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体操選手の“レオタード問題”「生理中は不安」「娘に着せたくないという声も」 元五輪代表・杉原愛子の画期的な挑戦――2024年BEST記事

  • 2025.1.7

2024年にCREA WEBで反響の大きかった記事を発表します。インタビュー部門の第1位は、こちら!(初公開日 2024年8月10日 ※記事内の情報は当時のものです)


杉原愛子さんは、2016年リオデジャネイロ、2021年東京とオリンピック2大会連続で出場経験があるトップ選手。2023年には、これまで定番とされてきた“ハイレグ”に続く体操ユニフォームの新たな選択肢として日本初のスパッツ型レオタードの「アイタード」を考案し、話題を集めています。

「誰もが安心して、楽しみながら体操競技に取り組めるような環境を作りたい」という杉原さんに、アイタード誕生の背景について聞きました。


東京オリンピックで「ユニタード」に衝撃を受けた

幼い頃から体操が大好きで、練習に打ち込んできた杉原さん。パリ大会では補欠選手として帯同。

――4歳で体操をはじめた杉原さんにとっては、ハイレグのレオタードを着ることはずっと当たり前だったと思うのですが、いつ頃から違和感を覚えるようになったのでしょう?

子どもの頃から、レオタードから下着が見える・見えない問題はありました。練習中はレオタードの上にショート丈のスパッツを穿いているので気になりませんが、試合の時は友達とチェックし合っていました。

違和感というか、ちょっといやだなと思うようになったのは生理が始まってからです。
生理中に試合が重なった時は、下着からナプキンが見えていないか、不安やストレスを感じるようになりました。でも「これしかないから、しょうがない」という感覚だったんです。

手にしているのは、2024年5月に開催されたNHK杯で着用したアイタード。

――そこから大きく一歩踏み出して「アイタード」を開発されたのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

東京オリンピックで、ドイツの選手たちが足首まで覆われた「ユニタード」を着ているのを見た時に、そんな選択肢もあったのかと衝撃を受けました。

――確かにユニタードは衝撃的でしたね。盗撮被害を減らす上でも、効果的なのではと話題になりました。

ただ、私はユニタードを選択しませんでした。理由としては、普段の練習では手が直接肌に触れているのに、試合でいきなり感覚が変わることで、宙返りや、太腿の後ろを持ったり、膝を持ったりする時に、滑ってしまいそうで不安があったからです。

アイタードの開発に繋がったきっかけは、体操教室にお子さんを通わせている保護者の方から、「(性的な視線から守るために)自分の娘にレオタードを着せたくない」という声を聞いたり、「『そういう目で見てるんだろう』と言われるから、ファンであることを公言できない」という男性の体操ファンがいると知ったことです。

子どもの頃から体操界にいる私としては、レオタードに憧れて体操をはじめるものだと思い込んでいたところもあったので、こうした外からの声はショックでした。

そこから、練習着のようにレオタードとショート丈のスパッツが一体化したユニフォームがあったらいいよね、という議論になり、「アイタード」が生まれました。

ブロンズカラーと肩あきデザインが大人っぽい印象。女子体操 アイタード 37,000円/オリンストーン
演技中、ちりばめられたラインストーンに光が反射してキラキラと輝く。女子体操 アイタード35,500円/オリンストーン
飾りは少ないが、ピンクやブルーなど気分が上がるカラーで仕上げた練習着。女子体操 アイタード12,980円/オリンストーン

丈や裾のデザインには苦労しました

アイタードのこだわりについて語る杉原さん。

――開発には時間がかかりましたか?

昨年の6月頃に(レオタード専門ブランド)のオリンストーンさんにお話を持ちかけて、9月に出場した全日本シニア体操競技選手権ではお披露目ができたので、2、3カ月で完成しました。割と早かったですね。

――デザインを考える上で、大変だったことやこだわった点は?

動きやすいよう、素材にもこだわった。

大変だったのは、「脚の付け根から2センチ以下の長さでなければならない」など、規定を守りながらも、下着やナプキンが見えないようにすること。女子選手は開脚も多いですし、脚を上げればさらに食い込んでしまうので、丈や裾のデザインには苦労しました。

それから、スパッツだと脚が短く見えるのではという意見もあったので、ウエスト部分に切り返しのようなデザインを入れることで、脚が長く見えるように工夫しています。素材も、普段通りの動きができるように、しっかり伸縮性のあるものを選んでいます。

――実際に着た方から、どんな感想が寄せられていますか?

保護者の方からは、「レオタードを着せることに抵抗があって、体操をやめさせようと思っていたけれど、これだったら安心して着せられます。アイタードを作ってくれてありがとうございます」と感謝のメッセージをいただきました。

他にも、トランポリンを習っている小学生から、「トランポリンは大好きなのに、レオタードを着たくないから大会に出たくなかった。この間、アイタードを着て初めて試合に出場しました!」という声もいただいて。役に立てていることが本当に嬉しいですね。

実は私自身、5月のNHK杯と生理が重なっていたんですが、アイタードを着ていたので、以前感じていたような「下着が見えていたらどうしよう」「もしもナプキンがはみ出てしまっていたら、しかもそんな瞬間を盗撮されていたら……」などの不安やストレスを感じることなく、競技に集中することができました。

レオタードを否定しているわけではなくて、新しい選択肢のひとつとして、トップクラスの選手の方たちにも認知度を広げていきたいです。

体操をメジャースポーツにしたい

「オリンピックが終わってからも、体操に注目してほしい」と杉原さん。

――一人一人が自分の選択で、試合の際に何を着るかを選べたら素敵ですよね。杉原さんは昨年、ご自身の会社「TRyAS(トライアス)」を設立し、「アイタード」ブランドも立ち上げたわけですが、これからどんな展開を考えていますか?

会社を設立した背景には「体操をメジャースポーツにしたい」という想いがあります。

オリンピックに出場すれば注目をしていただけますが、他のスポーツと比べると圧倒的に認知度が低く、国内の大会はあまり知られていません。

今年は、体操の魅力を発信することを目的としたユニット「Jts CheerZ(ジェイティエスチアーズ)」も立ち上げました。世代も活動する場所もさまざまなメンバーが、それぞれの夢に向かって頑張っている姿を伝えると同時に、Jtsでは、体操競技の技術以外の部分――栄養面、コンディションの整え方、音楽の勉強など――の強化や育成を目的としたアカデミックなプログラムも展開できたらと準備を進めているところです。

以前から「体操×エンタメ」の融合を思い描いているのですが、フィギュアスケーターの方がアイス・ショーで活躍されているように、体操競技の技術を観て楽しんでもらえるようなショーを開催したいですね。

――体操のショー! 想像するだけでとても楽しそうです。

2022年に一度選手の立場から離れたことで、改めて自分は本当に体操が大好きで、この素晴らしさ、楽しさをもっとみんなに知ってほしい! と思いましたし、いろんな方法で伝えていきたいです。

――杉原さん自身も、Instagramで練習風景などを発信されていますね。ちなみに、体操競技を観るときのポイントはありますか?

アクロバティックで難しい技をカンタンにこなす姿ももちろんですが、最も重要なのは「着地」ですね。着地がピタッと決まった瞬間は、選手自身も達成感がありますし、会場も一気に盛り上がります。

逆に、着地後にほんの少し動いてしまっただけでメダルの色が変わってしまうこともあるんです。ぜひ、最後まで目を離さずに観ていただけたらと思います!

杉原愛子(すぎはら・あいこ)

1999年大阪府出身。2015年、日本代表として第6回アジア体操競技選手権大会に出場し、日本女子団体総合で金メダル、個人総合でも金メダルを獲得。 2016年リオデジャネイロ、2021年東京、2大会連続オリンピック出場。2017年10月、モントリオールで開催された世界体操競技選手権大会では個人総合決勝の平均台で披露した「足持ち2回ターン」が、新技「SUGIHARA」と命名された。 2022年に選手として「一区切り」し、第一線から退くことを発表。翌年、全日本体操種目別選手権で1年ぶりに競技復帰し、床で2年ぶりの優勝を果たした。2023年に株式会社TRyASを立ち上げ、体操競技の普及活動や後進の育成にも力を注いでいる。

TRyAS https://tryas-inc.co.jp/
Instagram @aiko_sugihara

文=河西みのり
撮影=佐藤 亘

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