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ピーター・ジャクソン版「ロード・オブ・ザ・リング」との関係はこんなところに!最新作『ローハンの戦い』トリビアまとめ

  • 2025.1.3

J・R・R・トールキンの名作をピーター・ジャクソンが映画化した「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ最新作の長編アニメーション映画『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』(公開中)。舞台はトリロジーから遡ることおよそ200年前の中つ国の人間の王国、ローハン。主人公は、シリーズ第2作『二つの塔』(02)に登場する同国のセオデン王のセリフ「槌手王ヘルムの角笛が渓谷に響き渡る!」で知られるヘルム王と、彼の末娘ヘラだ。

【写真を見る】『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』の角笛城の内部。よく見ると、ヘルム王の像がある…!

ベースになっているのは、トールキンが「指輪物語」で書ききれなかったエピソードなどをまとめた「指輪物語 追補編」に登場する槌手王ヘルムの物語。腕をひと振りするだけで敵を殺すことができたといわれるヘルム王が、末娘の姫君を息子であるウルフの嫁に欲しいと申し出た褐色人(ダンレンディング)の王フレカの命を最強の槌手で奪い、それがきっかけで戦争が勃発したというエピソードだ。これに様々な要素やキャラクターを加えて創造したのが今回のストーリー。それはつまり、多くのシーンで「ロード・オブ・ザ・リング」を継承しているということになる。

ローハン第9代国王ヘルム。拳だけで敵を倒せる強靭な戦士としても知られ、「槌手王」の異名を持つ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
ローハン第9代国王ヘルム。拳だけで敵を倒せる強靭な戦士としても知られ、「槌手王」の異名を持つ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI

そんなこだわりを詰め込んだのは、「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズで共同脚本を務め、本作では原案を担当したフィリッパ・ボウエンと、この大作を任され、シリーズの大ファンを自認する監督の神山健治。そこで本稿では、ファンの心をくすぐる『ローハンの戦い』のトリビアの数々を紹介する。

※本記事は、映画のネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)に該当する要素を含みます。未見の方はご注意ください。

『二つの塔』とオープニングから重なる…美術からキャラクターまで細部に注目!

 大鷲と心通わせようとする、怖いもの知らずのヘラ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
大鷲と心通わせようとする、怖いもの知らずのヘラ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI

「ロード・オブ・ザ・リング」ファンは冒頭から息を吞むかもしれない。ハワード・ショアによるシリーズのテーマ曲が(ちょっぴり)流れるなか、俯瞰から雪が残る岩肌をカメラが舐めて行くのだが、それがもう『二つの塔』のオープニングと重なり合う!しかも「これってもしかして実写の映像?」といいたくなるようなリアリティ!トリロジーでは随所で重要な役割を果たした大鷲がスクリーンに入って、やっとアニメーションであることがわかるというほど。ここでファンは心を掴まれること必至だ。

『二つの塔』に登場したローハンの黄金館をそのまま再現したような美しさを放つ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
『二つの塔』に登場したローハンの黄金館をそのまま再現したような美しさを放つ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
ローハンの王族が暮らすメドゥセルドの黄金館など再現度をチェックして!(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]Everett Collection/AFLO
ローハンの王族が暮らすメドゥセルドの黄金館など再現度をチェックして!(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]Everett Collection/AFLO

今回の舞台と物語は中つ国の人間の国、ローハン王国が中心なので登場人物もほぼ人間だけ。『二つの塔』にでてきた丘の上のローハン国王の居城、メドゥセルドが、その外見も内部も映画と同じデザインで登場する。玉座の後ろにタペストリーが飾られているのも同じ。そこで威光を放つのは時のローハン王、槌手王と呼ばれたヘルム。彼の彫像は『二つの塔』の角笛城に飾られているものの、ひとりのキャラクターとして映像化されたのは本作が初めてになる。彼の2人の息子、ハレス(Haleth)とハマ(Háma)は「追補編」に登場するが、末娘の姫君は存在は記されているものの名前はない。今回、ボウエンのアイデアで、父親ヘルム(Helm)と2人の王子の頭文字がHなので、それに準じてヘラ(Héra)と命名された。

ローハンの国を治めていた、ヘルム王、息子のハレスとハマ、末娘のヘラ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
ローハンの国を治めていた、ヘルム王、息子のハレスとハマ、末娘のヘラ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
過ぎ去りし日のヘルムと同じく、セオデンも角笛城に籠城することを決意する(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
過ぎ去りし日のヘルムと同じく、セオデンも角笛城に籠城することを決意する(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

今回のメインの主人公はこのヘラで、彼女のキャラクターは『二つの塔』に登場したセオデン王の姪、エオウィンと重なる部分が多い。王に愛されているところや、実は男勝りで剣に長けているものの、女性ゆえにそれを認めてもらえない部分、最後は剣を持って闘うことになるなどがあげられる。そういうことも意識してか、今回のナレーションを担当しているのは「ロード・オブ・ザ・リング」でエオウィンを演じたミランダ・オットー。エオウィンが200年前の戦いを語っているというスタイルになっている。そしてヘラの侍女である最強のおばさん、オルウィン。意外なほどの大活躍を見せる彼女は“盾の乙女”という設定。エオウィンは“ローハンの盾持つ乙女”と呼ばれていたことを思い出してほしい。

ヘラの姿は、ミランダ・オットーが演じたセオデン王の姪、エオウィンを想起させる(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
ヘラの姿は、ミランダ・オットーが演じたセオデン王の姪、エオウィンを想起させる(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

またヘラの下の兄、音楽好きのハマが口にする「私たちの話が歌として残るだろうか」というセリフは、『二つの塔』でフロドの従者サムが口にする「オレたちのことが歌や物語にならないでしょうか」を思い出させてくれる。本作でそのサムに似ているのがヘルム王の従者リーフ。この男子、ついサムを連想してしまうのはぽっちゃりした体型とその忠実さ。そして、ちゃんと頼りになるからだ。

ヘラの2番目の兄で音楽を愛するハマ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
ヘラの2番目の兄で音楽を愛するハマ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
フロドと共に旅を最後まで続けたサム(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
フロドと共に旅を最後まで続けたサム(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

クリーチャー、指輪、救世主、魔法使い…トリロジーへのオマージュが満載!

ローハンと民を守るために戦うヘラ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
ローハンと民を守るために戦うヘラ LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI

一方、物語のメインが人間のためか、ファンタジージャンルのキャラクターやクリーチャーは最小限に抑えられている。そういうなかで「ロード・オブ・ザ・リング」からの引用は大鷲と、巨大なゾウ、ムマキル/ムーマク(トリロジーでは「オリファント」と呼ばれていた)。そして水に棲む大きなタコのようなクリーチャー、水中の監視者。トリロジーで大鷲はガンダルフやフロドを助けてくれたし、ムマキルは『二つの塔』と『王の帰還』(03)のミナス・ティリスの戦いでハラドリムの部隊が投入していた。水中の監視者は『旅の仲間』(01)でフロドたちがモリアの洞窟に入る前、水中から触手を伸ばしてフロドに襲い掛かったが、今回はヘラの策略によって暴走したムマキルを呑み込んでくれる。

象をモチーフにしたクリーチャー、ムーマクも登場! LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
象をモチーフにしたクリーチャー、ムーマクも登場! LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
アニメーションで描かれた「水中の監視者」は見もの! LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
アニメーションで描かれた「水中の監視者」は見もの! LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
「ロード・オブ・ザ・リング」の時代は、「オリファント」と称されていた象に似たクリーチャー(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
「ロード・オブ・ザ・リング」の時代は、「オリファント」と称されていた象に似たクリーチャー(『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

もう一つ、是非ともチェックしてほしいのは2人のオーク。2人のオークが戦いの犠牲者たちから集めていたのは、なんと指輪!しかもそのセリフは「モルドールはなぜ指輪を?」というものなのだ。モルドール、つまりサウロンは200年前も指輪集めに執着していたということになる。ちなみにオリジナル版でこの2人のオークの声を担当しているのはフロドの旅の仲間のホビット2人組、ピピンを演じたビリー・ボイドと、メリーを演じたドミニク・モナハン。日本語吹替版でも2人を当てた飯泉征貴と村治学が務めているというこだわりっぷりだ。

サウロンは200年も前から指輪を集めていた!? LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
サウロンは200年も前から指輪を集めていた!? LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
「ロード・オブ・ザ・リング」三部作と『ローハンの戦い』の関係は? [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
「ロード・オブ・ザ・リング」三部作と『ローハンの戦い』の関係は? [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

後半の舞台となるのは『二つの塔』の戦い、“角笛城の合戦”と同じく角笛城ことホンブルグ。攻め寄せてくるウルフの軍団から逃れるためヘラたちは、民と一緒にホンブルグに移るのだが、『二つの塔』ではサルマンの放ったウルク=ハイ軍団から身を守るために同じようにセオデン王と民は同じ城砦に逃げ込んでいた。状況がちゃんとリンクしている。この城砦が「角笛城」と呼ばれるのは、ヘルム王の吹く角笛が敵を震え上がらせていたという伝説があるから。『ローハンの戦い』でも角笛を吹いているし、『二つの塔』の時と同じ大きな角笛が城に設置されている。

角笛城にある、大きな2本の角笛も確認できる! LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
角笛城にある、大きな2本の角笛も確認できる! LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
ローハン軍とサルマン率いる1万のウルク=ハイが激戦を繰り広げた角笛城が『ローハンの戦い』にも登場!(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
ローハン軍とサルマン率いる1万のウルク=ハイが激戦を繰り広げた角笛城が『ローハンの戦い』にも登場!(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

もちろん、ホンブルグの外観は(ほぼ)『二つの塔』と同じ。『二つの塔』ではホンブルグの城壁が一部、破壊されているのだが、本作では後半、同じ部分を大鷲が壊してしまう。ということは、その亀裂をちゃんとリンクさせているということ。このこだわりはハンパない。最後の決戦では、ロングウィンターにふさわしい30㎝先が見えないほどの大雪を降らせているのだが、『二つの塔』の“角笛城の合戦”では雨が降りしきっていた(後半、雨は上がるが)。

父フレカを失ったウルフは、ヘルムを憎み、ローハンへ侵攻する LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
父フレカを失ったウルフは、ヘルムを憎み、ローハンへ侵攻する LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI

そんななか、万事休す状態になった時に救世主のごとく現れるのは、ヘルム王に追放されていた甥っ子のフレアラフ。『二つの塔』では、「5日目の朝に帰る」と約束したガンダルフと、セオデン王(正しくはセオデン王を操っていた蛇の舌ことグリマ)に追放された、やはり甥っ子のエオメルなのだ。当然ながら舞台がヘルム渓谷に造られた城砦、ホンブルグ城なので、援軍がずらりと並ぶ場所もほぼ同じ!ちなみにホンブルグ城が位置するヘルム渓谷(ヘルムズ・ディープ)は、ヘルム王の名前に由来する。

グリマに堕落させられたセオデン王に追放されてしまう、甥のエオメル(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
グリマに堕落させられたセオデン王に追放されてしまう、甥のエオメル(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

原作ではヘルム王の直系の血筋は、この戦いを経て途絶えたことになっていて、本作ではヘラはいとこのフレアラフに王位を譲り、原作と辻褄を合わせている。

そして、ようやく平和を取り戻したローハン王国に現われるのは、あの白い魔法使い、サルマン。彼はここでアイゼンガルドを手に入れて自分の居城にし徐々に悪に染まって行く。ストーリーはちゃんとつながっている!しかもなんとルックスはトリロジーでサルマンを演じたクリストファー・リーであり声も彼。リーはすでに亡くなっているので、デジタルで声を作り上げたという。ここもファンはびっくりなはずだ。

クリストファー・リーにしか見えない!『ローハンの戦い』のラストにサルマンが登場する LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
クリストファー・リーにしか見えない!『ローハンの戦い』のラストにサルマンが登場する LOTR TM MEE lic NLC. [c] 2024 WBEI
悪に染まっていく、白の魔法使い、サルマン(『ロード・オブ・ザ・リング』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
悪に染まっていく、白の魔法使い、サルマン(『ロード・オブ・ザ・リング』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

最後、ヘラは愛馬に乗って旅立つのだが、その目的は「多くの名前をもつ人…ガンダルフという魔法使いがオークや指輪の話を聞きたいといっている」から。そう、ここでガンダルフの名前が口にされる。サルマンを出したなら、ここはやはりトリロジーのアイコンでもあるガンダルフにも目くばせして貰わなければというファンの心をちゃんと汲んでくれているのだ。

ラストでヘラが会いに行くのは、あのガンダルフ!(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.
ラストでヘラが会いに行くのは、あのガンダルフ!(『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』) [c]2024 WBPI TM & [c] The Saul Zaentz Co.

というわけで、『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』は、2度以上の鑑賞が絶対にオススメだ。ピーター・ジャクソンのトリロジーを復習して、一度では拾いきれないほど隅々まで張り巡らされたオマージュやトリビアを再確認してほしい。本作がいかに「ロード・オブ・ザ・リング」愛に満ちているかを実感できるはずだ。

文/渡辺麻紀

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