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麻布十番にオープンした話題の新星『鮨 めい乃』。鮨飯と鮨ダネの絶妙なバランスに唸る

  • 2025.1.9

麻布十番で話題の飲食店が入るビル。6階のエレベーターを降りると、どこからかいい香りが漂ってくる。

2023年末にオープンした『鮨 めい乃』のオープンは鮨を知る人にとって、嬉しいトピックであった。人を惹きつける理由を紐解いた。

10年に渡る名店での修業を経て待望のオープン
麻布十番『鮨 めい乃』の幸後綿衣氏
東京カレンダー


長い黒髪を一つにまとめあげ、付け台に立つその姿は、女性ながらに鯔背という言葉がよく似合う。幸後綿衣さん35歳。今、最も注目を浴びている鮨職人のひとりだ。

ジェンダーレスが謳われる昨今だが、それでも鮨の世界は、女性にはまだまだ厳しい仕事場。

その大変さを承知で鮨の道に進んだきっかけ。それは父親の「鮨職人もいいんじゃないか」のひと言だった。思案の末「鮨なら腕一本で世界に通用する」と考え、心を決めた。

麻布十番『鮨 めい乃』の赤身
「おまかせコース」(¥50,000)では、13ほどの握りが出るが、そのうち4貫はまぐろ。「やま幸」の本まぐろで、「私の好みを熟知している山口さんがいつも最高のまぐろを卸してくれます」とは綿衣さん。「やま幸」の山口幸隆氏も綿衣さんの応援団のひとりなのだ


大学卒業後、まずは「鮨アカデミー」でその一歩を踏み出し、選んだ修業先は四谷『すし匠』。鮨の旨さはもちろん、中澤圭二親方の人柄に惹かれたのだ。

しかし、現実は厳しく、鮨の世界は体育会系。体力的にも精神的にも限界を感じ、中澤親方の勧めで『西麻布 拓』に。ここで香り高いワインの虜となる。

麻布十番『鮨 めい乃』で提供しているワイン(「CAZÉ-THIBAUT」)
『西麻布 拓』時代にソムリエの資格を取得。2018年にはブルゴーニュで本格的にワインを勉強。店のワインセラーもブルゴーニュとシャンパーニュが中心。中でも「CAZÉ-THIBAUT」は、生産者の人柄にも感銘。自然体であることの素晴らしさを教えてくれた思い出深い一本


その後、『すし匠』時代の先輩に当たる新井祐一氏に声をかけられ、オープンと共に『鮨 あらい』へ。

「新井さんには技術的なことだけでなく、経営面やもてなしの心など多岐に渡り勉強させて頂きました」

修業の間、ワインの勉強のため1年間渡仏。彼女にとってはいい風穴にもなったそうで、自分には鮨しかないと異国の地で再認識。と共に「もっと自由でいい、いまのままの自分でいいんだ、と思えるようになりました」とも。

2019年に帰国後、翌年には2番手となり、個室をまかされるなど、重責を担った。

香りに魅了された職人が辿り着いた答えがここに
麻布十番『鮨 めい乃』の「コハダ」の握り
綿衣さん自身も大好な「コハダ」の握り。締める時間は、季節や気候で微妙に変わるが、この日は塩12分、酢で7分締めた後、2日寝かしている。しっかりと締めつつも軽やか。米は大粒でしっかりした滋賀の在来種滋賀旭


流麗な所作に見惚れるうち、付け台にトンと置かれたコハダの握り。

小さすぎることもなく、鮨飯と鮨ダネのバランスの取れたそれは、口にすれば軽やかにふわりと口中で解け、それでいて、米一粒一粒の存在感をしっかりと感じさせる。

米酢をメインに、赤酢でアクセントをつけた鮨飯はマイルド。咀嚼するほどに米本来の甘みがじんわりと広がる。と同時に鼻腔を抜けるコハダの風味には、思わず頷いてしまう。

臭みを消しつつも、青魚ならではの香りはきちんと感じさせるその一貫は、コハダラバーには嬉しい美味しさだ。

麻布十番『鮨 めい乃』の「コハダのフライ」
「コハダのフライ」。白身だけで作るタルタルがよく合う


「香りのいいものが好き」と語る綿衣さん。それゆえ、魚も料理も香りを重視。

曰く「繊細なものを食べ、水のきれいなところに棲む魚は香りがいい。同じ魚でも食べているものが違えば、魚体の香りは変わってきますから。その点にはかなり気をつけています」

だからこそ、常に最高の魚を求め、仕入れているのだ。時には、北海道礼文島のうになど生産者のもとを訪れることもしばしばとか。

麻布十番『鮨 めい乃』の「おはぎ」
「おはぎ」。『すし匠』の名物。『すし匠』系列で出されることの多い一品だが、各店毎に特色があるのが楽しい。綿衣さんは「軽めのバランスにしている」そうで、上にすりごまをふりかけている


また、「やま幸」から仕入れるまぐろにしても、魚体の大きさ云々よりも香りのあるものを、と頼んでいるという。

麻布十番『鮨 めい乃』のワインセラー
見えるセラーは、お客様との会話のきっかけにもなる


ワインを好きになったのもやはり香りゆえ。

その芳醇にしてデリケートな味わいに魅せられたからに他ならない。それはまた鮨にも共通する魅力でもある。

麻布十番『鮨 めい乃』の内観
「凛とした雰囲気よりも実家に帰ったようなほっこりとした空間にしたかった」そうで、黄色いイスは実家のソファをイメージ。丸みを帯びた天井や壁はクリームイエローと優しげで、ヨーロッパ的な趣も


一度こうと決めたら、辛くても諦めるという選択は決してしない。

そんな芯の強さを秘めたしなやかな握りを味わいに出かけたい。

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