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【南青山】根津美術館 企画展「古筆切―わかちあう名筆の美―」

  • 2025.2.1

いにしえの能書の美―古筆切の名品が一堂に、重要文化財《高野切》もお披露目

根津美術館で開催中の企画展「古筆切―わかちあう名筆の美―」[2024年12月21日(土)~2025年2月9日(日)]を見て来ました。

古筆(こひつ)とは本来いにしえの人の筆跡という意味ですが、平安時代から鎌倉時代の優れた筆跡も狭義には古筆とされて来ました。 平安時代には、能書による『古今和歌集(こきんわかしゅう)』をはじめ勅撰和歌集や私家集の書写が貴族の間で贈答品や調度品として用いられました。

室町時代以降、優れた筆跡による歌集が一紙や一頁、数行単位で切断・分割された古筆切(こひつぎれ)が茶の湯の流行や鑑賞に用いられるようになります。 また桃山時代から古筆切を集めた手鑑(てかがみ)も流行しました。

本展は、平安~鎌倉時代の古筆切の名筆が一堂に会する展覧会です。

※特別な許可を得て撮影しています。館内は撮影禁止です。

出典:リビング東京Web

企画展「古筆切―わかちあう名筆の美―」展示風景 根津美術館

古筆切―平安~鎌倉時代の能書の書風を堪能する

仮名(かな)の最高峰、重要文化財《高野切(こうやぎれ)》(第三種)

雲母砂子(きらすなご)を全面に撒いた料紙に、素直で軽快な筆線が、まるで歌うように流麗な連綿で記された重要文化財《高野切》(第三種)(伝 紀貫之筆)(右)。 根津美術館の書の所蔵品として新たに加わった本作品は、今回がお披露目です。 現存する『古今和歌集』最古の書写本で、平安時代、11世紀当時の一流の能書による仮名の最高峰と言われる古筆切です。 高野山(こうやさん)に伝来したため、同じ写本から分割された「つれ」を全て「高野切」と呼びます。3人で分担して執筆したことが書風から想定され、それぞれ第一種、第二種、第三種と称されています。

左側は、《大字朗詠集切》(和漢朗詠集 巻下断簡)。平安時代の能書・伝 藤原行成(ふじわらのこうぜい)筆とされています。 行成の書は、整った落ち着きのある書風で、中国の書聖・王羲之(おうぎし)や平安の三蹟・小野道風(おののみちかぜ)の書を学び自身の書風を確立したとされます。藤原道長(ふじわらのみちなが)の個人的な依頼で清書もしていたそうです。

出典:リビング東京Web

右側、重要文化財 高野切(第三種) 伝 紀貫之筆 1幅 彩箋墨書 日本・平安時代 11世紀、左側、大字朗詠集切(和漢朗詠集 巻下断簡) 伝 藤原行成筆 1幅 彩箋墨書 日本・平安時代 11世紀 植村和堂氏寄贈 どちらも根津美術館蔵

出典:リビング東京Web

重要文化財 高野切(第三種) 文字の字形、連綿についての解説 ©根津美術館

古筆切の書風―優美さと個性と

12世紀は、優美さのある書風が引き継がれる一方で、個性的な書風も展開し、様々な書風の古筆の名品が見られる時代となります。

伝 源俊頼(みなもとのとしより)筆の重要美術品 東大寺切(とうだいじぎれ)(三宝絵詞断簡)(左)。

仏・法・僧の三宝(さんぽう)を分かり易く解説した絵入りの説話集『三宝絵(さんぽうえ)』の詞書(ことばがき)「三宝絵詞(さんぽうえことば)」の断簡です。 源為憲(みなもとのためのり)が尊子内親王(そんしないしんのう)(冷泉天皇皇女)のために書かれたものを、保安元年(1120)に書写したことが巻末の奥書からわかるそうです。

仏法真理の言葉に相応しく清らかさと透明感があり、ないだ湖面のような平静心を感じさせ、仮名と漢字のバランスのよい安定感のある書風です。

右は、伝 藤原定頼筆の《烏丸切》(後撰和歌集 巻第七断簡)、藤原定信筆の《石山切》(貫之集下断簡)、伝 藤原公任筆の《石山切》(伊勢集断簡)。 《石山切》は、料紙の美しさが能書による個性的な書風に相応しく見応えがあります。

出典:リビング東京Web

左から、重要美術品 東大寺切(三宝絵詞断簡) 伝 源俊頼筆 1幅 彩箋墨書 日本・平安時代 保安元年(1120)、烏丸切(後撰和歌集 巻第七断簡) 伝 藤原定頼筆 1幅 彩箋墨書 日本・平安時代 12世紀、石山切(貫之集下断簡) 藤原定信筆 1幅 彩箋墨書 日本・平安時代 12世紀 小林中氏寄贈、石山切(伊勢集断簡) 伝 藤原公任筆 1幅 彩箋墨書 日本・平安時代 12世紀 全て根津美術館蔵

筆者名が分かる古筆切、重要美術品《日野切(ひのぎれ)》(千載和歌集 巻第十四断簡)

藤原俊成(ふじわらのしゅんぜい)筆の重要美術品《日野切》(千載和歌集 巻第十四断簡)(左)。 後白河法皇(ごしらかわほうおう)の院宣により俊成75歳の時に撰進した和歌集で、日野家伝来のため「日野切」と称されています。 「撰者の自筆本」としてとても価値が高いもので、特色のある個性的な字形で年齢を感じさせない書です。

出典:リビング東京Web

左、重要美術品 日野切(千載和歌集 巻第十四断簡) 藤原俊成筆 1幅 紙本墨書 日本・平安時代 12世紀 根津美術館蔵

古筆切の伝承筆者(でんしょうひっしゃ)と古筆見(こひつみ)

古筆切には、伝承筆者として伝わるものが多くあります。伝 紀貫之筆、伝 源俊頼筆などです。 およその書写年代に、「日本の歴史上著名な人物を当てはめるという鑑定方式」で付けられているそうです。

桃山時代には、古筆の鑑定を生業とする古筆見、古筆目利(こひつめきき)と呼ばれる専門の職種が生まれていました。 古筆見たちは、鑑定を依頼された古筆に、「極札(きわめふだ)」「折紙(おりがみ)」と呼ばれた鑑定書を発行しました。

古筆見の鑑定による筆者名は自筆とは区別して伝承筆者と呼んで、名前の前に「伝」を付けています。 筆者名が判明しても伝承筆者も名称の一部として残しているそうです。

歴史的、文学的価値から見ても筆者名が分かるのはとても重要なことです。

出典:リビング東京Web

企画展「古筆切―わかちあう名筆の美―」コラム「極札」 展示風景 根津美術館蔵

工芸品としての古筆切 料紙の美しさ、《太田切(おおたぎれ)》(和漢朗詠集 巻下断簡)

金銀泥の下絵や、金砂子、切箔を散りばめたり、色の異なる染紙を複数組み合わせたりした料紙の美しさは、書を引き立てる工芸品そのものです。

伝 藤原公任筆の《太田切》(和漢朗詠集 巻下断簡)(右)。 舶載の唐紙に金銀泥で蝶や鳥、草花の下絵が描かれた料紙に、大らかで整った字形の漢字と、後半は料紙の文様と書風が異なる仮名が対照的な古筆切です。

速筆で滑らかに書かれている後半の仮名2行は、近世以降に加えられたものと考えられているそうです。 切名(きれな)の由来は、掛川藩主太田家に伝来したことから、一連の断簡を「太田切」と呼ぶそうです。

出典:リビング東京Web

右、太田切(和漢朗詠集 巻下断簡) 伝 藤原公任筆 1幅 彩箋墨書 日本・平安時代 11世紀 植村和堂氏寄贈、ほか古筆と料紙の調和美 展示風景 右側3点は根津美術館蔵、左側2点は個人蔵

同時開催 一行の書

禅僧が法語などを書いたものを「一行書」と称します。 同時開催「一行の書」では大徳寺(だいとくじ)歴代の一行書が悟りの一転語のように並びます。

江戸時代以降、「一行の書」は禅宗以外でも様々に書かれるようになります。

江戸時代の絵師・狩野探幽(かのうたんゆう)筆の個性的で独特な書。 禅宗以外の僧・良寛(りょうかん)筆の自由な脱力系の《天地二大字》の書。 近代の中国の書家・呉昌碩(ごしょうせき)筆の篆書まで、一行書の広がりと個性的な書風を楽しめる展示です。

出典:リビング東京Web

「一行の書」展示風景 根津美術館蔵

特別展示 黄金のきらめき 古代朝鮮半島の装身具

展示室4では、「黄金のきらめき 古代朝鮮半島の装身具」と題して朝鮮半島・三国時代(5~6世紀)の黄金の装飾品が特別展示されていました。

《金製太環垂飾付耳飾》(右)と《金製細環垂飾付耳飾》(左)。黄金に眩く輝く耳飾りは権威の象徴でもあったのかもしれません。

出典:リビング東京Web

右から、金製太環垂飾付耳飾 1対 金 朝鮮半島・三国時代(新羅) 6世紀、金製細環垂飾付耳飾 1対 金 朝鮮半島・三国時代(新羅) 5~6世紀 すべて根津美術館蔵

初月の茶《赤樂富士絵茶碗(あからくふじえちゃわん)》

新しい年の訪れを寿ぐ一年の最初の月の茶を「初月の茶」と言うそうです。 茶道具には吉祥のめでたい道具を取り揃えて新年の客をもてなします。

白泥で三峰の富士山が大きく描かれた《赤樂富士絵茶碗》(右)。 おめでたい図柄と赤楽の彩りが新春の茶席を一層華やかにしています。 表千家6代の覚々斎(原叟)(かくかくさい(げんそう))が祝儀の贈り物として作ったものだそうです。

出典:リビング東京Web

右から、赤樂富士絵茶碗 千宗左(覚々斎)作 1口 日本・江戸時代 17~18世紀、菊桐蒔絵棗 1合 木胎漆塗 日本・江戸時代 17~18世紀、茶杓 共筒 銘 二人静 杉木普斎作 1本 竹 日本・江戸時代 17~18世紀 すべて根津美術館蔵

出典:リビング東京Web

吉祥の茶道具が実際に茶室に置かれた様子も見ることができます。 根津美術館

冬の訪れを感じさせる庭園を散策

観覧の後は、冬支度の静かな庭園を散策。観覧の余韻に浸ります。

平安~鎌倉時代に極められた仮名の能書を、美しい料紙とともに古筆切れの名筆で味わう展覧会でした。 根津美術館で開催中の企画展「古筆切―わかちあう名筆の美―」は2月9日(日)までです。

是非お出かけください。

出典:リビング東京Web

根津美術館庭園

ミュージアムグッズ

ミュージアムグッズは、おためし香 那智(880円)、懐紙 梅図(500円)、『観賞シリーズ12 館蔵 古筆切』(©根津美術館発行 2024年12月15日改訂版初刷)(1,200円)を購入。 『観賞シリーズ12 館蔵 古筆切』はフルカラーで、本展の展示作品も掲載されていて丁度良い鑑賞の手引きとなっています。 ※価格は全て税込です。※文中記載のないものは全て根津美術館蔵です。

出典:リビング東京Web

ミュージアムグッズ 根津美術館

〇根津美術館 NEZU MUSEUM

URL:https://www.nezu-muse.or.jp/

住所:〒107-0062 東京都港区南青山6-5-1

TEL:03-3400-2536

開館時間:午前10時~午後5時(入館はいずれも閉館30分前まで)

休館日:毎週月曜日、ただし1月13日(月・祝)は開館、翌14日(火)休館。

展示室 / ミュージアムショップ /庭園 / NEZUCAFÉ

〇交通:地下鉄銀座線・半蔵門線・千代田線〈表参道〉駅下車 A5出口(階段)より徒歩8分、B4出口(階段とエレベータ)より徒歩10分、B3出口(エレベータまたはエスカレータ)より徒歩10分 都バス渋88 渋谷~新橋駅前行〈南青山6丁目〉駅下車 徒歩5分 駐車場:9台(うち身障者優先駐車場1台)

〇企画展「古筆切―わかちあう名筆の美―」

会期:2024年12月21日(土)~2025年2月9日(日)

※日時指定予約制です。

入場料:一般 1‚300円、学生(高校生以上)1‚000円

*障害者手帳提示者および同伴者は200円引き、中学生以下は無料 

当日券:一般 1‚400円、学生(高校生以上)1‚100円

1グループ 10名まで予約可

※予約優先のため、当日券利用は待ち時間が発生することがあります。混雑状況によっては当日券販売がないことがあります。

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