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「痩せてるんだから良いじゃん」その言葉に封じられてきた息苦しさ

  • 2025.1.10

身体の悩み、特に体型の悩みに関することを話すのは、正直とても勇気がいる。
みんな、そうなのかもしれない。でも、勇気が必要な「理由」が、みんなとは異なるから、余計に言いづらい。「異なる」なんていう言葉も、本当は使いたくない。要らぬ誤解を生みそうだから。でも、「同じ」じゃないことは受け入れざるを得ない。そう、これまで身をもって思い知らされてきた。

だから、どんなに仲の良い友達でも、この悩みに関する話題に自分から触れることは、絶対にしてこなかった。言いたいことはたくさんあったけれど、ずっと自分の胸の中にしまってきた。

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自分の体型が他の女の子とちょっと違うことに気づき始めたのは、おそらく中学生の頃だったと思う。

正確に言えば、小学生のときから何となく自覚はしていた。定期的に行われる身体測定の記録シートを開けば、そこには身長と体重を照らし合わせた形での体型分類を示すグラフが載っていた。算数が苦手だった私でも、そのグラフを見れば、自分の体重が身長の割りに少なすぎることはすぐにわかった。でも、ランドセルを背負っていた頃、体型に関して周囲から指摘された記憶はほとんどない。

中学校に上がってからだ。「痩せてるね」と頻繁に周りから言われるようになった。中学のジャージは胸元に大きく名字が印字されていたから、校内を歩いているといきなり「◯◯さん!」と知らない先輩たちから名前を呼ばれ、「ほっそいね!」と声をかけられたこともあった。どう反応していいのかわからず、曖昧に笑ってそっとその場を離れた。

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高校生になると、周りの女の子たちは食べ物のカロリーに気を遣うようになった。ダイエットというワードが飛び交い始めたのもこの頃からだ。たとえば一緒にコンビニに行くと、友達は菓子パンを手に取ってはひっくり返し、カロリー表示をチェックしていた。「◯◯はこんなの気にしなくていいもんね、痩せてるから」と彼女は言った。他の女の子からも、「良いよね、◯◯は」と羨ましがられることが多々あった。会話を終わらせちゃいけないと、最適な返事の仕方を頭の中でどれだけ考えても、いつもいまいち上手くいかなかった。「それ、イヤミっぽく聞こえちゃうよ?」なんて言われてしまうこともあった。

思春期は体重が増えやすいとよく言われるけれど、私はちっとも変わらなかった。その後も今に至るまでほとんど横ばいで、BMI指数はずっと最低ランク。適正体重より20kg近く下回り続けている。会社員時代に毎年受けていた健康診断でも、評価はいつも「痩せすぎ注意」だった。それでも、医療機関から「あなたは痩せている」と指摘されるのはまだ良かった。余計な要素を一切含まず、事実のみを淡々と提示されている気がしたから。

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嫌なのは、「痩せていること」と「女性の美しさ」がイコールでつなげられがちな現代の風潮だ。この風潮の中には、「痩せてさえいれば良い」「痩せていればオールオッケー」という解釈も含まれていると思う。
生まれつき太りにくくてどう頑張っても痩せ型体型から抜け出せない人間にとっては、正直かなり息苦しい。私としては、痩せてて良かったと思ったことは一度もない。自分の身体が美しいと思ったこともない。でも、それを周囲に訴えたところで届かないこともよくわかっている。「痩せてるんだから良いじゃん」で片付けられてしまう。良い?何が?わからない。学生の頃から、ずっとわからない。

脱衣所で服を脱ぎ、鏡に映る自分の裸体を見る。あばら骨が浮き出ている、枯れた枝みたいな身体。平べったい胸が、その貧相さに拍車をかけていた。ガリガリの身体。不健康そうな身体。
服を着れば多少はごまかせるけれど、その服にも困ることが多い。この服良いなと店先で手に取ってみても、サイズが合わないことが多々あった。着たい服を着れない。ベルト穴も一番詰めたとてぶかぶか。同じような理由で、腕時計もつけられない。

自分の身体に対する嫌悪は、年々増している。

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私は、実年齢よりも下に見られることがかなり多い。どちらかと言えば童顔寄りで、なおかつ丸顔のせいかと思っていたけれど、顔というよりも体型が要因なのではないかと少し前から考えを改めるようになった。

女性は、大人に近づいていくにつれて身体つきに丸みが出てくる。しかし、肩周り、腕周り、お尻、胸、脚……私の場合、どれをとってもその丸みがない。のっぺりと平坦で、どこからも「女性らしさ」が感じられない。もっとストレートに言えば、色気がない。痩せてはいるけれど、腰や足首はまったくくびれていないから、夫にはよくこう言われる。「まりちゃんの脚って細いはずなんだけど、間近で見ると大根脚に見えるのが不思議だよね」と。「幼児体型」とも言われる。

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この体型のまま年齢を重ねていくことが、少し怖いと思うようになった。痩せていることを全く良しとせず、「もっと太って」と日頃から口酸っぱく言ってくる夫には、感謝しないといけないのかもしれない。あれこれ変に気を遣う必要が一切ないから、夫にだけは体型に関する話をすることができる。

でも、自分の体型を全面的に否定されることもまた、複雑ではある。男性は多少むっちりした女性のほうが好き、とよく言うが、夫の隣にいるとそれをひしひしと感じる。一緒に過ごす時間が長くなればなるほど、夫は自分の好みや願望を遠慮なく口にするようになった。その好みや願望と、私はまるで対極にいる。

いろんな意味で、このままじゃいけないとより強く思うようになった。だから最近は、意識的に食べる量を増やすようにしている。そこまで少食なわけでもないのだけれど、食べないことには太れない。逆ダイエット、と心の中で呼んでいる。

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こんなこと、ダイエット情報が山ほどあふれている社会の中では口にしづらい。正直ここで文章にすることも躊躇いがあったけれど、でもここくらいでしか吐き出せないとも思った。

■こじまりのプロフィール
東京在住のライター。不登校、抑うつ、適応障害の経験あり。HSP気質。話すことは苦手だけど、書くことでなら想いを昇華させられると信じて早20年。ことばがあれば、きっと泳いでいける。

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