刻々と変わる書を見上げ、見下ろす。デザイナー・柏崎亮の小さなアートとの暮らし方

一目見て、新城大地郎の作品の力強さに魅了されたというデザイナーの柏崎亮さん。

「文字としては抽象的ですが、圧倒的な存在感がある。沖縄県宮古島出身の作家のワイルドなキャラクターとリンクしているのもいいなと感じて。書道というと格式が高いイメージがありますが、大地郎さんの作品はタイポグラフィのような感覚で受け取れるのかなと」

黒いキャンバスに黒で書かれた阿吽（あうん）の“吽”の文字は、存在していないようで、存在している。その風景は、階段上の天窓から差し込む光で刻々と移り変わっていく。

「昼と夜とで文字の浮かび上がり方も全然違う。黒の上に濃度の違う黒をのせた作品を作ったのはこれが初めてと聞きましたが、すごく面白いと思いました。自分が制作をするアトリエにはなるべくノイズになるものがない方がいいけれど、普段の生活の中にあると空間がふくよかになりますね」

数年前から自らもギャラリーを運営し、作家を紹介。好きなものと出会えば、暮らしのそばに置く。

「どんな作品が好きかという嗜好性はあると思うんですけど、自分でも言葉にできるほどにはわかっていません。相対的に価値があるかどうかなどは考えず、衝動的に選びますね。むしろアートに不勉強な視点で選べる方が、豊かなんじゃないかなとも思うんです」

profile

柏崎亮（〈Hender Scheme〉デザイナー）

かしわざき・りょう／1985年生まれ。靴工房を経て、2010年にブランドを立ち上げ革靴や小物を展開。22年から東京・蔵前でギャラリー〈隙間〉を運営。
HP：https://henderscheme.com/