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俳優・山﨑努の初の自伝、山下智久の特別寄稿も収録。『天国と地獄』の演技が良すぎて、黒澤明が急遽ラストシーンを変更!?【書評】

  • 2025.1.6
ダ・ヴィンチWeb
『「俳優」の肩ごしに』(山﨑努/文藝春秋)

『「俳優」の肩ごしに』(文藝春秋)は、俳優・山﨑努の初の自伝である。ドラマや映画で見る山﨑の演技は、作為的なところが一切なく、自然と役になりきっているように見え、その姿に心を打たれる。この自伝も同じだ。シンプルな言葉で、飾ったところがなく、これまで自身が感じた思いを素直につづっている。

幼年期から少年期の思い出、新劇に出会い、俳優の道へ——。俳優として生きること60年余り。本書を読んで思うのは、山﨑努という人は、自分の思う俳優の道を真摯(しんし)に歩み続けてきたということだ。自伝といってもプライベートなことはあまり語らず、ほとんどは芝居とどう向き合ってきたのかに費やされる。その中では名だたる人物との出会いが数多くあった。黒澤明、三船敏郎、森繁久彌、山田太一、寺山修司、伊丹十三…。

山﨑は、1963年公開の黒澤明監督の映画『天国と地獄』で誘拐犯役を演じ、一躍脚光を浴びる。本作は主人公を演じる三船敏郎と山﨑が刑務所で対峙するシーンで幕を閉じるが、本来の脚本ではその後にエピローグが描かれていたという。しかし、2人のシーンの撮影を終えた黒澤は考えを変える。山﨑はそのときのことを次のように回想する。

“黒澤さんが寄ってきて「あの対決、とてもよく出来た。あれをラストシーンにするよ」と囁いた。あの場面の後にエピローグがあるのだが、それをカットするのだと言う。「やったぜ!」。だがそれは隠し「はあ、そうですか」と頭を下げ、礼をした”ダ・ヴィンチWeb

まだ25歳の若手俳優が、巨匠監督にこんな言葉を掛けられた喜びはいかほどだったろうか。さらに山﨑は、今も大切にしているという黒澤から言われた言葉を明かす。

「映画作りは、自動販売機にコインを入れてジュースを買うようなわけにはいかないんだよ。毎日毎日、目の前にある仕事を一生懸命やる。そうするといつの間にか終わっているんだ」ダ・ヴィンチWeb

山﨑は仕事中に萎えてしまったとき、今でもこの言葉を思い出すという。今の瞬間に集中し、全力を懸ける。俳優のみならず、どんな職業に対しても通じる考え方だろう。

ほかにも『東京夜話』で豊田四郎監督に「あんたヘタなんや」と絞られまくったこと(その5年後、山﨑の舞台を観劇した豊田監督は「あんた、うもうなったなあ」と絶賛する)。山田太一脚本の『早春スケッチブック』で演じた沢田竜彦がこれまで演じた役の中で、最も好きなキャラクターの1つで、以降、山田からの出演依頼は無条件で引き受けていること。そして1998年上演の『リア王』までずっと舞台に情熱を傾け続けてきたこと。そんな言葉や経験の数々が明かされ、その一つ一つが山﨑努という俳優を作り上げている。

本書は2022年に出版された同名タイトルの文庫版だが、この度、俳優・山下智久による特別寄稿も新たに収録されている。山﨑と山下は2006年放送のドラマ『クロサギ』(TBS系)と2022年、2024年に放送のドラマ『正直不動産』シリーズ(NHK)で共演した間柄。18年前の共演以降、山﨑とプライベートでも付き合いがあるという山下は、こう書いている。「十八年前の出会い以来、努さんから多くの言葉をいただきました。それらは粒子のように降り積もって、僕の生き方の基盤になっています」。

山﨑がさまざまな人から数々の言葉や経験を得たように、山下もまた山﨑から同じように受け取っている。山﨑努、現在88歳。新たな作品を見たくなった。

文=堀タツヤ

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