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「サンタさん」の中の親心に思いを馳せ、母の枕元にプレゼントを置く

  • 2025.1.2

大人になってもいつまでも忘れられないクリスマスがある。小学1年生の時のクリスマスだ。

その当時、私たちの間では携帯ゲーム機「ニンテンドーDS(以下DS)」が流行っていた。あまり幼い年齢からゲームをやらせるのはどうなのか、という親が多かったと思う。DSは小学3年生になってから、というルールを設ける家が多かった。

それでもどうしたって私たちはDSを欲しがる。自分と同じ年齢でDSを買ってもらえる子が周りに出始めると、その子はうらやましがられ、その子の周りには同年代の子どもが集まった。

◎ ◎

私もDSが欲しかった。しかし、親はゲーム機反対派で、それでもわがままを言い続けて、3歳年上の兄はDSを買ってもらった。この時兄は小学4年生。「DSは小学3年生になってから」という条件を突破していたのだった。

さて、同じ家の中で兄がDSで遊んでいる状況に、妹の私は耐えられるだろうか。下手に真面目だった私は、親に内緒で兄にこっそりとDSを借りるということもできず、DS欲しさに不満を募らせていた。

しかし私にはひとつの目論見があった。DSを手に入れる方法、それは、クリスマスのプレゼントだ。この頃の私はサンタさんの正体を知らなかった。

親を説得するのは無理だろうが、サンタさんだったら私にDSをくれるだろう。私は何ヶ月も前からクリスマスを楽しみにしていた。

◎ ◎

待ちに待ったクリスマスイブがきた。窓際に置いておいた「DSが欲しい」と書いた手紙は数日前になくなっていたから、きっとサンタさんのもとに届いたのだろう。わくわくしながら布団に入った。

次に目を覚ましたのは翌日の朝4時くらいだった。外はまだ暗く、私は枕元の電気をつけた。隣で寝ている母を起こしてしまうのも構わず、布団の足下にあるカラフルな袋を引き寄せる。サンタさん、ちゃんと来てくれたんだ。リボンを引っ張って袋を開ける。しかし、そこにDSは入っていなかった。

入っていたのは、私が当時好きだったキャラクターがデザインされた色鉛筆のセット。ショックだった。サンタさんって、欲しいものをなんでもくれるんじゃないの?この時の自分がどんな顔をしていたのかは当然ながら自分ではわからないが、きっと落胆した顔をしていたのではないだろうか。

◎ ◎

「サンタさんは今のあなたに必要なものをくれるんだよ」と母の声が隣から聞こえた。私はショックでその言葉の意味を考えられなかった。

でも、「欲しかったのはこれじゃない」とか「嫌だ」とかは言わなかった。サンタさんの正体は知らなかったけど、それは言葉にしてはいけない気がしていた。

欲しいものがもらえなかったショックと、もらったものを否定してはいけないと思っていた幼い自分が切なくて、ずっとずっとこのクリスマスを覚えている。

結局私はDSを諦めきれず、ついに親も折れてDSを買ってくれた。その次のクリスマスからは、必ず手紙に書いた欲しいものが私のもとに届いた。欲しいものをあげないと、結局は後々買うことになるのだとサンタさんも思ったのだろう。

◎ ◎

サンタさんの正体を知ったのは小学校高学年になったときだった。大人になった今、サンタさんの正体を知らなかった小さい頃の自分を思い出すと少し胸が痛む。

「サンタさん」の中に「親」という自我を出すか否か。親になったことがない私にはわからないが、相当な葛藤があったのではないだろうか。そんな親心を思いながら、大人になった私は毎年クリスマスに母親の枕元にプレゼントを置いている。

■シオヤキのプロフィール
難病と生きる20代前半女性。

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