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犬同伴で参拝できる! 武蔵御嶽神社(東京都青梅市)で愛犬祈願しつつ“お犬さま像”に会いに行く/オオカミは大神

  • 2025.1.1

狼(オオカミ)信仰の影響を色濃く遺す“狼像”を求め、「旅する写真家」が各地を訪ねて写真と文章で表現した渾身のフォト・ルポルタージュ。狼像を訪ねるガイドブックにもなる、失われたニホンオオカミの記憶を掘り起こすユニークな旅の記録をお楽しみください。※本記事は『新編 オオカミは大神 狼像をめぐる旅』(青柳健二/イカロス出版)から一部抜粋・編集しました。※『新編 オオカミは大神 狼像をめぐる旅』は2019年に刊行されたのち入手困難になっていた『オオカミは大神』(天夢人)をベースに増ページして再編集、新編として再刊行したものです。

ダ・ヴィンチWeb
『新編 オオカミは大神ー狼像をめぐる旅』(青柳健二/イカロス出版)

お犬さま信仰は、時代によって変化してきた。お犬さま信仰に求める人々の願いは、最初は、鹿・猪などの害獣除けとして、その後は火災・盗賊除けとして、また安政5年(1858年)に大流行したコレラに効くといって、三峯神社のお犬さま信仰が用いられたこともあった。コレラは、「狐狼狸(コロリ)」と呼ばれ、この世のものではない異界からの魔物の仕業だと信じられていた。その魔物を退治してくれるのがお犬さまというわけだ。

そして現代は、別な意味も生まれているようだ。そのひとつが、東京都青梅市の武蔵御嶽神社の「お犬さま」にちなんだ犬同伴の参拝ではないだろうか。

神社のホームページによれば、お犬さまは、病魔・盗難・火難除けなどの災い除けの神として、登山や旅行安全の神として、また、「おいぬ」は「老いぬ」にも通じるところから、健康・長寿の神であり、戌(いぬ)は安産・多産なことから、安産・子授けの神としての信仰を集めるようになっているそうだ。

現在、神社では犬同伴の参拝が認められていて(初詣の時期だけは制限される)、多くの愛犬家が、健康祈願などを行うために神社を参拝している。

ホームページには〈近年は「おいぬ様」にちなみ、愛犬の健康を願う人々で賑わうようになりました。そこで当社は愛犬祈願を社頭にて行っています。一年を通し、たくさんのワンちゃん達の健康をお祈りしております〉とある。

ペットに対する気持ちが、昔とは違って、愛するわが子同様に、家族の一員のような感覚に変わってきている。神社が愛犬家の要望を取り入れたのは、時代の要請ともいえるだろう。

私たち夫婦もヴィーノの健康祈願のために参拝することにした。御嶽神社へは、山麓の滝本駅から徒歩で登ることもできるが、御岳山駅までケーブルカーに乗こともできる。犬同伴でも心配はいらない。このケーブルカーは犬も乗車できるのだ(片道大人600円で、犬は10キロ超260円、10キロ以下130円。令和6年10月現在)。

犬を乗せるスペースは、一般客にも配慮されたケーブルカー車両の端にあるので、リードをつないでいればそのまま乗車できる。

急勾配のケーブルカーは約10分で御岳山駅に到着する。そこから御師(おし)(参詣者の世話人)の宿や国指定天然記念物の「御岳の神代(じんだい)ケヤキ」や土産物屋街を抜けていくと鳥居の前に出る。手水舎(ちょうずや)には犬専用の水場も設置されている。

江戸時代後期、御嶽神社のお犬さま信仰は関東一円に広がった。江戸・武蔵・多摩・相模(さがみ)など各地の御嶽講が建てた碑が参道の階段脇に立ち並んでいる。この碑の数を見ただけでどれだけ信仰が篤かったのかよくわかる。

長い階段を上っていくと、どっしりとした狛犬に守られた派手な色彩の拝殿に到着する。

拝殿の隣には社務所があり、お犬さまのお札やお守りをいただくことができる。お札は、左向きの黒いお犬さまの姿が配されたもの。お犬さまのお札としては大型のものだ。

また、社務所では愛犬の健康祈願を受け付けている。予約は不要で、愛犬祈願は大口真神社の遥拝所で行われる。

本殿後ろ側には旧本殿の常磐堅磐(ときわかきわ)社と摂社・末社がある。何年か前のブログを見るとペットも入れたようだが、現在ペットは入れないので、妻とヴィーノには拝殿前のベンチで待っていてもらい、私ひとりで参拝した。

拝殿背後にある、本殿上り口にブロンズ(青銅)のお犬さま像が鎮座している。洗練されたデザインの立派な像だ。近づけないので柵の間から撮影する。

本殿の裏側の古碑が立ち並ぶ築山に、一体だけお犬さま像が建っているのに気がついた。これは前からあった古いお犬さま像らしい。拝殿内の古い写真には、これと同じような像が映っているので、もしかしたら、そのお犬さま像なのだろうか。

さらにその奥には御岳山(標高929メートル)の山頂碑があり、隣には大口真神社が鎮座する。大口真神は、狼を神格化した神そのものだ。ここにも、たてがみも凛々(りり)しい一対の新しい石像が守っているが、これは平成19年3月に奉納された。

帰りは、ケーブルカーには乗らないで、滝本駅の駐車場まで登山道を歩いて下りた。駈け出したら止まれなくなるような急坂だが、これから参拝するという犬連れの人たちにたくさんすれ違った。犬は元気に上っていくが、中には、額から汗を流して辛(つら)そうな飼い主もいた。しかし、「疲れる、疲れる」といいながらも、こんなふうに愛犬と登拝できることを幸せに感じていることは、飼い主の顔から一目瞭然だ。

「お犬さま」は生物学的な「ニホンオオカミ」と同じではなく、あくまでも信仰上のイメージだ。日本では西洋とは違い、狼と犬との区別はあいまいな部分があったという事情もあり、「お犬さま」信仰に「狼」ではなく「犬」が加わってもなんら不自然さはないというのが日本的でもあるだろう。

このように、お犬さま信仰に現代的なご神徳が加わっていく(新しい物語が生まれる)ことで、お犬さま信仰はこれからも生き続けていくのではないだろうか。

その時代の人々の意識的・無意識的な願望や価値観の受け皿になるように、神社側も変わっていかざるをえないのかもしれない。

<続きは本書でお楽しみください>

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