Text by 宇田春一(編集部)
ワールドカップまで残り約1年半となった中、大会出場を目指す各国は多種多様なルーツを持つ多重国籍の若手タレントを自国代表へ引き入れるために火花を散らしている。
過去に多重国籍と無縁と思われた日本代表もかつて酒井高徳(現J1ヴィッセル神戸)のブンデスリーガでの活躍により、アメリカ、ドイツが代表招集に向けて興味を抱いたという報道が出るなど、各国は才能の発掘に尽力している。
複数の国々が代表入りに向けて動いているとされる多重国籍の若手タレント5選手をピックアップした。
強豪3カ国が注視するフィジカルモンスター
クリスティアン・モスケラ
国籍:コロンビア、スペイン、フランス
ポジション:センターバック
バレンシアの下部組織で育ったモスケラは、コロンビア人の両親の下で生を受けた。スペイン・バレンシア州アリカンテ県出身のモスケラは育成年代のスペイン代表で活躍し、東京五輪の予備メンバーに選出されるほどの才能を見せた。
身長191センチの高身長と優れた身体能力を生かした空中戦の強さはラ・リーガ屈指の強さを誇り、裏への対応もスピードに乗った相手アタッカーにすさまじい速さで追いつく。フィジカルの強さも一級品であり、右サイドバックもこなせるポリバレントな才能を持ち合わせる。
これまでは年代別スペイン代表を選択してきたが、両親の母国であるコロンビアやフランスも食指を伸ばしている状況だ。
スペインはロビン・ル・ノルマンやエメリク・ラポルトらフランス出身選手がセンターバックに名を連ねるなど、外国出身、自国出身選手が激しい競争を繰り広げている。ポジションを確保するため、モスケラが他国にくら替えする可能性は十分にある。
フランスの神童に忍び寄る魔の手
アイユーブ・ブアディ
国籍:フランス、アルジェリア
ポジション:セントラルミッドフィールダー
エデン・アザールに続く才能と称されるリールアカデミー出身の17歳は、UEFAヨーロッパカンファレンスリーグのクラクスヴィーク戦(フェロー諸島1部)で、先発フル出場を果たしてプロデビューを飾った。16歳と3日での出場は、UEFA主催の国際大会最年少出場記録となった。
プレーの最大の特徴は、落ち着きと冷静な判断力。主に中央のミッドフィルダーとしてプレーするセントラルミッドフィルダーだが、センターバックとしても多く起用されている。視野が広く、パスワークとゲームメイクに優れており、その若さからは想像もできない成熟したスタイルは攻守に隙がない。
昨秋からブアディがモロッコ代表を選択したとフランスの複数メディアが報じた。2025年アフリカ・ネーションズカップ予選のモロッコ代表メンバーに選出される見込みだというが、フランスはこの若き才能を手放してしまうのだろうか…。
北欧2カ国が火花を散らす守護神
フィリップ・ヨルゲンセン
国籍:デンマーク、スウェーデン
ポジション:ゴールキーパー
チェルシーで才能を見せつつあるスウェーデン・ロンマ出身の守護神は、デンマーク人の両親から生まれた。スウェーデンの名門マルメの下部組織からスペインへ渡り、マジョルカ、ビジャレアルの下部組織で経験を積んだ。
190センチの長身と幅広いウィングスパンでゴールに鍵をかけるスタイルに定評があり、空中戦やグラウンダーのシュートに対しても強さを見せる。昨季はイエローサブマリンの正守護神を務め、卓越したセービングと飛距離があるロングフィードでチェルシー行きの切符を勝ち取った。
世代別代表ではU-16、U-17代表はスウェーデンを選択していたが、U-21代表は両親の母国であるデンマークを選んだ。このままデンマーク代表入りが既定路線と見られているが、宿敵に天塩をかけて育てた才能を強奪されかけている状況に怒り心頭のスウェーデンも代表招集に動いているといわれている。
東欧の強豪が狙うセンターバック
ヤレク・ガシオロフスキ
国籍:スペイン、ポーランド
ポジション:センターバック
先述したモスケラとバレンシアのディフェンスラインを守るガシオロフスキはポーランド人の父とスペイン人の母の下、バレンシア州ポリニャー・デ・シューケルで誕生した。スペインの世代別代表常連の選手であり、今年1月で20歳を迎えた青年と思えない落ち着きを持っている。
創造性にあふれる左足を持っており、トランジションが切り替わる瞬間や相手の隙を突いたロングパスでチャンスを創造する。192センチの高身長を生かしたカバーリングを持ち味としており、相手のチャンスシーンを長い足でブロックする。
スペインが丹精込めて育てている才能だが、父親の母国であるポーランドがガシオロフスキの招集に動いているという。センターバックの競争が激しいスペインから、ポーランドへのくら替えはあるのだろうか。
無限の可能性を秘める侍
チェイス・アンリ
国籍:日本、アメリカ
ポジション:センターバック
アメリカ人の父親と日本人の母親を持つ神奈川県横須賀市出身のチェイスは、福島・尚志高時代から超高校生級と騒がれた逸材だ。3歳のときに渡米してテキサス州で9年間過ごし、中学から帰日してサッカーキャリアを開始した。
高校卒業後はドイツの名門シュトゥットガルトに加入し、リザーブチームで経験を積んだ。今季はトップチームでリーグ戦12試合に出場するなど、ドイツ1部でその優れた身体能力をいかんなく発揮している。
日本の未来を背負うセンターバックだが、アメリカ代表が動向を注視し続けている状況だ。これまでアイスランド、デンマーク、ドイツ、イングランドと才能あふれる若手選手を強奪してきたアメリカなだけに、このままサムライブルーに招集しなければ貴重な才能を奪われるかもしれない。