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AIのゴッドマザーと呼ばれるフェイフェイ・リーが目指す、人工知能と人類との正しい共生【気鋭のイノベーター】

  • 2025.1.9
フェイフェイ・リー博士。スタンフォード大学コンピュータサイエンス学部の教授であり、スタンフォード大学のヒューマンセンタードAI研究所の共同ディレクター。2018年アメリカにて撮影。Photo_ David Paul Morris / Getty Images
Key Speakers At The Google Cloud Next '18 Conferenceフェイフェイ・リー博士。スタンフォード大学コンピュータサイエンス学部の教授であり、スタンフォード大学のヒューマンセンタードAI研究所の共同ディレクター。2018年アメリカにて撮影。Photo: David Paul Morris / Getty Images

「例えば今、21世紀に生きる私たち人類が初めて火を発見した瞬間にテレポートしたと想像してみてください。私たちが現在向き合っているAIは、これら歴史上の重要な発見にも似たものだと思います。ですがAIは例えるなら火のようなもので、使い方次第ではときに危険なものにもなり得る両刃の剣。未知のAIの可能性に対して抱く私たちの感情は、これと同じなのです」

2023年、「TIME 100AI」に選出された際、同誌にこう語ったフェイフェイ・リー は、1976年に中国・北京で生まれ、16歳のときに一家でアメリカ移住したコンピューターサイエンティストだ。インテル・ライフタイム・アチーブメント・イノベーション・アワードの受賞や、全米工学アカデミー/全米医学アカデミー会員およびアメリカ芸術科学アカデミー会員への選出、そして2023年にはアントニオ・グテーレス国連事務総長設立「国連科学諮問委員会」のメンバーにも任命された彼女は、世界的に“AIのゴッドマザー”とも呼ばれ、AI開発の最前線でさまざまな研究に取り組んでいる。

小さな知的好奇心からAIのゴッドマザーへ

2024年9月、NYにて開催されたイベントClinton Global Initiativeにて、ビル・ゲイツと登壇。Photo_ Craig Barritt / Getty Images
Clinton Global Initiative 2024 Annual Meeting - Day 22024年9月、NYにて開催されたイベントClinton Global Initiativeにて、ビル・ゲイツと登壇。Photo: Craig Barritt / Getty Images

そんな彼女の名を不動のものにしたのが、スタンフォードAIラボ(SAIL)のディレクターとして開発した研究用データセット「Image Net」の構築だ。インターネット上にあふれる画像やマルチメディアデータを正確に活用し、整理することは依然として重要な問題となっている。そこで彼女はこの問題を解決すべく、1,400万枚超の画像一点一点に英語辞書WordNetに基づいて名前をつけ、画像の取得・整理などの画像認識タスクを迅速・正確にこなす大規模な同セットを開発。ディープラーニングモデルのリソースとしても広く活用されるなど、のちのAIの発達に大きく貢献した。

その成功に続き2017年に設立したNPO「AI4ALL」では、「AIの発達に必要なのは、あなたの視点」をタグラインに、さまざまな人種の背景・視点・声を取り入れ、実際のAIの開発や実装に反映することで、AI分野のダイバーシティインクルージョンの向上に取り組んだ。

そんな彼女は、自身とAIとの出会いについて、ウェブメディアの「Issues in Science and Technology」にこんなふうに明かしている。

「私がAIの世界に飛び込んだきっかけは、約25年前に抱いた『知性とは何か? インテリジェントな機械とは本当につくることができるものなのか?』という純粋な知的好奇心からでした。そこで私は、プリンストン大学で物理学を専攻しました。物事の根本的な問題について考える物理は、原子単位で世界の仕組みを学ぶことができる楽しいものですし、私の素朴な疑問を解くために必要なものだと考えたのです」

これまでGoogle Cloud AIの機械学習チーフサイエンティスト(2017~2018年)、旧Twitter社の取締役(2020~2022年)、そしてアメリカ政府のAIタスクフォースのアドバイザーを務めるなど、AIの分野で華々しいキャリアを積んできたリー。2024年9月には、イギリス・ロンドンで新たにスタートアップ企業「World Labs」を立ち上げ、急増するAI投資の現場においてわずか創業4カ月で230億ドル(3.5兆円)以上の資金調達を成し遂げるなど、現在同社はユニコーン企業(創業10年以内・企業価値評価額10億ドル以上で急成長が見込めるスタートアップ企業のこと)として急成長中だ。

“空間認識”で、AIと人類の架け橋を目指す

スタンフォード大学のヒューマンセンタードAI研究所の共同ディレクターのジョン・エチェメンディ(左)とともに。Photo_ Peter DaSilva / Getty Images
Fei Fei Li and John Etchemendy Stanford Stanford HAI co-directorsスタンフォード大学のヒューマンセンタードAI研究所の共同ディレクターのジョン・エチェメンディ(左)とともに。Photo: Peter DaSilva / Getty Images

人間の知性には、対人コミュニケーションに反映する“言語的知性”と、周囲の世界を理解し、対話に反映するための“空間的知性”があり、後者はビーチの砂の城からタワーマンションに至るまで、頭の中で視覚化したものを設計図に起こし、実際につくるために役立つものでもある。その一助となる“空間知能(spatially intelligent AI)”の開発こそが、World Labsのミッションだ。

空間にある物の位置・形・大きさ・速さ・向きなどを素早く正確に推論する空間知能は、都市そのものが知能を持つスマートシティなどの大規模モデルの開発に欠かせない。またロボットに搭載された場合、自主的に自分の任務の目的や環境を感知したり、判断・行動することを可能にする。リーのプロジェクトは、この精度を上げることで「人類とAI、そして空間認識の架け橋」となることを目指すというものだ。

歴史的転換点に立つ現代人は、AIとどう向き合うべきか

「例えば2016年にAlphaGoが人間との囲碁対局に勝利するなど、私たちはこれまで些細な変曲点を経験しましたが、AlphaGo自体が社会生活を変えることはありませんでした。ですがサム・アルトマン率いるAIデベロッパー『OpenAI』のChatGPTは、文章作成や翻訳など言語の分野においてこの状況を一変しました。そして今では芸術を制作する生成AIまでもが登場し、人類を根本的に目覚めさせたと言えるでしょう。これは非常に画期的なことです」

さらに、比較的歴史が浅いAI分野に、突如として出現した大規模な言語モデルが人類にAIへの覚醒をもたらし、ビジネスとAIの結束がペーパーレス/キャッシュレスへと社会を刷新するなど、AIは現代人の生活を別ステージに引き上げたと続けるリー。だが一方で、“AIと大衆の覚醒”が結束したとき、使い方次第では民主主義の根幹にも影響を及ぼすことになるのではないかと危惧しているという。そんな彼女は、“AIとは単なるツールである”と認識することこそが、より良い社会の創造に欠かせないと指摘する。

「人間を中心に考えると、AIは人間の尊厳を傷つけたり、仕事を奪ったり、クリエイションを置き換える可能性があるものと認識します。そして国家などのコミュニティを中心に考えると、AIにはコミュニティを補助しながらも、コミュニティ間の偏見や課題を悪化させる可能性も孕んでいます。人間中心の枠組の中では、個人からコミュニティ、それから社会全体へと、AIの責任と影響が同心円状に波及します。AIというツール自体は独立した価値を持ちません。つまり、AIの価値=人間の価値だからこそ、私たち人間はこのテクノロジーの管理者として、また責任ある開発者であり続けなければならないのです。AIと正しく向き合う上で大切なのは、あくまでもそのツールを操作する個人の価値観なのですから」

Text: Masami Yokoyama Editor: Mina Oba

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