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まだ読んでないなんて羨ましい、記憶を消してもう一度読みたいあの一冊。【TheBookNook #36】

  • 2025.1.17

【TheBookNook #36】では、八木さんが厳選する「記憶を消してもう一度読みたい!」と心から思える感動の3冊をご紹介。一度読んだだけで人生観が変わるほどの衝撃を与えてくれた、永久保存版の名作たち。究極の読書体験を、この新年のスタートにいかがですか。

文 :八木 奈々
写真:後藤 祐樹

叶うなら今すぐ記憶を消してもう一度読みたい一冊、皆さまにもありますか?

こうして書評を書かせていただいたり、なんとなく自分が今までに読んできた本の記録を見返していると、できることなら記憶を消してもう一度最初に読んだ時のあの感動を味わいたい……と強く思うことがよくあるのです。

もちろん二度三度と読み返すことで新たな発見があったりと、何度でも楽しめるのが本の魅力のひとつでもありますが、“初見の感動”はもう二度と戻ってきません。

そう、子供時代の純真無垢な心が戻ってこないのと同じように。

それほど一冊の本との出会いというのは尊いものなのだと私は思うのです。

今回は、年間平均200冊以上を読む私が、今すぐに記憶を消してもう一度読みたい小説を、3作品紹介させていただきます。

もし、まだ読んでない本がありましたら、初見の感動を思う存分、堪能してみてください。

1. 貴志祐介『新世界より』上/中/下

私が迷わず記憶を消したいと一番に頭に浮かんだのがこの一冊。

とにかく面白いです。

もう何度も読み返していますが、本作を越える衝撃に出会いたいと日々思うほど、初めて読んだときの強い快感が忘れられずにいます。

物語の舞台は千年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町。管理され、醜悪なものが徹底的に排除された、美しきユートピア。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。

「神の力」を得るに至った人類が手にした“確かな”平和……。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた……隠された先史文明の一端を知るまでは。

上中下巻と長篇のSF小説となっており、上巻は濃密で広大な世界観を描くための序章、背景からしっかりと描かれていくので少し退屈してしまうかもしれませんが、中盤からは怒涛の展開、本を捲る手が止まらなくなります。

読み進めていく中で何度も倫理観が揺らぐ感覚に陥り、ある種のホラーかもしれないとも思えるこの作品。初見の方はとにかく心して楽しんでください。脳が気持ちいい疲労感に包まれるはずです。

2. 歌野晶午『葉桜の季節にきみを想うということ』

ネタバレを避けてここで本作について言えることがあるとするならば、「誰もこの物語の結末を“当てる”ことは決してできない」ということ。

初見の方なら必ず、なんの違和感もなく、息を吸うように、“騙され”ます。

ああ、まだ読んでない方が本当に羨ましい……。

これぞ小説だからできる仕掛け。もちろん世界観が音を立てて崩れるどんでん返しも痺れますが、装丁のイラストとタイトルの意味を理解してしまった瞬間の衝撃は、今でも忘れません。

似たような設定や仕掛けのある物語はたくさん読んできましたが、それらとは大きく違っていて、自分の固定概念を覆されるようなスピード感で、読み手の想像力の限界を尽くさせてくる感覚。

主導権を握られてしまい悔しさ半分、本作に出逢えた歓喜半分の読後感でした。

正直、殺人が殺人を呼ぶような猟奇的な事件や起きるわけでも、怒涛の展開に慌てて思考を巡らせるわけでも、印象の強い登場人物がいるわけでもない物語ですが、難なく読ませてくる歌野晶午氏の筆力に圧巻。

是非、事前情報なしで読んでいただきたいです。いつかこの物語を私が忘れたころにもう一度読み直したいと思います。忘れられればですが……。

3. 辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』

瞬殺された母と疾走した娘。親友と呼ぶには距離のできた幼馴染がその娘の行方を追う本作品。

“だれに”とかではなく、いろいろな人物に少しずつ共感できた……いや、できてしまいました。

登場人物の女性たちは、互いに蔑みや嫉妬がありつつも、いわゆる“ドロドロ”とは違う。彼女たちはなんだかんだお互いを気遣い、都度、許したりもしていて、思春期の女友達や見え隠れする不穏な関係が、まさに“ありのまま”に描かれており、昔感じたような不快感さえ蘇ってきます。

人が何を口に出し、何を口にださないのか。

30代という特別な年齢の女性を巡る内面の物語。

そして、この本のタイトルでもある、ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ……。この言葉に込められた意味を知ったとき、あなたは想像を超える衝撃と感動で全身満たされること間違いありません。

物凄く不器用で、なおかつ物凄く深い母親の愛がこのタイトルに詰まっているのです。ただお互いに愛し、必要としていただけだったのに……。

一章と二章で視点が大きく変わるのですが、物語の根底にあるのは複雑な女性同士の格差や母娘関係にあるため、男性にとっては難しいと感じるテーマかもしれません。

辛くて悲しいけれど、もう一度初めて読んだ頃に戻って出会いたいあたたかい一冊です。

■感動体験をくれる1冊の本との出会いを今年も

まだ読んでいないというあなたが本当に、本当に、羨ましい3作品です。

伏線回収や大どんでん返しなど、何度読んでももちろん楽しめますが、やはり初回の感動はもう二度と味わえません。

一冊の本と出会うというのは、そういうこと。

もう二度とない感動をより多く味わうために、私は今年も毎日欠かさず本との出会いを探し続けます。

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