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【南果歩さんインタビュー】「役を通じて、別の人生を生きたい」

  • 2025.1.15

大切な人を亡くした人物が、いかに心を再生していくか……。悲嘆のなかにいる人に寄り添う「グリーフケア」をテーマにした映画『君の忘れ方』(1月17日公開)で、主人公の母親・洋子を演じている南果歩さん。洋子がありきたりな母親像とは違っていたことも、出演の決め手になったそう。

どんなオファーにも、柔軟に飛び込める自分でいたい

家族を温かく見守り、深い愛情で夫や子どもに献身的に尽くす……。映画やドラマで描かれる“お母さん”は、どうしてもそうしたステレオタイプな母親像が多くなりがちです。けれども映画『君の忘れ方』で描かれるのは、そうした母親像とは異なり、過去から立ち直ろうと必死に生きるひとりの女性。そこに南果歩さんも惹かれたと話します。
 
映画の主人公は、突然の事故で結婚間近の恋人を亡くし、実家へと戻ってきた青年・昴。南さんが演じる母の洋子も20年前に夫を通り魔で失う経験をし、心に傷を抱えています。
 
「日本の映画やドラマのお母さん役は、往々にして“お母さんの顔”だけが描かれていますよね。でもこの映画の洋子さんは、医師として働く一面を持っているなど、彼女自身が生きてきた時間を感じさせる役だったので、これは面白いな、と。監督からも『(南さんなら)普通のお母さんの顔だけでなく、奥底にある悲しみを表現してくれると思ってました』と言っていただいて。過去に私が出演した作品もいろいろ見てくださったようで、とても嬉しかったですね」
 
近年は海外作品にも積極的にチャレンジするなど、ますます俳優としての幅を広げている南さんですが、「私たちの仕事は受け身だから、オファーをいただかないことには何もはじまらないんです」とも。
 
「だからこそ、こんな面白い役ができるのは本当に幸せ。いつどんなオファーが来ても『やってみたい!』と柔軟に飛び込める姿勢でいたいですね。私は自分にないものを持っている役が好きなんです。役を通して別の人生を疑似体験したい、といつも思っているので」
 
息子の昴役を演じたのは、昨年末のドラマ『ライオンの隠れ家』でも注目を集めた坂東龍汰さん。
 
「クランクイン前にふたりで本読みをしましたが、すごく自然な演技をする方で、私もすんなりと自分の息子という目で見られました。撮影中も、ああしよう、こうしようと具体的なことは一切話さずとも、その場でキャッチボールできる方なので、一緒にお芝居をするのが楽しかったですね。後半になるにつれて母と息子の関係が変わっていき、最後は昴が頼もしい表情で洋子を見るようになっていたのも、とても良かったと思います」

思い切り体を動かすことで、心もクリアに

大切な人を失った絶望や孤独とどう向き合っていくか。悲しみのなかにいる人に寄り添い、心を回復させていくためにサポートする「グリーフケア」が、本作のテーマです。
 
「残された人の心のケアは、本当に時間がかかること。映画のなかで喪失を経験した人たちが語り合う場面が出てきますが、心を整理するにはやっぱり言葉にすることが大切なんだと感じました。心の問題というのは外からは決して見えないし、毎日普通に電車に乗って、人と会ったり、仕事に行ったりしていても、心の奥には答えが出せない問題を抱えている人はきっと大勢いますよね。たとえ洋子さんや昴のような経験をしていなくても、窓を開け放つように自分の心を換気して、新しい空気を入れてあげることが大事。意識的にそうしないと、いつのまにか気持ちが沈んだり、心のなかが少しずつ変わっていってしまうと思うんです」
 
もし悲しみから立ち直れず、苦しんでいる人が身近にいたら、自分は相手にどう寄り添っていけばいいのか……。正解はありませんが、「伝えることが大事」と南さん。
 
「直接、役に立てるわけじゃなくても、『どうしてる? 時間があったらいつでも電話してね』と負担にならない形でメッセージを送る。直接会えなくても、電話でもLINEでもメールでも、手紙でもいいと思うんです。私自身もつらい状況に陥ったときに、友人たちの言葉に救われましたから」
 
南さん自身が、心をクリアするために日々実践しているのは? と聞くと、「筋トレです!」と即答。
 
「絶対に運動です。『あと何回……!』という苦しい時間が、終わった後の解放感に直結するんです。いつもジムに行く前には『あ〜行きたくない、なんて言ってサボろうかな……』などと思ったりもするんですけど、1時間トレーニングした後は『怠けたい自分に勝った!』と思える。それだけで気分が爽快です(笑)。今は筋トレとヨガ、ピラティスに通っていますが、うちには犬もいるので、朝晩のお散歩もいい運動になっていますね。犬はいちばん身近な野生ですから、一緒にいると季節の変化を感じられてすごく楽しいんです。もちろん、仕事も楽しいですよ! でも、仕事は楽しいのひとことでは済まないので……心を使う仕事だし、あくまでも“苦しみのなかで生まれる楽しみ”ですね」
 
2025年は本作をはじめ、複数の作品の公開が控えているほか、新しい本の刊行も予定しているそう。
 
「本のテーマは美容も含めた“健康”。私が普段取り入れている食事や運動、使っている化粧品を公開するので、楽しみにしていただけたら! また新しい絵本も制作するつもりですし、盛りだくさんの1年になりそうです」

PROFILE

南果歩(みなみ・かほ)
1964年生まれ、兵庫県出身。1984年、映画『伽倻子のために』のヒロイン役で俳優デビュー。近年の出演作に、舞台『これだけはわかってる~Things I know to be true~』『木のことThe TREE』、配信ドラマ『PACHINKO』、映画『MISS OSAKA ミス・オオサカ』など。著書にエッセイ『乙女オバさん』、絵本『一生ぶんのだっこ』など。公開待機作に映画『ら・かんぱねら』『ハジマメシテ!(原題:Rules of Living)』、韓国映画『そばの花咲く頃』、台湾映画『腎上腺(英題:Adrenal)』がある。

南果歩さん出演映画『君の忘れ方』

ラジオの構成作家である森下昴(坂東龍汰)は付き合って3年が経つ恋人・美紀(西野七瀬)との結婚を間近に控えていたが、突然の事故で彼女を失ってしまう。茫然自失の日々を過ごすなか、母・洋子(南果歩)に促され、故郷の岐阜へ帰省する。洋子もまた、不慮の事故で夫を亡くし、未だに心に傷を抱えていた。

●監督・脚本:作道 雄
●出演:坂東龍汰 西野七瀬 南果歩 ほか
●エンディング歌唱:坂本美雨
●1月17日(金) 新宿ピカデリーほか全国公開
Ⓒ「君の忘れ方」製作委員会2024 

 撮影/天日恵美子 スタイリング/坂本久仁子 ヘアメイク/黒田啓蔵(K-Three) 取材・文/工藤花衣
衣装協力/ファビアナフィリッピ(アオイ 03-3239-0341)、TASAKI(0120-111-446) 

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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