ撮影はご遠慮ください
*詳しくはホームページでご確認ください。