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動物の痛みがわかる“共感覚”を持つ獣医師。「理想郷」の名がつけられた動物園で、彼は命と向き合い続ける

  • 2025.1.10

動物園で働く獣医師たちの物語『イーハトーヴのふたりの先生』(山口八三/KADOKAWA)。本作のタイトルになっている「イーハトーヴ」とは、文豪・宮沢賢治による造語で、出身地の岩手県をモデルにした「理想郷」を意味する。

宮沢賢治は動物をモチーフにした有名な童話を数多く残していることもあり、本作のタイトルを見た筆者は一瞬、童話のような幻想的な世界を思い浮かべた。しかし本作は、動物園で獣医師として働く日常と、命の重さを描き出していく。

動物の治療方法の描写もじつに細かい。実際に獣医や動物に関わる職種を目指す人にぜひ目を通してもらいたい一作だ。

岩手県の民間動物園「南部イーハトーヴ」に勤務する獣医師・星野は、幼少期から人や動物が抱えている痛みを自分自身の体で感じ取ってしまう共感覚を持っている。彼が苦痛に顔を歪ませる様は、わたしたちへ視覚的に「物言わぬ動物の痛み」を伝え、動物は人間と同じように痛みを感じる生き物であることを再認識させられる。

「南部イーハトーヴ」の人手不足により臨時でやって来た獣医師・津川と共に働くことになった星野は、事前に耳にしていた津川の怖い噂や実際に会った彼の人を寄せ付けない言動に戸惑う。

ある日、星野は自身の能力により山中で骨折したタヌキを見つける。タヌキを治療するために園へ戻り、園に残っていた津川にたしなめられるも「助けられる可能性があるなら 僕はこの子の生を全うできるよう尽くします」と説得し、ふたりで手術を行うことに。

この件をきっかけにふたりの交流は増えていくが、津川が抱える過去や人間関係を拒絶する理由はすぐに明かされない。

ふたりの根底にある動物への想いは間違いなく通じるものがある。相いれなかったふたりが打ち解ける姿をぜひ見てみたいものだ。

本作は命の大切さと同時に、民間動物園の経営の厳しさも描いている。SNSなどの普及により、現地を訪れなくとも動物の様子を見られる昨今。しかし本作を読み心を動かされた人は、動物園を訪れて画面越しではない動物たちの姿を目に焼きつけてほしい。

文=ネゴト / 花

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