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「見えない……」嘆く少女がわたしに求めていたものは何なのか?

  • 2025.1.5

私はこわいものがたくさんある。カビキラー、台上前転、舌が抜けそうな感覚、ジェットコースター、病気、コンタクトレンズは人生で2、3度しかつけたことない。それも途中で外した。

◎ ◎

中でも一番怖いのは暗闇だ。
毎晩寝るとき、照明には苦労する。真っ暗闇だと怖いが、真っ暗闇で眠ることもある。中途半端に豆電球にしたり、寝室以外の部屋の電気をつけていると目が痛くなる日もあるからだ。びくびくしすぎてそのうち心臓発作で死ぬんじゃないかと思ってしまう。困る。

私はここ数年、障害のある人のアート活動に興味を持ち、オンラインの研修や映画を観たりしている。興味を持った一番の理由は、怖いもの――暗闇――をただ怖いものとして遠ざけるのではなく、知らなくちゃいけないかもしれないと思ったからだ。

それはある夢を観たことがきっかけだった。正確な日付は忘れてしまったが、ここ数年の間に観た夢である。
いわさきちひろの絵のような淡い色あいのなかで、これまた、いわさきちひろの絵に出てくるような少女が「見えない……」と嘆いているという、ただそれだけの夢。

その当時、夢分析の本にはまっていたこともあって、この夢は私に何かメッセージを送っているのかもしれないと想い始めた。
しかしその夢を見た後、私は福祉の仕事ではなく、アート(文化施設)の仕事に就いた。アートや日本文化をコンセプトにした本屋さんでバイトしていたこともあり、アートにかかわりたいと思い始めたのもあるが、後から思えば理由はそれだけではない。

◎ ◎

私の母は、私が高校生の時に社会福祉士の国家資格を取得し、福祉現場で働き始めた。私は小中高と学業成績が悪く、大学時代の就職活動も難航した。そして現在の不安定な雇用形態になるまでに至る。それに反して、母は安定した仕事と収入を得た。だから、私の社会的不適合さを自分の成功例を持ち出して福祉専門用語に当てはめて改善させようとするのが気に食わなかった。私は多分母と同じように生きられないと思う。
だがつい先日まで私は、数年後には社会福祉士の資格を取って、安定した仕事に就きたいと思っていた(正社員ではないことと、指定管理業者ということで不安定な雇用形態と業界のシステムのため)。

そんな中、一昨年受けた公共文化施設の企画担当者のためのアートマネジメント研修を思い出した。ある日の研修で「健康で文化的な生活」という憲法の言葉が出てきた。私はこの言葉は社会福祉分野で聴く言葉だと思っていたが、“文化的”とあるから、公共文化施設に大いに関係のある言葉なのだと感心し、その日のアンケートにそう書いた。

◎ ◎

私自身、日本社会に適合しない者(社会的弱者)として生きていながら、見た目は要領よく生きている人みたいに見られる。結婚しちゃえば?(国の制度に頼っちゃえば?)とか、彼氏できるでしょ簡単に、とか思われる。昨年、同世代の男子からは「この辺に母性が芽生え始めて…」とかにこやかに言われたりして(冗談だとしても質が悪い)、子どもを産む当事者である私自身の今現在の身体的・経済的・家族事情は無視され、子どもができて幸せな家庭ができる前提で(その前提はどこから出てくるのか)男の家事能力の高さと、職業柄こどもだいすき!というのを口説き文句としてきたりして恋どころか引いてしまうのに、彼氏も何もない。恋に落ちることは不可能な状態だったが、生活に落ちるところまで落ちたとき、本当に頼れるのは自分の信じた道と、落ちたときにこちらを向いてくれる人なんだと、身をもって実感した。

私の信じた道とはアートであり、とりわけダンスである。アートで怖いものと向き合い、健康で文化的な生活を追い求める。

さらに言えばあの時見た、まるでいわさきちひろの絵のような夢は、枠組みや境界線の無い、もろ、アートを思わせる夢だったと今となっては思う。あの女の子がわたしに求めていたことは何なのか?そのようなアート的・哲学的問いは――それは資格勉強のような一問一答とは異なる――永い思考の道のりかもしれない。

■伊豆半島からの踊る旅人のプロフィール
コンテンポラリー・ダンスの社会的・アート的地位を高めたく、いつかダンスについてのエッセイを書いてみたいと思っています。
文章力と観察眼を養いたい!
南の島の伝統舞踊も踊っています。
X相変わらず裏アカです……。
X:@green60810 https://twitter.com/green60810

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