小林エリカ、ツレヅレハナコらが大切にしている、人生の一行

小林エリカ（作家、アーティスト）

生きるの大好き冬のはじめが春に似て

『池田澄子句集 現代俳句文庫29』
池田澄子著／ふらんす堂

仕事も何もかもうまくいかないうえに、先が見えない不安が続く中で、ずっと心の支えにしながら唱え続けた言葉です。冬が訪れそうな苦難の日々の中では、今なおこの言葉を繰り返します。ちなみに、同じく池田澄子さんの句集『たましいの話』や『此処』もまた、私が生きてゆく日々の、大きな支えになっています。

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小林エリカ（作家、アーティスト）

こばやし・えりか／24年5月に戦争と女性を主題にした最新小説『女の子たち風船爆弾をつくる』（文藝春秋）を刊行。

荻田泰永（北極冒険家）

探検とは知的情熱の肉体的表現である。

『世界最悪の旅 スコット南極探検隊』
チェリー・ガラード著／加納一郎訳／中公文庫

なぜ人間は過酷な冒険や探検を行うのか。肉体的に表現される過酷さ以前に、人間固有の知的情熱があるのだと喝破した探検家チェリー・ガラードの名言。知的情熱によって肉体的な困難もいとわない生き物は人間だけだ。そう考えると、この言葉は「人間とは何者か」という問いへのヒントにもなる。勇気を与えてくれる言葉だ。

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荻田泰永（北極冒険家）

おぎた・やすなが／カナダ北極圏など単独徒歩による北極行で植村直己冒険賞受賞。〈冒険研究所書店〉の店主も務める。

塩谷舞（文筆家）

喧騒のなかであれ、
小さな声で話すこと。

演出家の故・仲川利久の言葉

仲川利久先生が主宰する劇団に子役として所属していた25年ほど前。先生は「喧騒のなかで話を聴いてもらうにはどうしたらいいと思う？」と問いかけたあとにこう言って「そうすれば周りの人は音量を下げ、耳を傾けて、あなたの声を聴いてくれますよ」と語りました。子供ながらに静かな衝撃を受け、今も大切にしている言葉です。

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塩谷舞（文筆家）

しおたに・まい／著書『ここじゃない世界に行きたかった』『小さな声の向こうに』（共に文藝春秋）が発売中。

宮里祐人（〈バックパックブックス〉店主）

短い一生で心魅かれることに多くは出合わない
もし見つけたら大切に……大切に……

没後20年 特別展 図録『星野道夫の旅』
朝日新聞社編／朝日新聞社

星野道夫さんの写真展で出会った言葉。太古から続く時間の中で、私たちが生きられるのはほんの一瞬でしかない。シーカヤックからの景色、カリブーやグリズリーなどの生き物。その一瞬の中で星野さんが出会った心魅かれたものや行動を思い浮かべ「自分は心魅かれたものを大切にできているだろうか」と問う。そんな一節です。

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宮里祐人（〈バックパックブックス〉店主）

みやさと・ゆうと／東京・代田橋駅前で、旅や登山などを中心とした本を扱う書店〈バックパックブックス〉を営む。

ツレヅレハナコ（文筆家）

「簡単でおいしい」というテーマほど、
抽象的で、あいまいなものはないのです。

『100文字レシピ』
川津幸子著／新潮文庫

20年以上前に「100文字レシピ」を提唱した料理研究家の川津幸子さん。料理の手を抜くわけではなく、レシピの何を削ぎ落としてどれを残すかというブレないセンスと判断力があってこそ成立するレシピに感銘を受けました。人に自分の料理を「簡単でおいしい」と言ってもらうたび、ちゃんとそれができているか思い出します。

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ツレヅレハナコ（文筆家）

食と酒と旅に関する文章の寄稿や料理レシピを提案する。著書に『女ひとりの夜つまみ』（幻冬舎）など多数。

小倉ヒラク（発酵デザイナー）

良い精神を持っているだけでは十分でなく、
大切なのはそれを良く用いることだ

『方法序説』
デカルト著／谷川多佳子訳／岩波文庫

発酵を生業（なりわい）にする僕にとって、何かを学んで思索することは、その先にある誰かにとっての「役に立つ」「おいしい」に向かわないと意味がない。偉大な哲学者からの「自己満足してんじゃねーぞ！」の叱咤激励をいつも心に留めています。ちなみに僕の著書『発酵文化人類学』にもデカルトの名言へのオマージュがあります。

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小倉ヒラク（発酵デザイナー）

おぐら・ひらく／発酵文化にまつわるさまざまなプロジェクトを展開。最新刊『アジア発酵紀行』（文藝春秋）が発売中。