2023年7月にはANDAM特別賞を、2024年のLVMHプライズではカール・ラガーフェルド プライズを受賞したデュラン ランティンク(DURAN LANTINK)。賞金やメンターシップを手にしたデュランは、「受賞はとても名誉なこと。自分が長い間努力してきたことが認められたような気持ちになります」と話しながらも、その顔には満足そうな様子は見えない。プライズの受賞は、ブランドの将来を保証するものではないことを、彼はよくわかっている。大胆な作風とは裏腹に、リアリティを眼差ざした地に足ついた姿勢こそ、ブランドの魅力につながっているように思える。
1987年生まれ、オランダのハーグで育ったデュラン。「かなりオープンな家庭だった」といい、ハウスミュージックが隆盛していた90年代、家にはドラァグクイーンが押しかけパーティーを催すこともあった。多くの子どもたちは、服を着せ替えたりすることからファッションへの興味を深めていくものだが、デュランはその一歩先をいった。服にハサミを入れ、安全ピンで繋ぎ合わせ、ジーンズをTシャツに縫い付けてしまうのだ。「既存の服をどう変化させるのかを、幼いころからすでに考え始めていたのです。そんな無邪気な実践が、自分のアイデンティティとなっていきました」
デュランはアムステルダムに移住し、Sandberg Instituteにて修士課程を修了。在学中もまた、マーケットでたくさんの古着を調達しては、異なるアイテム同士をハイブリッドする研究を重ねた。「新しい布のようなフラットな素材にはあまり興味が持てなかったのです。スカートやジャケットといった既成品を手にして、それを何か違うものに変えたかった」。デュランにとって既製服は、想像を膨らませ前に進む方法を見つけるための重要なツールであった。
ある時から、人々はデュランのハイブリットの手法を「フランケンシュタイン」と呼び始めるようになる。「それは好ましいものではなく」と顔をしかめ、新しい手法を模索した。それは異なるアイテム同士を掛け合わせるのではなく、ひとつのアイテムにとどまりながら、その形を大胆に変えることで新しさを生み出していくというアイデアだ。こうして、デュラン ランティンクの代名詞とも言える、彫刻的フォルムが生まれることとなる。
デュランの挑戦は、服だけにない。その販売方法もまた、革新的なものだ。ウェブサイトより服を購入すると、アイテムとともに、それがユニークピースであることを保証するためのデュランの指紋と血の一滴がついた証明書が送られてくる。(曰く「非代替性トークン(NFT)への「ふざけんな」というメッセージ」だ)。アイテムが気に入らなくなったらウェブサイト上でリセールが可能で、ブランドにリメイクをお願いすることもでき、するとコートがドレスに変貌して戻ってくる。この仕組みであれば、ひとつのアイテムはより長い寿命を持つことができる。「そもそも、私たちはすでにものを再利用しているので、自分たちの服も再利用を続けていくのが自然だと思いました。自分たちの服が5年後にどうなっていて、その次に何が起こるのかを考えることは大事です」
これらのアプローチを、サステナブルと括ってしまうことは安直だ。しかし、「サステナブルという理由で、何かをしたことは一度もありません」とディランは言い、「ただ、私らしい作業法なのです」と断言する。以前は100%リサイクル品を素材にしていたが、現在のコレクションには新しい生地も使われている。サステナブルなブランドではあるが、それはあくまで結果論なのだ。
多くのピースを一点ものとして発表する彼の特異な方法について、「私はクチュールとプレタポルテの間にいるのかもしれない」と語るデュランは、常に新しい提案を模索している。「シェイプの探求自体は、歴史の中ですでに何度も試みられてきたことですし。世の中を見ると、何か変化が必要だとは感じているので、今の時代に新鮮に感じられるものを表現したいと思っていますが、正直なところ、自分のやっていることに対して、明確な答えはありません。ただ、自分のファッションを貫き、今に集中して楽しく過ごすことが大切だと思います。さらに前進する準備はできていて、これまでを過去のものとして置き去りにして、別のことをやろうとしています。次のシーズンを楽しみにしていてください」
Profile
デュラン・ランティンク(Duran Lantink)
1987年生まれ、オランダ・ハーグ出身、Sandberg Instituteにて修士課程を修了。既存の洋服を再構築するアバンギャルドな美学と環境意識を融合させた独自のスタイルを確立し、2023年7月にはANDAM特別賞を、2024年のLVMHプライズではカール・ラガーフェルド プライズを受賞。現在はアムステルダムとパリの2拠点で活動する。
Photos:Courtesy of Duran Lantink(Portrait)Patrick Bienert(2025年春夏コレクション) Gorunway.com(Runway Photos ) Interview & Text: Ko Ueoka Editor: Saori Yoshida
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