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20%も払うの!? 2025年のアメリカのチップ問題「チップフレーション」って?

  • 2025.1.23

アメリカ・シカゴに2年間住み、現在は日本でフリーアナウンサーをしている渋佐和佳奈さん。これまではシカゴから現地の最新事情を伝えてくれていましたが、これからはアメリカと日本、両国で暮らしたからこそ気づくトピックスを独自の視点で伝えてもらいます。日本に帰国後、渋佐さんが最初に選んだテーマは海外旅行好きの方にとっても悩ましい問題、「チップ価格の高騰」について。なんでこんなにチップが高いの? 現地の人はどう思ってるの!? リアルなレポートをお届けします!

2024年3月末に2年間のアメリカ・シカゴ生活を終えて帰国しました。もともと異文化に飛び込むことも、アメリカで感じる自由で開放的なムードも大好きだった私。せっかくのアメリカ滞在、シカゴ観光も国内旅行も、大好きなスポーツ観戦(しかも本場アメリカは世界最高峰の試合が観られる)も、観劇鑑賞もグルメも、貪欲に味わい尽くそう!という思いで過ごしました。
 
ただ、私のアメリカ生活はそもそもの物価高に加え、歴史的な円安まっただなかでした。シカゴに移った2022年春に1ドル120円に突入したかと思いきや、2年の間に一時151円を超えるまでに。どんどん更新される円相場最安値のニュースを見るたびに、嘆くを通り越して笑ってしまうほどでした……。アメリカでしか味わえないことを楽しむために、普段はなるべく自炊をしたり、観光がてら徒歩移動で節約したり、自分なりに工夫しながらの日々を過ごしたのも、いまとなってはいい思い出です。
 
帰国後も為替事情は気になり、つねに追っているのですが、2024年7月には1ドル161円90銭台をつけ、およそ37年半ぶりの円安水準を更新!! 一体どうなっていくんだと、2025年も注視するばかりです。

シカゴ在住時、むしょうにラーメンが恋しくなって人気の『RAMEN-SAN』で食べるも、22ドル+チップ4.5ドル(20%)で合計26.5ドル。仮に1ドル150円で計算すると、約4,000円+税です……! さらに値上がっている可能性もあると思い、ウェブサイトで現在の価格を見たところ据え置きだったので、なぜか一安心。

アメリカといえばハンバーガー!全米1位にも輝いた人気のハンバーガーレストラン『Au Cheval』へ。ハンバーガー16.99ドルにベーコン6.99ドルをトッピング、そしてチップ(20%)4.8ドルで、合計29ドル弱。仮に1ドル150円で計算すると4,350円+税でした。全米1位の人気とはいえ4,000円超えのハンバーガー、高過ぎる..….!

日本に帰国後に感じた「●●がない」って、最高!!

ラーメン一杯・ハンバーガーひとつに4,000円の超物価高&円安のアメリカから帰国して本当に痛感するのが、「日本は安くても、おいしくて質のいいものが手に入る」ということ。そして「チップを支払う必要がない!!」というのもかなり大きな喜びでした。無意識のうちに、地味にチップにも苦しんでいたのだなと実感します。日本はチップ文化がないのでついつい商品の本体価格だけに目が行きますが、チップで4.5ドル(700円近く)の上乗せって、冷静に考えても高い!
 
そしてみなさん、先ほどラーメンやハンバーガーの写真に、チップ(20%)とさらっと書きましたが、その率に驚きませんか!?
 
以前は10〜15%が相場だったチップも、今では15〜25%程に高騰、さらに、これまではチップが不要とされていた場所でも、要求するお店が増えてきているのです。私のシカゴ在住はコロナ禍以降。最初に驚いたのが「あれ、昔って、チップって15%くらいじゃなかったっけ?」でした。そんなチップについて、最近アメリカで「チップフレーション(Tip-Flation)」や「チップ疲れ(Tip Fatigue)という言葉が広がっているのをご存知でしょうか。
 
チップフレーションとは、チップ(Tip)とインフレーション(Inflation)をかけ合わせてチップの相場がインフレのように上昇したことを指す造語で、インフレが常態化した2023年はじめから使われるようになりました。

なぜチップ相場が上昇したの?

チップフレーションの要因としては主に、下に挙げる2つが考えられています。
 
①新型コロナウィルスのパンデミック
コロナ禍で外食する機会が減り、生活が立ち行かなくなったチップ制のサービス業の人たちをサポートするため、人々が多めにチップを渡すようになったことからチップの相場が上昇。さらにはそのムーブメントに便乗しようとチップを期待する人・店がどんどん増えていった、という背景があります。
 
②レジの端末システムの変化
アメリカはキャッシュレス大国。現在はカフェやドーナッツ店、ファストフード店など、いわゆるカウンター越しの店員に支払いをして商品を受け取るスタイルの店のレジのほとんどに、タブレットが導入されています。
 
これまでは店員から商品の購入金額を告げられて、タブレットにクレジットカードをピッとかざし、レシートと商品を受け取り、「Thank you! Have a good day!」と笑顔でやりとりを終えられました。カフェやドーナッツ店、ファストフード店の支払い時は、必ずしもチップが必要な場面ではなかったのです。しかし今ではタブレット画面が容赦なく「Add a Tip?(チップを加えますか?)」と提案してくるようになりました。こうした現象は、なんと無人のドライブスルーやセルフレジでも起こっているのだとか……!

スマホのアルバムの中で奇跡的に発見した、ちょうどお客さんがタブレットに表示されたTipを選択している1枚。この店の画面には「$1」「$2」「$3」「No Tip」「Custom Tip(自分で金額を決める)」という表示がありましたが、店によっては「15%」「18%」「20%」と、率で表示してくるところもあります。

あなたはここで「No Tip」のボタンを押せますか

これまで通りチップを払いたくなければ「No Tip」を押せばいいだけなのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。私も以前はそう思っていました。この写真はちょうど店員さんが奥で商品の準備に入ったのか、チップ金額を選択する際、目の前にいませんが、ほとんどの場合は目の前にいるのです。そうすると店員さんの視線が気になり、勢いよく「No Tip」が押せない。こういうのって私だけなのかな? 日本人の気質もあるのかな?と思っていたのですが、アメリカに住む現地の人も、目の前にいる店員や後ろに並ぶ人の視線をプレッシャーに感じるそうです。自分の意思をしっかり持って主張する国民性のイメージがあったぶんこれには驚きました。あくまで私の推測ですが、アメリカの方はチップ文化があたりまえの環境で育ったからこそ、「No Tip」を自ら積極的に選択することへの、ある種の罪悪感を強く抱いてしまうのかもしれません。

極寒のシカゴ。かわいいカフェで体を温めてくれるホットチョコレートでほっと一息。ですがこちらも一杯$7.75(約1,200円弱)と、お値段は可愛くありません!さらにチップ(15%)をつけ合計9ドル(約1,350円+税)に。このお店もカウンター越しに提供してくれるスタイルですが、店員さんを目の前に、私はタブレットに表示された「No tip」を押せませんでした。

ただ、あらゆる場面で義務のようにチップを要求してくるこの状況には、現地の人も嫌気がさしているという報道も目にしました。

「アメリカ人の3分の1が『チップは制御不能になりつつある』と考えていることが調査で判明」というフォーブスの記事(2024年6月5日)。

チップは必要な収入源。驚くべきアメリカの最低賃金

ただし立場が違えば、ものごとの見え方が180度変わってしまうもの。アメリカにおいてチップはもらう側(サービスを提供する人)にとっては、重要な収入源であることを忘れてはいけません。
 
アメリカの最低賃金を調べてみたら驚きの事実が判明。アメリカ政府の定めている最低賃金は現在、時給7.25ドルですが、チップ制の従業員たちの最低賃金はなんと、時給2.13ドル……! 初めてチップ制の最低賃金が設定された1991年から、変わっていないのです。
 
アメリカは政府が定める連邦法に違反しない範囲で、各州は自由に法律を定めることができるので、実際には州ごとに最低賃金は違うのですが(たとえばワシントン州は一番高くて16.66ドル※2025年1月1日付で改定)、いまだに19の州で2.13ドルのままで設定されているのも現実。正直、2ドルちょっとという額には驚きました。「差額はチップで補われる」ことを前提条件にこのような特殊なシステムになっているのですが、改めてチップは会計時のオプションではなく、必須の支払いであることがわかります。
 
とはいえ、ただでさえ物価高&円安の2025年。慣れないチップ文化で必要以上に払ってしまわないように、アメリカを訪れる際、ぜひ参考にしていただきたい情報をまとめます。

チップを払うべき場所、払わなくていい場所はどこ?

チップを払うべき場所

レストラン…ディナーは基本20%、ランチは18〜20%
バー…1杯につき1~2ドル
タクシーやUberなどのライドシェアサービス…15〜20%
ホテルのルームサービス…1〜3ドル/1泊
ホテルの荷物を運んでくれる方…バッグひとつに2~3ドル(高級ホテルは5ドル程度)
バレットパーキング(ホテルやレストランで係員がお客様の車を出入庫するサービス)…2〜5ドル
フードデリバリー…10~20%
美容院やスパ…20%

原則、支払う必要なし!

ファストフード店
カウンター越しに提供されるスタイルの店
フードコート
 
※ただ、このようなお店でも、従業員の方がこちらの質問にていねいに対応してくれたり、素敵な対応をしてくれた場合、また、たくさんの注文をした場合はチップを渡してもいいかもしれません。

メニューやレシートをチェック! 「チップの二重支払い」に注意して

「チップを払うべき場所」として「レストラン」を第一に書いたので、ついついアメリカでレストランに行ったら「必ずチップは支払わなければ!」と感じられると思います。ですが、ここで要注意なことがひとつ!
 
最近、アメリカのレストランでは、お客さんが自由に金額を設定できるチップとは別に、「Service Charge(サービスチャージ)」というものを、店側があらかじめ率を決めて計上する店が増えてきているのです。その場合、さらにチップを払うと、合計してとんでもないチップを払っていることに……!!
 
どこで確認するのかというと、ほとんどの場合メニューの下の部分に「A discretionary service charge of ●●% will added to your bill.(意味:●●%の任意のサービスチャージをお会計額に含めています)」と記載されていたり、レシートに「Service charge ●●%」といった具合に表記されているので、これらを見逃さないように気をつけてくださいね。サービスチャージやチップと似た意味として「gratuity」「Restaurant Surchage」という言葉で表記されていることもあるので、これらは覚えておくといいかもしれません!
 
※「任意の」と書いてありますが、あまりにひどいサービスなどがない限り、このサービスチャージをなくしてほしいとお店側に要求することは、マナー上、よくありません。

私が利用したレストランでは、実際にあらかじめ3.25%のRestautant Surchargeが計上されていました。会計時に店員に渡すレシートにはチップを書く欄があるので、そこには当初渡そうと思っていたチップの率から3.25%差し引いた額を記入しました。

なかにはサービスチャージを20%近く設定してある店もあります。私はシカゴに来たばかりのころ「必ずチップを払わなければ!!」という意識が強く、あらかじめ上乗せされていたサービスチャージ20%に追加で20%のチップ=合計40%もチップを支払ってしまっていたことがありました。
 
しかし、ややこしいのが、サービスチャージはあくまで店のオーナーがその配分先を決めることができるので、サーバー以外の人にも分配されることもあり、実際に接客してくださったサーバーのもとに渡されるお金は減ってしまうかもしれないということ。そのため、もし20%近いサービスチャージが設定されていても、担当のサーバーさんがとてもいいサービスを提供してくださったら、心付けのチップを追加するととても喜ばれると思います。
 
慣れないチップ文化にチップフレーションも加わり、旅行などでアメリカを訪れた際は悩まれることもあると思うのですが、「チップは従業員の大切な収入のひとつである」ことを念頭に、本記事がよい判断材料になれば幸いです。今後も、日米両方での生活を比較しながら感じたアレコレをお伝えできたらと思います。

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