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体験型コンテンツからイマーシブ演劇へ—きださおりが挑戦する新たな表現の世界

  • 2025.1.6

「リアル脱出ゲーム」をはじめとした体験型コンテンツの第一人者であるきださおりさんは、現在ホリプロとの共同プロジェクト「イマーシブ演劇」という新たな表現方法に挑戦している。「演劇」という領域とコラボするのはなぜなのか。観客の感動への想いに変化があったのか。5 年弱ぶりにじっくり話を聞いた。

文・稲垣美緒(Harumari TOKYO)
撮影:大塚みつお
画像提供:夕暮れ

東京ドームシティを会場にした「黄昏のまほろば遊園地」や、実際のホテルを使用して上演している泊まれる演劇「QUEEN’S MOTEL」など、数千人規模の総動員を誇る数々の没入型コンテンツの監督や脚本・演出を務め、「リアル脱出ゲーム」黎明期から数々の名作を生み出してきたクリエイター・きださおりさん。

コロナ禍の「リアルな場」が使用できなくなるという逆境においては、オンラインでどんなことができるのかを模索。在宅でできるエンタメとして「謎解き」や「体験型コンテンツ」は一気にその知名度を上げたといえるだろう。

「当時は、体験コンテンツの文化が途絶えないように、ってとにかく必死。それから、来れなくなっちゃったお客様が家で塞ぎ込まないように、という想いも大きくて、『これを機に多くの人に届けたい!』とまでは考えていなかったので、結果としてそうなっていたんだな、と今になって思いますね。『コロナ禍に知った』といって足を運んでくださるお客様がすごく多い。あの頃もがいていろいろやったのは、無駄じゃなかったんだな、というか。あの時期があったから、今続けていけてるってところはあるかな」と振り返るきださん。

2021年のインタビューはこちら

過去のインタビュー内でも「イマーシブシアター」について言及しているが、「SCRAP」での活動とは別に個人で会社を設立、ホリプロと一緒に演劇の要素を取り入れた新しい形の体験を提供するプロジェクトを立ち上げるとのニュースが飛び込んできた。

きださおりと「演劇」の接点とは?

「大変申し訳ないのですが、実は、そこまで演劇には詳しい!というわけではないんです。どちらかといえば、新参者です(笑)。京都にいたのでヨーロッパ企画さんなどが好きで、舞台を観に行ったことは何回もあります。もちろん行けばすごく面白いし、楽しい。ただ、当時は音楽のライブやフェスに通い詰めていて、自分でチケットを取って遊びに行く場合、演劇よりはそちらに遊びに行くことの方が多かったですね。」

その後、きださんの制作する謎解きイベントに参加した知人に「イマーシブシアターのようだね」と言われることが何回かあり、演劇を意識するきっかけになったという。

「最初は何のことかわからなかったんですけど、『イマーシブシアター』という言葉を調べていくうちに、演劇に興味が湧きました。観客を巻き込む演劇には、私がやってきた謎解きに通じるものがあると言っていただくことが増えて。そこで初めて、海外に行って、たくさん演劇を見たんですよ。実際に海外で観た舞台は、演劇なのか体験なのかわからないものもあって、面白かったですね。ものすごく深く、観客が物語の中に入り込むような感覚を味わえるものでした」

特にロンドンでは「演劇とイマーシブシアターのような観客参加型の体験の境界があまりない」と驚いたのだそう。老舗の劇場でやる有名な演目から、夏の夜にだけ野外で行われるカジュアルに飲食をしながら楽しめるものまで、たくさんの演劇と触れることで、きださんにとっては、自身の作るコンテンツへの大きなヒントと刺激になった。

役者の演技もさることながら、舞台装置や照明・音響・行われる場所など、演劇の領域から参考にできるものがたくさんあると感じたのだ。

「体験型」に活かせる、演劇の要素

演劇の領域から持ってこようとする要素は、「表現力」と「演出力」に尽きる、ときださんは語る。

「演劇界の『オーディション』文化を本格的に取り入れてみたら、こんなに素晴らしく意欲的な方々が来てくれるのか!みたいな(笑)。今まで、体験型コンテンツの1シーンに必要なので誰かにお声かけする、ということはありましたが、広く募集するということは多くなかったので。演劇界の力を借りようと思ってからは、出会えてなかった人と出会えるのが面白いなと思いましたし、プロの役者さんが持つ表現力って本当に凄い。シナリオへの没入度が、より深くなるんですよね。演技が素晴らしいと、体験のクオリティがどんと跳ね上がる。そこに本当に助けていただくようになりました。あとは照明や音響もすごいなって思います。そこにこだわって作る細かい演出が、お客様の没入度をより深くして、感動を作れる。私は体験を作るプロではあるけれど、演技や演劇は素人なので、演劇のチームとコラボさせてもらうことによって、2倍3倍の没入度を提供することはできるんじゃないかなと思ったんです」

「この人と一緒にやりたい」初期衝動に立ち返る

2023年、きださんは産休を取得。走り続けていた日々から一瞬解放される一方、時を同じくして「特殊な場所でやる体験コンテンツ」や「違う業界が取り組む体験コンテンツ」の話が舞い込むようになったのだそう。中でも初めは“ママ友”として紹介されたホリプロのプロデューサーとの出会いは大きかった。

「表現とか、コンテンツについての考え方がすごく似ていて。『この人とご一緒したら面白そう』って思えるプロデューサーさんって出会えたら奇跡。話しているうちにどんどんお互いアイデアが湧いてくるというか。いろんなことをやりたくなってしまって(笑)。ありがたいことに「一緒に面白いものを作りましょう!」となったのですが、自分自身が小さな子供を抱えていたり、それまでも個人でイマーシブコンテンツの脚本・演出や漫画原作などのお仕事はしていたものの、個人で出来る範囲の限界もあるなと思っていたので、色々なご相談に対してより万全な体制で制作をさせていただけるよう『夕暮れ』という個人の会社を設立しました」

以前より取り組んでいる「謎解き」の分野もますます面白くなっていると感じていて、謎解きでも実現させていきたい企画が沢山あるのでSCRAPでも引き続き制作をしつつ、自分の好きなことや趣味全開の企画は夕暮れで、企画に合わせてチーム編成をすることをイメージしているのだそう。

そのプロデューサーとの出会いをきっかけにさらに本格的にイマーシブ演劇に取り組むことになった。動き出す原動力が「人との出会い」であると断言するきださん。彼女の作り出す体験コンテンツに「温度感」を感じる所以も、そこにあるのかもしれない。

イマーシブ演劇の可能性

現在進めているホリプロとのプロジェクトでは、プロの俳優たちと共に「リアルな没入感」を追求している。

東京都千代田区にある千代田中学校・高等学校(2025年4月より当名称に学校名を変更予定)の協力のもと、実際に現在も使用されている高校の校舎全体が会場となる。参加者は登場人物の一人として物語に参加。「青春時代を追体験し、きっと誰もが一度は思ったことのある『あの頃に戻れたら…』を叶える没入型エンターテインメント」と発表されている。

「お客様がただ観るだけでなく、自分が物語の中にいると“より強く”感じられることが大切だと思います。演劇の力を借りて、舞台美術や音響、役者の表現力をフルに活用して、観客を引き込む演出を考えています」

きださんが目指すのは、体験型コンテンツと演劇を融合させた新しい体験の創出だ。

「演劇の持つ力を活かしながら、今までの体験型コンテンツの枠を超えた表現を目指したい」と語る彼女の挑戦は、これからも進化を続けていくだろう。

さらに、産休・育休中の生活が新たな視点を与えたという。

「子どもと過ごす時間が増えたことで、実際に自分がおでかけできる時間にはある程度制限ができてしまったのは確か。保育園がやっていない土日はどうしても子連れになるし、夜もあまり出歩けない。自分がそうなって初めて、家にいながらも楽しめる体験の重要性を感じました。もちろんコロナ禍を経て、そういった装置は当たり前に選択肢に挙がるようにはなっていたのですが、イベントに行くのと同じくらい楽しめる、オンラインやグッズを活用した新しい形の体験を考え始めてはいますね」

最大のライバルは、スポーツ観戦などの「リアルな盛り上がり」だという。

「結果がどうなるかわからない、という意味での“なまものの盛り上がり”にはやっぱり勝てないと思うんです。でも、今演劇という領域からヒントを得て体験型コンテンツがパワーアップしているように、それらの中からまたヒントを得ていくこともできると思っているんです」

きださんが描く未来の体験型コンテンツは、観客をより深く物語の世界に引き込み、その中で新しい感動を生み出す。イマーシブ演劇の可能性が広がる中、その挑戦がどのような形で結実するのか、これからも注目していきたい。

きださおり

没入感の高い体験型エンターテイメント企画を生み出すクリエイター。国内外で100公演以上の人気『リアル脱出ゲーム』を企画制作したり、世界一謎があるテーマパーク『東京ミステリーサーカス』の立ち上げプロデュースを務めたり、週刊少年ジャンプ史上初の体験型推理ゲーム漫画の原作や、東京ドームシティを会場にした「黄昏のまほろば遊園地」の監督、世界初の宿泊型イマーシブシアター『泊まれる演劇』脚本・演出を担当し、体験型ファンのみならず幅広い人々に楽しまれている。イマーシブ体験に特化した『株式会社夕暮れ』を2024年10月に設立した。

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株式会社夕暮れ HP https://twilight.co.jp/

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