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心を満たせても労われるものが少ない世の中で「休む選択」は自己肯定

  • 2025.1.8

「休みたい」「はやく家に帰りたい」「仕事・学校に行きたくない」

一度は言ったことのあるだろう言葉たち。ほとんどの人が社会でこなしていかなければならない予定から遠ざかること、いわゆる”開放”を願う中で、わたしは休むことを嫌っていた。

◎ ◎

きっかけは高校2年生の時だった。母と出席した三者面談で担任の先生から「志望校に入るには学年で1番になりなさい」と微笑とともに告げられた。そのほほえみには嘲笑いの意味が込められていることを親子どちらも悟った。

当時の私は学年の250人の中で50番目に位置する中間層の人間で、得意なことも、特異なこともなかった。

バスケ部に所属していたので部活と学問の両立を頭の片隅に置きながら、ありきたりな生活の中で、並みの努力をしていた。
そんな私が目指した大学は当時の私にとって、他人が鼻で笑えるほどに遠い目標であったことは間違いない。ただ私は本気でその大学に入学することだけを考えていた。

「志望校に入るには学年一位に」

この努力をして入学が叶わなかったら、担任に責任を持ってもらおうと半分見返しの念を込めつつ、この言葉を信じて高校生活を送ることを決意した。

◎ ◎

学年1位の子は、私のクラスにいた。帰宅部ガチ勢のおとなしい女の子。
私はまずその子の勉強方法を模倣した。
すると2年生の終わりには学年20位までのぼることができた。

3年生になり、帰宅部の彼女と引退間近の私には勉強時間に大きな差ができた。
その穴を埋めるために始めたのが、タイムマネジメントだ。
彼女の持っている放課後の豊富な時間を私の生活でも獲得するために10分単位でスケジュールを組んだ。

もちろん勉強は成果主義であるため、そのスケジュールが狂うこともあり、想定よりも過酷な一日を過ごすこともあった。

そんなときは10分休みでお弁当をかきこんで、友達と過ごす昼休み時間を図書室自習に費やした。

◎ ◎

私はそこから休む自分に気が付くと、学年1位のあの子の顔が浮かぶようになった。
私が休んでいる間にあの子は前へ進んでいる、と考えると置いていかれている気がして
怖くて仕方なかった。

努力の甲斐あって3年生では学年1位を獲得して無事に志望大学への入学を果たした。
入学してからも2年間でつけてしまった癖が治らず、「スケジュール帳を埋めること」を考えていた。
アルバイト4つの掛け持ちの中、論文を書いて、海外留学をして、ボランティアに打ち込んだ。

スケジュール帳に文字が増えていくこと、空白が消えていくことで心が満たされていった

しかし、大学生活終盤の12月、私を恐れから解き放った言葉があった。
カンボジアのボランティアツアーに参加した私が出会った1つ年下の女の子からもらった言葉だ。

「自分で一番、自分をかわいがってあげて」

◎ ◎

ふと考えてみると生きていく中で自分を満たすものはあふれているけれど、自分をいたわり、かわいがるものは多くない。

自分に休みを与えること、落ち着かせること。
時間から解放して自由な時間を贈ってあげる。

そしてなにより、休むわたしを「休む選択を選べて偉い」と讃えてあげる。
まさしく、酒好きサラリーマンが健康のために最寄り駅の1駅手前で降車して歩いて帰ることに近いものを感じる。
その選択をできる自分が偉いと周りに自慢したくなるほどに褒めてあげちゃう。

居酒屋のビールと唐揚げを共にして発される「最近、健康のために隣駅まで歩くようにしててさ~」のセリフは今を生きる自分への自己肯定の形である。

学生生活で身につけた習慣は社会人になった今でも完全には治らない。

予定がなく、なにもしていない自分に向き合う時間が怖いと思うときもあるけれど、その時には心の中で中年男性を呼んで「最近忙しいから少し休むようにしてるんだよ~」なんて言葉で盛大に讃えてしまうのだ。

■智山 桃佳のプロフィール
東京都から茨城県へ下京をした社会人1年生。30歳までにASEAN10か国制覇するのが目標。 X:@momo14375233

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