1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 良質な眠りを得られると話題の「スリープマキシング」――それって本当に睡眠に良い?

良質な眠りを得られると話題の「スリープマキシング」――それって本当に睡眠に良い?

  • 2025.1.5

TikTokでブームの睡眠法「Sleepmaxxing」とは?

私は寝るのが大好きだ。調子はどうかと聞かれれば、昨晩の睡眠時間を答える。もし8時間半眠れたら、一日中そのことを誇り、おそらく一度は話題にあげる。自分へのちょっとしたご褒美として、爆睡するために寝具や睡眠環境の質が高いホテルを予約したり、マットレスや布団についてやけに頑固な意見を持っていたりする。

とすると、睡眠の質を最大化させるとしてTikTokで話題の「Sleepmaxxing(スリープマクシング)」は私にぴったりなはず……なのだが、実のところあまり魅力を感じていない。最近は何でも「マキシング(maxxing)」をつければいいという風潮にも抵抗があるし、その妙にインセル寄りなネーミングなど、私は全体的にこのトレンドに納得できていない(※「最大化させる」という意味で語尾にマキシングをつけるスラングがTikTokを中心に流行っており、このスラングはインセルコミュニティ発祥だという説がある)。

スリープマキシングに関連したTikTok投稿は、現在約9860万件ある。スリープマキシングとは、睡眠の質の最大化、または改善を目指す、あらゆる「ハック」を表す包括的な用語だ。マグネシウムのサプリメント。キウイ。口をテープで閉じる。寝る2時間前から水分を摂らない。寒い部屋で眠る。「松果体覚醒瞑想」などなど。こう並べるとお気づきの方もいるだろう。スリープマキシングコンテンツの多くは、気分の良さよりも、見栄えの良さに重点を置いている。スリープマキシングならぬ、ルックスマキシングだ。そして、このトレンドは若い男性によってリードされている(あるユーザーは「より良い睡眠はシャープな顔と体格を形成する」と主張している)。スリープマキシングとは、外出や遊びなどほかのあらゆることよりも優先するほど眠りにこだわるという、古くから存在する思想に新しい言葉がついたものだ。

「上質な睡眠を」というプレッシャー

スリープマキシングの概念は、私にとっても初めてではない。2020年、iPhoneで睡眠トラッキングができるようになり、私はアプリの魔術にかかってしまった。6時間しか眠れなかった夜は、大事な試験で失敗したような、絶望的な気分になった。睡眠不足を数字で叩きつけられ、良質な睡眠への思いはさらに募った。

「人生で最も重要なのは睡眠」というメッセージを常に浴びせかけられていたことも、不安を助長した。確かに睡眠不足は、認知症、心臓病、糖尿病など、さまざまな健康不良のリスクを高める。一晩の睡眠時間が6時間未満だと、寿命が縮む可能性もある。睡眠はあらゆる側面で、文字通り生死に関わる要素だと私たちは言い聞かされてきた。もちろん、科学の裏付けもある。早く寝ないと、と私の脳は毎晩叫んでいた。眠れ! 今すぐ!

この不安が睡眠サイクルに悪影響を与えるのは明らかだ。睡眠障害は、不安障害を抱える人々の間でより多いことが、複数の研究で判明している。また、睡眠障害は不安を高める要因にもなる。結局、睡眠アプリの数値に囚われ、目にクマを作るという負の連鎖に陥ってしまう。つまり、睡眠にこだわった結果、その行為が睡眠に悪影響を与えるのだ。

寝る前に電子画面を見ない。夜11時までには消灯する。毎晩メラトニンを飲む。アプリでレム睡眠時間を記録する──。睡眠の質を最大化するため施してきた対策は、もはや睡眠を「快適で必要なもの」ではなく、「毎晩取り組まなければならない非常に緊張感のあるエクササイズ」に変えてしまう。

長年、睡眠にこだわってきた私からの重要な睡眠ハックは「焦らないのがいちばん」だ。睡眠時間が足りなかったからといって一晩で醜い怪物に変身するわけではないし、何十億もの睡眠ハックやアプリは、おそらく長期的に見ると睡眠の質の向上に役立たないからだ。

私は最近、眠れなくても固執せず、ただ受け流すようにしている。「まあ、明日の夜には眠れるよね」と。たいてい、そうやって睡眠の手綱を手放すと、その瞬間眠りに落ちる。

Text: Daisy Jones Translation: Rikako Takahashi Adaptation: Sonia Kanazawa

From VOGUE.COM

元記事で読む
の記事をもっとみる