「体に良くない」との意見もあるけれど、実際には健康的で栄養価が高いものも。
イギリスでは、古くから朝食のメニューとして親しまれてきた「ポリッジ(オートミールと温かいミルクで作るお粥)」が、2025年10月に施行される新たな法律によって「ジャンクフード」に分類され、広告が規制されることになっている。またTikTokでは、“栄養に関する専門家”として動画を投稿する人たちが、特定の食品群をまとめて“悪者扱い”している。
こうした現在の世界で、「健康的な食品」を選ぶことは、かつてないほど困難になってきていると指摘されている。そして、しばしば議論の的にされているのが、世界的に最も古くから存在し、今も最も手に入りやすい食品のひとつである「パン」。
スーパーでもパン屋でも、数多くの種類が販売されているパンは、実際に私たちの健康にとって、良くない食品なのだろうか。種類によって、専門家たちの見方は異なるのだろうか――?
※この記事は、海外のサイトで掲載されたものの翻訳版です。データや研究結果はすべてオリジナル記事によるものです。
From Women’s Health UK
最も「健康的」なパンは?
この質問に対し、イギリスの栄養士協会、BANT(British Association for Nutrition and Lifestyle Medicine)の登録栄養療法士であるドナ・ピーターズさんは、その答えは「簡単には出せない」と述べている。それは、すべてのパンが同じというわけではなく、味も栄養価も、種類によって大きく異なるため。
スーパーで販売されているパンは「超加工食品(UPF)」に分類されるものが多く、塩や砂糖が添加されているほか、ほとんど栄養がないとされる。そして研究の結果、UPFは糖尿病や腸の健康状態の悪化、さらにはがんの発症リスクの上昇などと関連していることがわかっている。
つまり、近所のスーパーでスライスされたパンを買うのは便利であるいっぽう、体にとっての最善の選択ではない可能性がある。
ピーターズさんによると、「健康に良い」パンは、より少ない原料で作られた“本物の”パン。あまり加工されておらず、栄養価も高いサワードウ・ブレッドやフラックスシード・パン、ライ麦パンなどだという。別の登録栄養士、ケイラ・ダニエルズさんもこれに同意し、最小限の材料(小麦粉、水、イースト、塩)で作られたパンは、「超加工」食品にはならないと述べている。
以下、2人の意見をもとに、いくつかの種類のパンについてご紹介する。
精白パン(白パン)
ピーターズさんは、「精製された小麦粉で作られた白パンは、栄養素の含有量が少ないうえに(スライス1枚あたりの食物繊維量は約0.6グラム、イギリス政府が推奨する摂取量は1日あたり30グラム)、大抵は添加糖と塩、保存料が使用されています」と説明する。
そのため血糖値を急上昇させる可能性があり、エネルギーレベルや気分、体重管理、さらには長期的な健康にも悪影響を与える可能性があるという。
ちなみに、イギリスの製粉業者は2026年後半までに、全粒粉以外の小麦粉については葉酸を強化することが義務付けられることになっている。葉酸は胎児の脳や脊椎の先天異常を防ぎ、妊婦の健康状態の改善に効果があるとされている。
全粒粉パン
小麦の粒は、ふすま(外皮)と胚芽、胚乳という3つの部分に分けられる。全粒粉を100パーセント使用し、これらのすべての部分を含むこのパンには、小麦が持つすべての栄養素が残されている。
過去の研究によると、日常的に全粒粉パンを食べることは、心血管疾患や特定の種類のがんなど、一部の慢性疾患の予防につながる可能性があるとされている。
また、ピーターズさんは全粒粉パンについて、全体的に見て「白パンよりずっと健康的」だと話している。それは、全粒粉パンは食物繊維の含有量が多いため(スライス1枚あたり約2グラムで、白パンの2倍以上を含む)。
「免疫細胞のおよそ80パーセントは、腸内にあります。そのため、食物繊維は腸の健康をサポートするために重要なものでもあります」とのこと。食品表示ラベルを確認したうえで、この種類のパンを選ぶことをすすめている。
ダニエルズさんもまた、この意見に賛同。「全粒粉パンは持続的なエネルギーを提供するほか、消化を助けます」と述べている。
ライ麦パン
ライ麦パンにはいくつもの種類があり、それぞれに色が異なる。ライ麦粉から作られ、ビタミンBと食物繊維が豊富なこのパンには、心血管疾患や更年期障害、骨粗しょう症、乳がんのリスクの軽減と関連があるとされている植物由来の化合物、リグナンも含まれている。
ピーターズさんは、「加工の程度が低く、栄養価が高いダークライ麦粉のパン(またはドイツ発祥の黒パン、プンパーニッケルなど)を選ぶのが理想的」だとしている。
また、ライ麦パンは血糖値を気にしている人にもおすすめとのこと。ダニエルズさんは、「ライ麦パン、特に全粒ライ麦粉を使用するしっとりしたタイプの多くは、グリセミック・インデックス(GI値、食後血糖値の上昇度)が低くなっています」と話している。
フラックスシード・パン
近所のスーパーなどであまり見かけないこのパンは、おいしく、栄養価が高いのが特徴。
ピーターズさんはフラックスシード(亜麻仁)のパンについて、「食物繊維を豊富に含み、オメガ3脂肪酸の優れた供給源でもあります」と説明している。
腸に良いほか、心臓の健康維持にも役立つこのパンは、食物繊維が特に多いフラックスシードが主な原料になっている(食品表示の「原材料名」の項目の最初に記載されている)ものを選ぶようにするといいとのこと。
発芽小麦パン
健康食品店で販売されていることが多い、発芽小麦パン。消化の良いパンを探しているなら、取り扱っている店までわざわざ足を運ぶだけの価値があるといえるだろう。
発芽小麦はタンパク質と食物繊維を多く含むいっぽう、炭水化物が少ないことから、GI値も低め。消化が良く、栄養価も高いものが多くなっている。
サワードウ・ブレッドが「ベスト」?
サワードウ・ブレッドは、ほかの種類のパンとは作り方が異なる。小麦粉と野生酵母を使用する「スターター」から作られ、発酵の過程で生成された乳酸菌を含んでいる。
ピーターズさんによると、良質で本物のサワードウ・ブレッドの値段が高いのは、長い時間をかけて発酵させているため。栄養価が高く消化も良いことから、一般的なパンでは消化不良が起きるという人に適したパンだと考えられるという。
「本格的なサワードウ・ブレッド、特に全粒粉で作ったものは、最も健康的な選択肢のひとつです」とのこと。
そのほかダニエルズさんは、この発酵のプロセスによって生成される乳酸菌は、鉄や亜鉛などの栄養素の生体利用率(消化・吸収され、体に利用される割合)を向上させる「有益なもの」だと述べている。
「(日々食べているパンを)サワードウ・ブレッドに切り替えることで、腸の健康状態を整えるプレバイオティクスの役割を果たし、GI値が低くなることから、血糖値を安定させる効果も期待できます」
ただ、すべてが同じように作られているわけではなく、商業生産されるもののなかには、こうしたメリットがない製品も含まれている可能性がある。そのため、購入するときには必ず食品表示ラベルを確認する必要があるという。
スーパーで買えるパンは「体に良くない」?
手軽なメニューのひとつとして、朝食にパンを食べるという人は多いが、スーパーなどで購入できるものは健康に害を及ぼすのだろうか?
ピーターズさんは、「(スーパーで販売されている)大量生産されたパンは大抵、塩や砂糖などが添加されているほか、乳化剤など、家庭で作る場合には使用しない添加剤や原料が含まれており、UPFに分類されます」と述べている。
「鉄分やナイアシン(ビタミンB3)、チアミン(ビタミンB1)などの栄養素を添加しているメーカーもありますが、スーパーで販売されているパンの大半は、健康的な選択肢とはいえません」とのこと。
いっぽうダニエルズさんは、それらのパンが体に良いか悪いかを決めるのは、「原材料の栄養価」だとしている。一般的に、全粒穀物や全粒粉を使用したパンは食物繊維を多く含み、添加されている糖分や人工原料が少ないことから、「良い選択肢」だという。
ただ、それでもスーパーで販売されているパンの多くは精製小麦粉を使用しており、糖分や保存料が添加されている。そのため「栄養価が低くなり、血糖値の急上昇といった問題を引き起こす可能性がある」と説明している。
だが、栄養価は種類によって異なるものの、パンそのものを悪者扱いする理由はない。ピーターズさんは、ポイントは「全粒粉」を選ぶことだと話している。あまり加工されておらず、使用されている原材料の種類が少ないほど良いという。
また、まずは「必ず食品表示ラベルを見て、原材料を確認すること」、そして自分で材料を選んで作るか、パン屋で「大量生産されていない」パンを買うことなどをすすめている。
最後に
エディンバラで活動するMBACP(英国カウンセリング・サイコセラピー協会認定カウンセラー)で、摂食障害が専門のルース・ミカレフさんは、パンをはじめ、いずれかの特定の食品を“悪者扱い”することが私たちのメンタルヘルスに及ぼす影響を考慮すべきだとしている。
食品としてのパン、あるいは食品群としての炭水化物は、「栄養価が高く、喜びをもたらしてくれる食べ物」。だが、それにも関わらず“悪者扱い”されることによって、年齢にかかわらずどんな人にも、「積極的に排除する」ことが推奨されている。
だが、「0か100か」の考え方に基づく食習慣を奨励することは、過去に摂食障害に苦しんだ経験がある人を再び、必要以上に刺激することになる。そして、新たな種類の摂食障害を生み出すことにもつながっている。
そのひとつとして挙げられるのが、「オルトレキシア」と呼ばれる障害。ますます深刻な問題になりつつあるとされ、ミカレフさんも「特に懸念される」ものだとしているこの精神疾患は、「クリーンな」、つまり加工されていない「健康的な」食品しか食べなくなる拒食症の一種。
こうした新たな障害を生み出す状況に拍車をかけているのは、ほぼ間違いなく、パンなどの炭水化物を悪者扱いする「危険なトレンド」だとされている。