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信頼を勝ち取る「全打席フルスイングツッコミ」/ツッコミのお作法⑨

  • 2025.1.20

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最近、ラランドのサーヤがラジオ『月ノ兎』(TBSラジオ)で僕の話をしてくれていました。

「なんか顔見るとふざけたくなっちゃうんだよね、森本さんって」

「全員が一回打ち解けるじゃん」

「なめさせる天才だよね、人に。なめさせてあげる術があるというか。『なめていいよ』って言ってくれる感じ」

人としてこれが光栄なのかはギリギリのラインですが、芸人としては非常に嬉しい言葉です。よっぽどの天才じゃない限り、怖がられることになんのメリットもないですからね。

もちろん「なめてもらおう」と思って計画的になめられているわけではありません。ただ、たしかに最近は特にいじられるまでの初速が早くなっている気がします。サーヤは芸歴でいうと5年くらい後輩ですが、これでもかというくらいボケてきてくれます。この前なんてカメラ回ってない時間の方がボケてましたからね。これが彼女のいう「なめさせる」の結果なのかもしれません。

僕がやっているYouTubeチャンネル「タイマン森本」では、本編の後にゲストの方と2人でしゃべるアフタートークがあります。以前、ダウ90000の園田(祥太)が出てくれたときに「森本さんって、ネタ書いてる人にしては怖くなさすぎますよね」と言われました。これは自分としても目から鱗でした。

言われてみれば「ネタを書いている人=怖い」というイメージは、僕もネタを書く側ではありますが理解できます。これはその人に対する怖さというよりかは、自分という人間が見透かされてしまうのではないかという恐怖だと思います。それこそサーヤとかダウ90000蓮見(翔)はめちゃくちゃ接しやすい後輩ではありますけど、「つまらない人だと思われたくない」という気持ちが強くなって勝手に緊張してしまうのはあるかもしれません。

なので、基本的にはネタを書いていない人のほうが後輩からすれば親近感が持てるので緊張せずにしゃべりやすい、つまりなめやすい。そんな中で後輩から「ネタ書いている人なのにしゃべりやすい」と思われているのは、いいとこ取りな気がします。たまに売れてなくてネタも書いてないのに周りに威圧感与えてる人もいますけど、ああはならないよう気をつけたいものです。

「休みの日、何してるの?」と質問してきた大先輩

なぜそう思われているのか自分なりに考えてみたところ、「裏でもいっぱいツッコむから」なんじゃないかという結論にたどり着きました。僕もさすがに初対面の後輩からいきなりなめられたことは今のところほぼありません。それは後輩からすると「表ではああいう振る舞いだけど、裏ではどんな人なんだろう」と様子見をする部分があるんだと思います。そこからしゃべっていくうちに「この人、裏でも変わらないんだ。いっぱいツッコむ人なんだ」と理解されて、ボケの頻度が上がっていくと共にヘラヘラしてくるのが定番のパターンです。

裏表がない先輩に安心してしゃべりやすくなった経験は僕もあります。ネプチューンの堀内健さんと初めてご一緒させていただいたときのことです。当日まで僕はかなり緊張していました。子どもの頃から観てた大好きな大先輩です。テレビではいつも明るく元気な”ホリケン”さんだけど、実際はどうなんだろう……万が一めちゃくちゃ怖い人だったらどうしよう……。ドキドキしながら現場に向かいました。

集合場所は神奈川県逗子市、入り時間は早朝。余裕を持って到着するとスタッフさんから「ホリケンさんは今、マネージャーさんとカフェでゆっくりされててもう少しで来る予定です」と言われました。どうやら、どうしても逗子のカフェでお茶がしたくて1時間前からいらっしゃってるとのこと。あれ? なんだか思い描いていたホリケンさんっぽいぞ?

その後、カフェを目一杯楽しんだであろう満足げな表情で現場入りされたホリケンさんにご挨拶すると「森本くん?堀内健です!今日はよろしくね!」と、やはりイメージ通りの優しいフランクなトーンで返していただきました。

さらに、待ち時間には「森本くんは休みの日は何してるの?」「なんか趣味とかあるの?」とどんどん質問をしてくださいました。ホリケンさんのデビュー年って僕が生まれた年なんです。そんな上の先輩が自分に興味を持ってあれこれ聞いてくれるって、後輩からするとめちゃくちゃ嬉しいですよね。裏表がないことに加えて、興味を持っている姿勢を示されるのも後輩の緊張を解くポイントといえる気がします。それを見習ってライブの楽屋で後輩を質問責めにしてたら「こんなとこでもMCしないでください!!」と叱られました。ホリケンさん、あれどうやってやるんですか。

超大御所歌手がバレンタインチョコと一緒にくれたもの

来年、35歳になります。とうとう40代が視野に入ってきました。まだ今のところ大丈夫ですが、脳みそはこれから衰えていく一方のはず。

いずれツッコミが全然出てこなくなって「あのー、なんだっけ……。アレじゃないんだからさ!」と、情報量ゼロの発言をしたりもするでしょう。そうなった時に「どれだよ!」と後輩からいじられて、みんなに笑ってもらえる人間になりたいと思っています。

僕はどうやらすでに後輩から“緊張しない先輩”認定されているようなので、このままいけばそんな未来がやってきそうです。でも今よりもっと年の離れた後輩が増えてきたら、またちょっと接され方が変わる可能性はあります。仕事や業界を問わず、年齢や立場が上になるにつれて下の世代と打ち解けづらくなったり敬遠されたりするのは自然なこと。わかってはいるけど、孤独感があってちょっと寂しいですよね。なめられるまではいかなくても、一緒に仕事をする後輩から軽くツッコまれたりいじられたりするくらいのほうが気楽だ、という人はいるんじゃないでしょうか。

これは「ツッコミのお作法」ではなく「ツッコまれのお作法」になりますが、そういうときに大事なのは上の立場の人が後輩に対して率先してふざけてみせることなのかもしれません。3年ほど前、テレビ東京の音楽バラエティ「本家が聴かせてもらいます!」のMCを務めました。いわゆる「歌ってみた」動画を本家であるアーティストご本人が聴くという番組で、なんとゲストに和田アキ子さんが来てくださいました。

芸能界のレジェンドとの初対面、ど緊張しながら楽屋挨拶に行かせていただきました。恐る恐る扉を開けて「初めまして、本日お世話になりますトンツカタンの森本晋太郎と申します。よろしくお願いいたします」と頭を下げた僕に、アッコさんが「よろしくねー。はい、これ」とチョコレートをくださいました。実はその日が2月14日だったんです。まさかの心遣いに「いいんですか!?」と喜んでいると、アッコさんがニヤリと笑いながら一言、「義理やで!」と仰りました。

本番中でもないのに、どこの馬の骨だかわからないような若手芸人にボケてくださるそのサービス精神に衝撃を受けました。限界まで恐縮している僕を一瞬でほぐしてくれました。そこで「本命だと思ってないですよ!」とツッコませていただいたことにより、本番も楽しく進行することができてとても助かりました。それ以降、僕はアッコさんの虜です。

どうしたって目上の人に対してはツッコミづらいものです。僕の場合は仕事なので臆せず行かないといけないんですが、芸人じゃない方が相手の場合はツッコんでいいものかどうか迷うことはあります。でも、本番前にそんな形でボケてくださったら「収録でもきっとボケてくれるし、こっちもツッコんでいいんだな」と思えますよね。それをあんなスマートにやってのけるなんて、さすが大スターです。

「この人は絶対に打ち返してくれる」という信頼の積み重ね

ここまでの話をまとめると「裏表がないこと」「自分に興味があると示してくれること」「ふざけ方を見せてくれること」が、“後輩を萎縮させない先輩”になるために欠かせない要素といえそうです。

この連載で何度か言っていることですが、コミュニケーションとは結局のところ信頼だと僕は考えています。「いじってもツッコんでも大丈夫」と思ってもらえる関係を築くには、地道に信頼を積み重ねていくしかありません。僕が後輩になめられるのは「この人に何か言ったら、絶対になにかは返してくれる」というイメージを持ってくれているからだと思います。それは舞台上で一回うまくいけばそう思ってくれるわけではなくて、「どんなときでもちゃんとバット振ってくれるんだ」という積み重ねがあるからなんですよね。残念ながら空振ることも多々ありますが。

引用----

■ツッコミ名称

全打席フルスイングツッコミ

■ツッコミ事例

「なんだよそれ!!おい!!」

「テンポだけでしゃべんな!!」

「自由すぎるだろ!アメリカ出身!?」

■解説

表でも裏でも、どんな相手のボケもスルーせず常に全力でツッコむこと。基本中の基本だが、後輩の遠慮や緊張を解除するためにも有効。

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連載初回で、〈ボケロス削減ツッコミ〉と名付けて「どんなボケも絶対に切り捨てたり見捨てたりせずに必ず最後までツッコむ」という僕のポリシーを語らせていただきました。お客さんがいないところでもそのスタンスを変えないことが大事なんだと思っています。

これを読んでいる方がもし「後輩からツッコまれるぐらいの気安い存在でいたい」と思うなら、「後輩だから雑に返してもいいか」とか「後輩だから適当にいじっちゃおう」みたいなことはやめて、ひとつひとつのコミュニケーションをちゃんと丁寧に応じることがいちばんの近道なのかなと思います。そうすれば僕のように、気付いたら楽屋で後輩に囲まれていじられるような存在になれるはずです。……あれ、これって合ってますか?まあいいか、楽しいし。

(取材・文/斎藤岬)

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