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人が集まるところにマナーあり! 2007年のパリ・コレ特集を振り返り

  • 2025.1.1
Photo_ Craig McDean Model: Sasha Pivovarova, Coco Rocha
VJ_archives_Jan_1.jpgPhoto: Craig McDean Model: Sasha Pivovarova, Coco Rocha

ヴォーグのパリ・コレ・マナーブック。もしも、あなたに招待状が届いたら?」。素敵な企画である。絶対招待状が届かない人たちに、ファッション村の住人の心得を教えてくれるというのだ。パリコレの裏側を細かく取材しているので今読んでも面白い。 スタイリストやフォトグラファー、モデル、PR会社など、ファッション業界で働く人たちの仕事ぶりを知ることもできる。

洋の東西を問わず、おしゃれにはルールとマナーとセンスが問われる。そして、どこにポリスが潜んでいるかわからない。ル ールは規則なので比較的わかりやすい。お葬式には喪服を着ましょうとか、お祝いの席には晴れ着でとか。センスはもはや上級者の土俵なので、初めから自主的圏外の人も多い。多くの人を悩ませるのがマナーだ。せめて失礼のないように振る舞いたいけど、何が正解かわからない。詳しい人たちの言うこともちょっとずつ異なるし、その場その場で判断が求められるので知識と経験が必要だ。

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内輪の決まり事でもあるマナーは、聖域への余所者の侵入を阻むための結界として働く。知らなくても追い出されたりはしな いが、コアな住人たちからは知らぬ間に距離を置かれている。マナーは当人に気づかれずに人を格付けするための陰険な仕分け装置だが、見方を変えれば、マナーさえ身につければ、新参者でも一応は仲間とみなしてもらえるということでもある。初めてのパリコレからの招待状ともなれば、粗相のないようにせねばとドキドキである。では何が書いてあるのかを見てみよう。

着回しのきく、ほどよいトレンド感のある服を厳選して持っていく。これは当然だろう。しかし、落とし穴は抜かりなく選んだ服を入れるスーツケースである。「Lesson 2 パリ・コレは空港から始まっています。トランク選びにもこだわりを」。なんと、パリの空港は関係者だらけで、「機能性だけを重視した野暮ったいトランクを運んでいる姿を目撃される、なんて事態は絶対に避けたいもの」とある。機能性重視じゃダメなのか! ファッションポリスの取り締まりは入国審査の前から始まっているらしい。 添えられた写真はグローブ・トロッターのオフホワイトのスーツケース。ぶつけたら傷が目立ちそうだし、ホイールもついていない(ちなみに当時の価格は18万6900円。ほぼ同型のものが現在は39万6000円である)。荷物を引きずるのもダメとは......マナーコードをクリアするには、パリコレ仕様の戦闘服が詰まった重たいトランクを空港の荷物吐き出しベルトから片手でひょいと持ち上げて優雅にカートに載せる筋力も必要らしい。招待状が届いた日から、この一瞬のために上腕二頭筋とコアマッスルを鍛え始めねばならない。

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もし、空港で仕事の知り合いを見かけて も、迂闊に声をかけてはいけないらしい。 「Lesson 4 ビッグサングラスは『話しかけないで』のサイン」。なんと、では空港でアナ・ウィンター様をお見かけしても、ご機嫌伺いに上がるのはマナー違反ということか。もし、まだ機械化される前の入国審査の列で至近距離に並ぶ羽目になったらどうすれば? 無視するのも無礼だが話しかけるのも無礼となれば、アナ様の濃いサングラスのレンズに同化する黒ずくめのスタイルで彼女の視界から姿を消すしかない。忍者作戦である。これでファッションポリスの摘発は免れても、入国審査が長引きそうだ。着陸するなり無理難題ばかりで気が遠くなりそうだが、いざパリコレ会場に着くとこんどは剥き出しの生存競争が待ち受けている。会場の4人がけの椅子に6人分の席が用意されていたりするので極力詰めないと座れないのだ。編集部のカメラは、男性二人の間のわずかな隙間を両手の人さし指で指して「ここ、私の席です!」と主張している女性の姿を上から捉えている。パリコレでも仕事でも、自分の席をしっかり主張するのは重要だ。譲ってもらえるのを待っていると永遠に座ることができない。一方で、いくら近道だからといって自分の席を目指して聖なるランウェイを横切るなんてもってのほかだ。フロントローで組んだ脚を空中に突き出すなんてのも、モデルへのリスペクトに欠ける恥ずべき行為である。なるほど、基本は他者への敬意が必要ということか。ファッションの戦場では、人生訓にもなる気づきを得ることが多そうである。

きっと何度か招待されるうちに、 だんだんともの慣れた振る舞いができるようになるのだろう。このマナ ーブックには書いてないが、場慣れしたときにこそ用心したいのが、ダメ出しマナーポリスの発動である。どんな場所にもマナーの揚げ足取りが大好きな人たちがいる。誰かの装いや振る舞いを陰で嘲笑したり、初心者やよそ者を見下したりする人も。そうなったらどれほどマナーが身についていようと醜悪でしかない。自らを律し、他者には寛容に。パリコレに招待されることはなくても、大事にしたい心がけである。

Photo: Ryusuke Hayashi (magazine) Text: Keiko Kojima Editor: Gen Arai

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