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ラリックの2ツ星レストラン。アルザスのおいしい旅へ。

  • 2025.1.4
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ホテルとなったかつてのルネ・ラリックの個人邸宅の建物に、ガラス張りのレストランが増設された。©hdgilles-pernet

クリスタルのアール・ドゥ・ターブルに輝く、2ツ星レストラン

ヴィラ・ルネ・ラリックがラリック・グループのホテルとしてオープンし、マリオ・ボッタのデザインによるガラス張りのモダンなレストランがかつてのラリック邸に増築された。外に眺められるアルザス地方の大自然は、シェフのポール・ストラドネールに大きなインスピレーションを与えている。レストランのエントランスには、サヴォワールフェールを駆使する職人たちの卓越の技術が生み出す見事なクリスタルアイテムが黒いケースの中で輝いている。まるで、これから繰り広げられる食事時間の美しいプレリュードのよう。ストラドネールがここで働き始めたのは2017年。開店するやすぐに2ツ星を得た当時のシェフ、ジャン・ジョルジュ・クランが2020年に引退し、彼が後を継いでシェフとなり星を守り続けている。その彼、ヴィラに来る前にすでにドイツのバーデンバーデンの5ツ星ホテルのレストランで2ツ星を誇っていた実力の持ち主なのだ。

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緑に囲まれたラリックワールドへようこそ。日中は太陽に、夜は照明に輝くクリスタルのモダン装飾が天井から下がる。 ©douzal
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オーストリア生まれのシェフ、ポール・ストラドネール。ヴィラの畑にて。©Karine Faby

レストラン内で目を奪うのは外の景色だけではない。天井のモダンなシャンデリア、光を受けて模様を浮き出す花瓶、そしてテーブルセッティング......ラリックのアール・ドゥ・ターブルの世界へとあっという間に誘われる。卓上で待っているのは、クリスタルがはめ込まれたナプキンリング、葉モチーフのクリスタルのプジョー・ミル、ワイン評論家ジェームズ・サックリングとのコラボレーションによる官能的な手触りの脚を持つ100ポイント ユニバーサルグラス、そして艶消しのグリーンの鳥を宿らせた白いプレート。さらなる驚きと喜びは、マスク・ド・ファムを象ったバターの登場だろう。

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メゾンのサヴォワールフェールと卓越の職人技が生む輝きの魔法が食卓を彩る。©karine baby
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左: プジョー・システムのペッパー&ソルトミル。©hdgilles-pernet右: お皿に止まる艶消しの愛らしい小鳥もナプキンリングにはめ込まれたパネルもクリスタル。ヴィラならではのテーブルセッティングだ。©hirmance-production

シェフ、そして新しく就任したシェフパティシエのジョナタン・ブリュネルのふたりは、何よりも地元の豊かな食材を用いることを重視したクリエイションを行っている。メニューとともに素材の出自を描いた地図が用意されているのもそのためで、和牛にしてもアルザスのお隣、ロレーヌ地方の生産者からだ。最も近いのは野菜やハーブなど70種を育てているヴィラの畑!  厨房のスタッフは毎日、畑にその日の材料を取りにやってくるそうだ。

美食の旅はアラカルト、あるいは4種のコースメニューで(火曜、木曜、金曜にはランチタイムメニューが加わる)。メニューの"terroir de la villa René Lalique"はほかのメニューではキャビアやオマールなど遠方の食材が少し取り入れられているのに対し、ピュアに地元だけの食材で構成されている。また魚と肉については野菜料理とのチョイスなのでベジタリアンメニューにできる配慮がある。

コースの食事はメニューに記載のない一風変わったアミューズブーシュから始まる。青エビのムース、鳥の皮のフライ、クネル。これはドイツ(Allemagne)、オーストリア(Autriche)、アルザス(Alsace)地方というシェフが料理人として辿った3カ所がテーマである。テーブルまで挨拶に来られないシェフが食事客に対して行う料理人的自己紹介のようでは? レストランを取り囲む自然に加えて、彼の料理のルーツをなすこの3つのAも彼のインスピレーション源なのだ。なお、4種のコースメニューに共通しているひと皿がある。ドイツの"辛子卵"にインスパイアされたという、アラカルトでは注文できないウフ・パルフェである。酸味のある辛子のムースを乗せて、プラタナスをモチーフにしたクリスタルのクープ・シャンゼリゼの中央に置かれた卵が何やら高貴なスターのように登場する逸品だ。

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パンとともにマスク・ドゥ・ファムをかたどったメダイヨン・バターとシェフの故郷オーストリアのかぼちゃの種のバターが卓上に並び、そしてオーストリアに生まれ、ドイツで長いこと料理に取り組み、そしてアルザスに迎えられたというシェフの履歴書を体現したアミューズブーシュ3種がサービスされる。©hirmance-production
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ウフ・パルフェ。卵以外の食材は季節によって変わる。うつわはツタがモチールのクープ「シャンゼリゼ」だ。©hirmance-production
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アルザス地方の4種のレンズ豆サラダ。キンカンの酸味とヴィラの畑のハーブのドレッシングが豆の味を引き立てる。©hirmance-production
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皮目が軽く焼かれた鯖系の青魚リゼットを魚の骨を煎じたブイヨンソースで。ブリックも重ねられ、ソフトな魚の身とカリカリ感が口中で弾ける。グリーンの海藻のマヨネーズがユニーク。©hirmanace-production

シェフのクリエイションには味、香り、食感の計算が感じられる。へえと思わせる珍しい素材を取り入れたり、ひとつの食材を味わいを損なうことなく複数の調理法でひと皿に......たとえばアルザス地方のイワナ系淡水魚のオンブル・シュヴァリエは生、マリネ、スモークで、というようにだ。クリエイションに込められている料理のサヴォワールフェールと惜しまずにかけられた時間。シェフの厨房の仕事は、手の賢さと時間を頼りに最高のクオリティに挑んでいるクリスタルのマニュファクチュールの職人たちの仕事を思わせる。

シェフパティシエに今年10月に就任したのは、ジョナタン・ビュネルだ。先代ニコラ・ミュルトンのもとで働いた経験のある彼は、メゾンのエスプリを継承する次世代シェフである。フランスの菓子づくりの伝統と現代の潮流にインスパイアされて創作をするが、彼もまたラリックのマニュファクチュールが守り続ける技術が生み出すエレガンスと革新性にも鼓舞されているのだ。着任以来、彼が生み出したシグネチャーのひとつは「洋ナシ- ヨーグルト- キャラメル ジンジャー」。幼少期の思い出が込められた洋ナシをメインにおいたひと皿で、タイの蓮の花からのアイデアをニコラはチュイルで表現した。

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ジョナタン・ビュネルのデザートから。左:「洋ナシ、ヨーグルト、カラメル、ジンジャー」。右: 「イチジク、アーモンド、柑橘類ンボカラマンシー」は生、照り焼き、加熱の3種のイチジクにアーモンドのアイスクリームとムース。©hirmance-production

エピキュリアンの旅はワインセラーから

レストラン開業と同時に、更地だった場所に巨大なワインセラーが設けられた。地元そしてフランス国内の希少なワインを2700種近く揃えていて、ボトルの数は約60,000本。最古のワインは1865年のシャトー・ディケムだ。ここではマスタークラスやデギュスタションが、アルザス出身で地元の文化に精通しているシェフソムリエでラリックグループのワインディレクターであるロマン・イルティスによって行われている。 ヨーロッパで最も美しいと形容されるヴィラのセラーを護る彼。2012年度フランス最優秀ソムリエであり、また2015年にはフランス最優秀職人賞(MOF)を受賞している。もちろん2ツ星レストランのワインのペアリングを担当しているのも彼だ。

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セラー所蔵の最古のワインは1865年のシャトー・ディケムだ。©hdgilles-pernet
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ソムリエのロマン・イリティス。©Karine Faby

シルヴィオ・デンツが2016年から会長を務めるラリックグループには、クリスタルのラリック、香水のライセンスなども含むラリック・ビューティに加え、ヴィラ・ルネ・ラリックをはじめ4つのホテル、サンテミリオンのシャトー・ペビ・フォジェールやソーテルヌのシャトー・ラフォリ・ペラゲなどの7つのワイナリー、さらにスコットランド最古のウイスキー蒸溜所グレンタレットなどが統合されているのだ。ラリックの世界を広げ続けるデンツ。そこには歴史、サヴォワールフェール、ヘリテージに傾ける彼の情熱が見て取れるよう。この見事なワインセラーもワイン愛好家の彼あってと言える。

セラーの訪問が始まるのは、ラリック×ダミアン・ハーストによる"Eternel"の14枚のパネルが飾られた通路からだ。レストラン同様にマリオ・ボッタがワインセラーの建築を担当した。中央に長いテイスティングテーブルを備えたセラー。ワインに最もなじみ深いオーク材がテーブルや天井などに多用されている。これは地元ヴォージュのオーク材で、樽用にとワイン業者がオーダーしたものの引き取られず宙に浮いていたのを買い取った素材だそうだ。セラーの装飾に活用しているのは、ワインを詰めるさまざまなシャトーの木箱である。PETRUSなど箱に書かれたシャトー名をつい読みたくなってしまう。

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200平米という広さのワインセラー。©hdgilles-pernet

ガラス仕切りの奥の棚に展示されているのは1863年物のポルト酒ニーポート。このポルト酒のためにラリックは特製カラフェを制作。ロストワックス法を用いて、ラリックのマニュファクチュールが誇る卓越の職人技が実現した複雑なデザインのカラフェである。3点限定製作したうち2点はオークションで販売され、127,000ドルという高値で落札されたそうだ。ワインに強くない、ワインに詳しくない......と言わず、ヴィラ・ルネ・ラリックにきたら、セラー訪問を!

宿泊、食事を楽しむヴィラ・ルネ・ラリック。お土産に何を持ち帰ろうか。クリスタル、ワイン......ヴィラに置かれた約10の養蜂箱からのビオの蜂蜜3種もホテルで販売されている。ちょっと珍しいのはカボチャの焙煎種のオイルだ。これはオーストリアのシェフの生まれ故郷の地方からの品で、シェフも料理に活用している。旅の楽しい思い出とともに、これらをトランクに詰めよう。

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ヴィラ内のブティックではクリスタルのオブジェなどを販売。またラリックグループのワイン、ウイスキー、ヴィラ産の蜂蜜なども購入できる。photography: Mariko Omura

Villa René Lalique
18, rue Bellevue 67290 Wingen-sur-Moder
レストラン
営)12:00〜13:00(L.O.)、19:30〜20:45(L.O.)
休)日、月、水 ランチ
www.villarenelalique.com

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