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美術監督がグレードアップしたセットの秘密を明かす!「イカゲーム」シーズン2の撮影現場を独占レポート

  • 2025.1.5

配信開始と同時に日本でもNetflix視聴ランキング1位(TV番組部門)を獲得し、人気と注目度をあらためて証明した「イカゲーム」シーズン2。さらに壮絶になったデスゲームに強烈なインパクトを与えているのが、前作同様、ピンクやイエローなど鮮やかなパステルカラーと遊び場を想起させるノスタルジックなデザインだ。不穏な緊張感を高める、恐怖と明るさの対比。シーズン1以上に仕掛けがあるというそのビジュアルは、どのように作られたのか。2023年12月、韓国・ソウル郊外の撮影現場で極秘に行われたセットビジットで明かされた製作秘話を独占レポートする。

【写真を見る】非日常的さを生みだす「イカゲーム」のセットの秘密とは?

【写真を見る】非日常的さを生みだす「イカゲーム」のセットの秘密とは? Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
【写真を見る】非日常的さを生みだす「イカゲーム」のセットの秘密とは? Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

ポップな「迷路階段」が象徴する倒錯の世界観

撮影現場に向かうバスに乗る取材陣は、「ソウル郊外のスタジオ」としか知らされないまま、目的地に向かった。まるで、イカゲームの参加者たちが、行先を知らずに車に乗ったかのように。到着すると、ビニール状の袋が渡され、スマートフォンを入れるように指示された。撮影、録音は一切禁止。もちろん、情報解禁日までは口外禁止。キャストやスタッフも情報漏洩は厳禁だったという極秘の撮影現場に、ついに足を踏み入れた。

スタジオの無機質な廊下を進むと、音楽が聞こえてきた。太鼓と笛が奏でるのは、「Way Back then」。そう、「イカゲーム」で流れるあのBGMだ。目の前にどーんと広がる、ピンクとイエロー、グリーンの空間。四角や三角の窓や斜めに高く伸びた階段に、取材陣から「ああ…」とどよめきの声が漏れる。そう、「イカゲーム」シーズン1にも登場した「迷路階段」のセットだ。

シーズン1にも登場した、デスゲームの参加者たちが上り下りする階段 Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
シーズン1にも登場した、デスゲームの参加者たちが上り下りする階段 Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

三角の窓からひょっこりと姿を現したのは、美術監督のチェ・ギョンソン。シーズン2のセットの裏側をはじめて明かすことについて「ちょっと緊張しながらもワクワクしています」としながら、語り始めた。

「これが『迷路階段』の舞台セットです。シーズン1の時と同じく、エッシャーの作品から着想を得ています。今回は規模を大幅に拡大し、階段のレイヤーをもう一つ追加して全体を150坪ほど広げました。高さもさらに高くなっているので、シーズン1を覚えている方なら『随分大きくなったな』と感じるはずです」

絵画や版画で有名なオランダの芸術家M.C.エッシャーは、錯視効果のあるパラドックス構図で知られている。上に向かっているはずの階段が下に伸びているように見えるなど、入り口と出口がわからなくなるような、不思議な空間感覚を生み出す作風だ。シーズン1の「迷路階段」は、そのエッシャー的な世界を舞台セットとして再現し、大きな注目を集めた。

チェ美術監督によれば、前作のコンセプトは引き継ぎつつも、階段全体はシーズン1より約30%拡大されているという。取材した日は撮影が迫っており、床部分などはペンキ塗りたてのため、参加者が階段を自由に上り下りすることはできない状態だった。

エッシャーの作品から着想された階段のセット Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
エッシャーの作品から着想された階段のセット Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

「本当は皆さんにこの階段を体験していただきたかったのですが、撮影直前で仕上げの真っ最中なんです。階段に上ってあちこち回ってみると、『あれ、さっきの入り口がどこにあるんだろう』という不思議な感覚を味わえるはずです。実際、シーズン1ではスタッフや監督も『どこから出入りすればいいのか分からない』と混乱していました(笑)」

シーズン1と同じく迷路階段の基調カラーは印象的なピンクがメインだ。その理由についてチェ美術監督は、「残酷で緊張感のあるゲームの空間と対照的に、どこかポップで無邪気な雰囲気を表現したかった」と説明した。生死をかけた舞台でありながら、一見すると子どもの遊び場やおもちゃ箱を彷彿とさせるような色づかい。そこに「イカゲーム」特有の倒錯感や不安感が生まれるのだ。

「私は子どもの頃からエッシャーのパラドックス構図が大好きで、「いつか自分のデザインに活かせたら」思っていました。『イカゲーム』の脚本を初めて読んだ時、この作品なら実現できる!と確信したんです。シーズン2はさらに拡張され、撮影の動線も複雑になっています」

エグゼクティブプロデューサーのキム・ジヨンは、この「迷路階段」がシーズン2でも重要な出会いと対立の場になると語る。

シーズン2後半ではこの階段が戦闘の舞台になる Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
シーズン2後半ではこの階段が戦闘の舞台になる Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

「この階段は、生存者だけが通れる場所です。ゲーム会場から宿舎へ戻る経路で、A地点からB地点へ移動する際にここを必ず通ります。シーズン1でも、ここで運命的な出会いがあったり、衝突が起こったりしましたよね。シーズン2では規模が大きくなった分、思いもしない新たな展開が生まれます。『ここで初めて話をする相手が、実は…』というドラマがいくつも待ち受けています」

視覚的なインパクトだけでなく、物語の起点としても機能しているのが「迷路階段」だ。登場人物たちの互いの関係性、裏切りや協力といった要素が、不思議な空間の中で交錯する。シーズン2のクライマックスには、階段の複雑な要素を生かした激しい銃撃戦も繰り広げられる。

光る◯と×が映しだす絶望のコントラスト

続いて公開されたのが、シーズン1でも大きな話題を呼んだ「宿舎」のセットだ。シーズン1では、壁に隠されたゲームのヒントや、参加者たちが次々に脱落していくたびにベッドが減っていく演出が話題となった。シーズン2では宿舎は大幅にアップデートされ、新たなルール「◯×投票システム」が導入されたことで、その存在感はさらに増している。

「各ラウンドが終わった後、生き残ったプレイヤーたちはここに集まり、『ゲームを続けるか、やめるか』を投票しなければなりません。中央にある緑の箱に◯と✕のボタンがあり、一人ひとりが前に出て押す。そして投票結果によって、◯か×のバッジを受け取り、上着につけるんです」

参加者の生死の運命を分ける◯✕の選択 Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
参加者の生死の運命を分ける◯✕の選択 Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

キムプロデューサーは、こう説明した。投票結果はビジュアル的にも一目瞭然で、参加者同士は「続行派(◯)」と「中止派(×)」に分かれて対立する。その対立構造や心理戦は、シーズン1以上に緊迫感を生む。

さらに、美術監督のチェ・ギョンソンによると、◯と✕のデザインにも工夫が凝らされているという。

「当初、ネオンライトやペイントを使おうと考えましたが、最終的にはLED照明を使うことにしました。部屋の照明を全部落としたとき、青い◯と赤い×がくっきりと浮かび上がるようにしています。赤か青かという2つの色のコントラストは、政治的対立や正誤の象徴とも捉えられ、非常にわかりやすく対立構造を表現できるのです」

シーズン1でも宿舎は暗い空間だったが、今回はさらに暗さを強調した。その分、◯と×の光がより際立ち、観る者に強い印象を与える。3~4メートル高くなった天井は、巨大な「監獄」あるいは「闘技場」のような威圧感を演出する。

 シーズン1ではアメリカ美術監督組合賞を受賞したチェ・ギョンソン美術監督がこだわったシーズン2の宿舎のセット Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
シーズン1ではアメリカ美術監督組合賞を受賞したチェ・ギョンソン美術監督がこだわったシーズン2の宿舎のセット Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

さらに興味深いのは、チェ美術美術監督が宿舎のモチーフを考える際に、「見捨てられた人々」を意識してデザインしたという点だ。シーズン1を始める段階で「世の中から見放され、最後のチャンスをかける人々の暗喩」として大部屋を設計したとし、アーチ状の出入り口とタイル張りの壁についてこう明かした。

「あるとき、高速道路のトンネルの形状が目に留まって、『この曲線を壁面に取り入れたい』と思いました。白いタイル張りの壁も、トンネルの質感をイメージしています。人々が出口の見えない闇を進むような、この閉塞感こそがイカゲームの宿舎にふさわしいと感じたのです」

 Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

シーズン2はシーズン1以上に「生と死」にフォーカスしている、とチェ美術監督は話す。そのアイデアが、迷路階段や宿舎のデザインにも反映されているという。生き残る者は階段を通り、宿舎で◯か✕を選択して次のステージへ進む。しかし投票の結果次第ではゲームを中止できる可能性もある。キムプロデューサーも、そうした設定が、いままさに世界が抱えている「分断や対立」の構造にも重なるのだと語った。

「世界中でいま、政治的・社会的な対立が深刻化していますよね。どちらの側に立つのか、何を選ぶのか。対立が深まるほど、緊張感や人間ドラマが増幅され、観る人に一層の衝撃や共感を与えるはずです」

最後に、本作を指揮するファン・ドンヒョク監督にも尋ねてみた。シーズン1で世界的ブームを巻き起こした中、シーズン2のセットはどのような方針で作られたのか。「既存の迷路階段や宿舎のコンセプトは、あえてそのまま活かすようにしました。シーズン1で築いたビジュアルイメージを踏襲しつつ、少しずつアップグレードして、より複雑な仕掛けを加えたんです」。

「シーズン1よりも複雑な仕掛けをセットに加えた」と語るファン・ドンヒョン監督 Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信
「シーズン1よりも複雑な仕掛けをセットに加えた」と語るファン・ドンヒョン監督 Netflixシリーズ「イカゲーム」シーズン1~2:独占配信中、シーズン3:2025年独占配信

ファン監督によれば、視聴者が「ああ、ここはシーズン1と同じだ」と懐かしみながらも、よく見ると「おや、こんなところに仕掛けがある」と思えるような演出を目指したという。世界中のファンが考察したり、SNSで拡散したりする素材として、ビジュアル面でも大きな挑戦をしているのだ。

今回公開されたセットの数々は、単なる背景ではなく、いわば物語のテーマを支える「もう一人の主役」ともいえるだろう。迷路階段は登場人物たちを翻弄し、宿舎は参加者たちの命運を左右する舞台となり、両者をつなぐ投票システムが対立と分断をあぶり出す。すべてが連動した瞬間、『イカゲーム』の世界観が再び観る者を虜にしていくはずだ。

文/桑畑優香

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