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サンタのメッセージを無視したあの日の私と、私を見つめた母の思い

  • 2025.1.9

私の部屋にはたくさんのマスキングテープが置いてある。趣味で買い集めたものがほとんどで、お気に入りだけが残っているが、その中で一際意味深いのが、小学生時代のクリスマスプレゼントでもらったものだ。

◎ ◎

私の家ではクリスマスのサンタは玄関から丁寧に入ってくる、という設定で、現代的だな、と幼いながらに考えていたものだ。1ヶ月前から「サンタさんへ」と書いた手紙を玄関の棚の中に置いて、それが消えた日の朝はウキウキで家を出るのがお決まりの流れだ。その年に書いたプレゼントのお願いは、「綺麗なマスキングテープをたくさんください!」だった。少しでも大人っぽくしようと、綺麗という字を丁寧に漢字で書いた。お姉さんなら、サンタさんがしっかり話を聞いてくれるはず、と、サンタさんも楽しめるようにカラフルなペンで、書き初めのように丁寧に書いておいた。

数日後に手紙は消え、街中はどんどんクリスマス一色に染まっていき、1日が長くて仕方なかったが、ようやく待望のクリスマス・イプがやってきた。我が家はクリスマスイプにチキンの丸焼きを出してくれるのだが、プレゼントと同じくらいに心が踊るイベントだ。3つ下の妹より少しでも多く食べようと、パクパクパクパク鶏肉を口に運びつづけたのを覚えている。

◎ ◎

楽しい夕飯の後、「サンタさんのために早く寝よう!」という妹の頼みに、普段なら言い返す私も素直に従って床についた。楽しみすぎるあまり、全然寝付けないのではないだろうか、そしてサンタは私が起きているせいで入ってきてくれないかもしれない、と本気で心配していた私だが、母曰く、30分後にはすっかり夢の中であった。

翌朝、早いうちに目が覚めた私たち姉妹は、母親も一緒に玄関まで走って見に行った。
そこには、柊の実のように真っ赤な包装紙に、自分たちの名前が英語で書かれたプレゼントが置いてあった。それぞれ覗かれまいとリビングの端と端で開封し、妹は、また走りながら両親に自慢しに行った。

◎ ◎

私はその時、色とりどりで、ところどころ金色の装飾までしてあるマスキングテープを目にし、とても満足していた。普段は買えないくらい幅の広いものまであった。自分も自慢しに行こうと思ったが、ふと包装紙の中の字に気づいた。

“SHARE WITH YOUR SISTER!!!”

そう書いてあった。その頃少し英語がわかった私は、「シェア」と「シスター」を見て、ああ、これは見つかったらこんなに綺麗なプレゼントを分けなくてはいけなくなる、と思い、隠しながら急いでゴミ箱に捨ててきた。
ほっと一安心したのも束の間、何食わぬ顔で戻った私は、リビングにいた母にプレゼントについて話しかけられた。

◎ ◎

「マスキングテープ綺麗だね!あ、だけどたくさんあるってことは、サンタさんは姉妹で分けて欲しいんじゃない?」
ドキッとした。まさか両親が買ってきたとは知らないので、必死でそんなことはない、私が1人で使っていいと書いてあった、と弁解した。母は何度か2人で分けたら?と言ってきたけれど、私は結局1人で全部もらった。

その頃はとても満足して自分の机の中に大事にしまっておいたが、あれから10年ほど経って、ふとそれを見た瞬間、全て母は知っていたんだな、と思った。同時に、私の弁解を微妙な面持ちで聞く母の様子も思い出された。母の言うサンタさんは母自身だった。サンタさんの気持ちは、母の気持ちだった。母からのメッセージを、私は無視したのだった。

◎ ◎

私があのクリスマスに戻りたいのは、母の寄せた期待をゴミ箱に捨ててしまった自分が嫌だからだ。何も知らないはずだから、と嘘をついた、そしてうまく独り占めできた、と満足すらしていた自分が恥ずかしくてたまらないのだ。

■ペンギン!のプロフィール
読書や描画、倫理的なテーマについて議論することが好き。高湿度が苦手なため、好きな季節は冬である。好きな曲は、ミスチルのHere Comes My Love。

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