1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「学校に行きたくない」と感じたら──長期休暇明けに急増する不登校への処方箋

「学校に行きたくない」と感じたら──長期休暇明けに急増する不登校への処方箋

  • 2025.1.2

仮病だったとしても休んでいい

Photo_ Ratchapoom Anupongpan/123RF
Children's signboard across the road with cityscape backgroundsPhoto: Ratchapoom Anupongpan/123RF

「長期休暇明けは子どもの自殺が増える」──これはあまりにショッキングだが、日本の教育現場が直面している紛れもない事実だ。もちろん、年末年始の休暇から日常へと戻っていくこの時期とて例外ではない。自殺と不登校はある程度リンクしているといわれており、年明けの子どもの様子にはいつも以上に注意が必要になる。これまでに当事者400人以上への取材を続けてきた不登校ジャーナリストの石井しこうさんはこう語る。

「不登校がいつ増えるという正確なデータはない(注)のですが、夏休み明けの9月、新年度が始まる4月、それに正月明けに子どもの自殺が増えているのは事実。特に年明けは受験ストレスが高まりやすい時期でもあり、進路への不安を抱えている子も多いですね」

では、学校に行きたくないと感じた時はどうすべきか。石井さんは、「休むことが大事」だと断言する。

「やっぱり、体ってすごく正直なんですよ。行きたくないのに“学校に行かなくちゃ”と無理をすると、頭痛や腹痛といった体調不良が生じてしまいます。そうしたら休むべきです。たとえ仮病だったとしても休んでいい。仮病を使ってまで学校に行きたくないと思ってしまうこと自体が、何かしらのSOSだとも言えますから。ほとんどの場合、いったん休めば少し元気になります。周囲への相談や説明はその後でいい。ヘロヘロの状態で親や先生に対峙しようと思っても、うまく表現できなかったり理解してもらえなくてショックを受けるケースは珍しくありません。それより、まずは休むこと。布団の中に携帯や充電器やマンガを持ち込んで、休んでいる自分が最高に楽しめる状況を作ってほしいです」

長年にわたり不登校児を見つめ続けてきたプロはなぜ、「まずは休むべし」と言い切るのか。「休みたい」と意識化するよりはるか前から、子どもの心は傷ついているから、というのがその答えだ。親の側からすると「休みグセがついてしまったら……」「頑張って学校に行くのもいい経験」などと考えてしまいがちだが、子どもが学校を休みたいと言い出したら休ませる勇気が必要だと石井さんは語る。

(注)小・中・高校生を対象とした文科省の統計では「年間30日以上の欠席」が不登校となるが、年度が切り替わると欠席日数ゼロとカウントされるため、分析のためのデータとして使われることは少ない。

親がかけるべき、ドクターストップとは

Photo_ ostill/123RF
young teenager girl woman sadness depression shadow silhouette isolatedPhoto: ostill/123RF

「最初に休むべきタイミングを逸してしまったことが、不登校の引き金になることも。学校に行きたくないなと思った時にすぐ休めたなら、数日後には自ら学校に行きたくなる子どももいます。けれど、母子分離が不安な幼い頃の子どもたちの登園時の記憶などがある親は、「行きたくない」と訴える子どもに対して、つい、“そんなこと言わないで頑張って行きなさい”、と返してしまいがちなのです」

けれど、思春期の子どもが学校に行きたがらない理由は、幼少期とはまったく別と考えたほうがいいそう。親が知らないところでいじめがあったり、先生との関係が悪かったりと、親には言えない深刻な傷をどこかで抱えてきていることが少なくないからだ。しかも、それを他者には言いたくない、隠したい年齢になっているため、親としては、不安要素からいったん距離を取らせる、いわば“ドクターストップ”をかけてあげることが大切なのだという。

本人よりも実は、親が早く徴候に気づく?

いざ「行きたくない」と言い出した場合は早めに休ませるとしても、もっと早くにその徴候に気づくことはできないのだろうか。意外なことに、石井さんによれば、子ども自身はそういった無理を自覚しにくいのだとか。さまざまな経験を積んでいる途上にある子どもにとって、“今の自分に学校は無理”と意識化する、言語化するのはかなりハードルが高いことなのだ。

「本人が“心にだいぶ溜まっているんだな”と気づくのは、食欲不振になる、イライラが溜まりやすくなる、爪を噛むといったわかりやすい変化が起きた時。それよりも前に気づくのは、生まれた時からその子をずっと見ている親のほうなんです」

“この子、ちょっと普段と違うかも”といった勘は、多くの場合当たっているそう。その時に「何かあった?」と聞けば話してくれることが多いし、それによって本人がすっきりしたり、解決策が見えてくることも。この段階での声かけは、医師やカウンセラー、学校の先生ではなく親だからこそできる早めのケアと言えそうだ。ただし、こういったケアには欠かせない前提がある。

「否定しないで、ただ聞くだけの10分」の効能

Photo_ ra2studio/123RF
finger family_l.jpgPhoto: ra2studio/123RF

「普段から雑談を重ねていることが大切。自分の話を聞いてもらうことは、子どもにとって一番の発散になるんです。いつも見ているそのアニメ、どこが面白いの? といった、何気ない話を重ねておくこと。話しやすい雰囲気ができていると、SOSってとてもわかりやすいんですよ」

「とはいえ、毎日たっぷり時間をとって子どもと向き合うのは難しいですよね。でも、理想的なコミュニケーションが充分とれている家庭なんて、実際はそう多くありません。みなさん家事に追われ、仕事に追われていますから、常にちゃんとしなくちゃと思わなくても大丈夫」

そう語る石井さんが教えてくれたテクニックの1つが、時間を決めて向き合うというもの。料理をしている間だけ、寝る前の10分間だけ、などと決めると実践しやすい。その時間は絶対に子どもや子どもの好きなものを否定せず、好意的な聞き役に徹するのがポイントだ。そしてもう1つが、“会話の三角形を作る”というテクニック。たとえば本人が好きなYoutubeを一緒に観る、といった形なら、思春期の子どもとも会話の糸口がつかみやすい。横に座って「こんなのが流行っているのね」などと話すだけでも、雑談のきっかけとなる。そういったベースがあれば、我が子の異変をより早く察知し、適切な手が打てる可能性は飛躍的に高まる。

具体的な処方箋をたくさん教えてくれた石井さんだけれど、「数日休んでも戻れない場合は、方向転換を」とアドバイスする。

「一週間、あるいは一カ月休んでも子どもが学校に行きたがらない時は、親も方向転換すること。今までずっと苦しかった、心に傷を抱えてきたということを受け止めてあげてください。しかも、多くの場合、本人はその理由をなかなか口にしないでしょう。嘘をつきたいわけではなく、本人にもわからない、親を心配させたくないだけ、ということも多い。私自身、今は40歳を過ぎていますが、30年近く前の不登校の話を、いまだに親には言いにくいほどです」

先生は不登校の子をケアするプロではない

Photo_ akiyoko/123RF
school_l.jpgPhoto: akiyoko/123RF

子どもの心が疲弊してしまったら、心の回復を支えること、安心できる環境を家の中に作ることが先決。不登校に詳しいフリースクールやカウンセラーに相談すること、経験談をたくさん読むことが役立つのだとか。

「この時に大切なのが、学校の先生への相談は後回しでいいということ。我が子が不登校になったかもしれないという時に学校の先生に相談して、うまくいったケースはあまり多くありません。というのも、不登校の子はクラスに1人くらいのレベル。10年先生をやっていても10人みてきた程度で、経験が圧倒的に少ないんです。先生は“学校に来る子に対するプロ”であり、不登校の子をケアするプロではない。助けを求めても助からない、悪気はないけれど知識不足な相手なのだと思ったほうがよいでしょう」

また、学校に行きたくない状態が続いてしまった本人も、不登校についていろいろ読むのがおすすめだそう。たとえば「不登校 有名人」などで検索するとたくさんの結果が出てくる。それによって、「学校に行かなくても大丈夫」「不登校でも大人になれる」ということがわかるのだとか。

「私自身も、学校に行けなくなった時は“自分の人生は終わった”と思いましたが、気づいたらちゃんと大人になっていました。年齢とともに人は成長するし、大人になれるし、“あの時に悩んでいたことはなんだったんだろうな”と思えるようにもなります。会社では有給休暇があるのに、それさえ認められていない学校生活を辛く感じても当たり前。大人のほうが楽だと感じる人も多い。安心して大人になってください」

抱えていた心の傷から生じる「学校に行きたくない」──そのSOSのサインを、初期の時点できちんと受信(認識)することが、問題を早めに解決する糸口になる。悩んでいる本人も親も、「行きたくない」を軽視せず、まずは無理をせずに休む/休ませる、という選択肢を自らに与えよう。それでも「行きたくない」が続いた場合は、当事者たちが発信する情報を得て、学校に行けない/行きたくない子たちのプロにアクセスしてほしい。「今日の登校」よりも大切な、子どもの未来のためにも。

Text: Satoko Takamizawa Editor: Yaka Matsumoto

Read More

元記事で読む
の記事をもっとみる