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必死で誤魔化し私の純粋さを守ってくれた母の言葉をもう一度聞きたい

  • 2025.1.16

事件は小学校3年生のときに起こった。下校班が一緒の男の子の1人が、「サンタさんって、親らしいよ」と突然言ったのだ。当然私は衝撃を受け、半信半疑。

当時の私は、サンタさんは鍵穴から入ってきて私の枕元にそっとプレゼントを置いてくれるものだと信じていたから(以前、煙突のない私の家にはどうやってサンタさんが入ってくるのかと母に聞いたら、小さくなって鍵穴から入ってくるのだと言われたからだ)。

◎ ◎

「何で?」と聞くと、家のクローゼットを漁るとプレゼントが出てきたとのこと。サンタさんが親かもしれないとどうして思ったのかは知らないが、彼はそれを確かめたかったらしい。それでも信じたくなかった私は、「でもそれがサンタさんからのプレゼントとは限らないじゃん」と言った。それは両親からのプレゼントで、サンタさんは別のプレゼントを持ってくるのかもしれないよ、と。自分への暗示も込めて。

その子は、後日その希望も見事に打ち破ってきた。クリスマスの日に、「この前クローゼットで見つけたプレゼント、今日俺の枕元にあった!」との報告をしてきた。

さすがにびっくりして、帰って母に、「ねえ、サンタさんってほんとにいるの?」と聞いてしまった。母にとっては会心の一撃だっただろう。昨夜、私が目を覚ましたのかもしれないと、内心ヒヤヒヤしていたのだろうか。「なんでそう思うの?」と平静を装って聞く母に、その子が言っていたことを説明した。

◎ ◎

その後母が何と言ったかは覚えていない。多分必死に誤魔化されたのだと思う。
今なら分かる。母は必死に私の夢を守ろうとしてくれていたのだ。あの時は真実を教えてくれない母にいらだっていたが、もしそこで「そうだよ、サンタさんはお母さんなんだよ」なんてすんなり言われていたら、私は完全にショックを受けてしまっただろう。

少し疑いながらもその後しばらくはサンタさんを信じていられたのは、あの時の母のおかげだ。

もし私が将来母親になって子供に同じことを聞かれたら、私も全力で誤魔化さなければ。

朝起きてプレゼントをウキウキで開ける気持ちはもちろん、子供の時にしか味わえない、ようやく覚えたひらがなでサンタさんにプレゼントをお願いする手紙を書く一生懸命さも、サンタさんとトナカイさんにクッキーとニンジンを用意するワクワク感も、それが朝見ると綺麗に無くなっているのを見てサンタさんが食べたんだ!と大喜びする気持ち。それらを守って、存分に楽しんでもらわなければ。

そこそこな大人になった今では決して味わえない、貴重で大切な感情だから。

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あのクリスマスに戻れたら。この事件の発端となったあの男の子が悪いとは思っていない。少しだけ真実を知ることが出来たから。ただ、何も知らなかった私に真実を教えようとしたあの子と私の純粋さを守った母の言葉を、もう一度聞きたい。そうしたら、あの頃の純粋な心に少しだけでも戻れるだろうか。

そういえば、あの男の子のお母さんは、なんと言って誤魔化したのだろうか?

■ルーセントのプロフィール
理系の大学生。幼い頃から生き物と本が大好き。中高で味わえなかった青春を大学で取り戻そうと奮闘中。

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