1. トップ
  2. 菅田将暉演じる久能整が揺さぶるのは謎ではなく人の心 謎解きが本質“ではない”独特すぎる「ミステリと言う勿れ」の魅力

菅田将暉演じる久能整が揺さぶるのは謎ではなく人の心 謎解きが本質“ではない”独特すぎる「ミステリと言う勿れ」の魅力

  • 2024.12.31
映画「ミステリと言う勿れ」より (C)田村由美/小学館 (C)2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社
映画「ミステリと言う勿れ」より (C)田村由美/小学館 (C)2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社

【写真】菅田将暉“整”のふわふわパーマにキーワードが埋まる映画「ミステリと言う勿れ」メインビジュアル

菅田将暉が主演を努めたドラマ「ミステリと言う勿れ」が2025年1月2日(木)から一挙放送され、1月4日(土)には映画「ミステリと言う勿れ」も地上波初放送される。ふわふわのヘアスタイルが特徴の青年・久能整(菅田)が、落ち着いた口調と視点で謎も心も解きほぐす同作。年始の一挙放送を前に、不思議な魅力を持つ同作について改めて語りつくしたい。

型にハマらない新感覚の謎解き役

田村由美の同名マンガをドラマ化した同作は、2022年1月期に初放送。ドラマは主人公の久能整が他とは違う視点と冷静な観察眼、さらに独特な持論を展開しながら難解な事件を解き進める。事件に直面する関係で“あっ”と驚くミステリ要素と、それをひも解いていくカタルシスを内包する同作。しかしその本質的な魅力は、そうしたミステリの枠に留まらない。

まずは主人公、菅田が演じた大学生・久能整の人間的魅力だ。フワフワのパーマヘアにコート、マフラーが定番スタイルで、一見すると見た目通りの優しい青年。しかしひょんなことからとある事件の犯人ではないかと疑いを掛けられ、事件の解決を余儀なくされる。

久能の指紋がついた凶器は自宅のゴミ収集所で見つかり、目撃者までいる始末。どう考えても犯人として捕まる未来しか見えないところだが、久能は冷静沈着を保ったまま持ち前の洞察力と知性で事件の全容を俯瞰する。言葉への反応と返答内容…そこから推測して導き出された事実は、思いもよらないものだった。

1つめの事件については、上記の通り現場へ行かずに解決してしまった久能。しかも犯人すら誤解していた事実を、刑事に協力して明らかにするといった離れ業まで見せる。

だが事実として、久能がおこなったのは推理だけ。絶対に犯人が言い逃れできない物証を発見できたわけではないのだ。ではそんな彼に対して、なぜ犯人は自供することを決めたのか。

久能はまっすぐに淡々と、自分に見えた事実をはっきり告げる。だがそこに「許せない真犯人め!追い詰めたぞ!」という熱量はない。事実を事実として取り上げ、そこから見える事件のあらましを論理的に組み上げていくだけ。だが熱がなく、怒りがなく、燃える正義の心がないその推論は、聞いている人間の耳にスッと入っていく。

事実を組み合わせていくと、当然こうなる…とでもいうような久能の淡々とした推理。そしてそのうえでさらに、犯人が道を踏み外した理由を問うのだ。もちろんすべての犯人ではないが、久能のそんな姿勢に救われた犯人も少なくない。

久能はたとえるなら、犯人を追い詰める猟犬…ではなく、目の前にあったパズルを組みあげる純粋な青年。無理に人の心に触れようとせず、ただ過ちをまっすぐに指摘する。大事なのは、あくまで彼が謎を解き明かす探偵ではないということだ。

映画の世界にも広がる「ミステリと言う勿れ」

ドラマ版が大きく話題になった同作は、2023年に映画版も上映。映画では原作でも人気の高かった、コミックス2巻から4巻で描かれた通称「広島編」だ。広島に訪れた整が“死者さえ出る”といういわく付きの遺産争いが噂されている名家・狩集家に訪れ、遺産相続問題に巻き込まれてしまう。

映画では実際に現地・広島でロケを実施。宮島の厳島神社や原爆ドームなど、ロケーションの良さを十二分に映像に取り込んでいる。また今回は名家の遺産争いがテーマということで、ドラマ版の「犬神家の一族」でも使用された旧家を使うなど“豪華さ”の表現にはたくさんのこだわりが光った。

伝統と趣ある狩集家の家屋庭園を表現するため、岡山県倉敷市にある国指定重要文化財の旧野崎邸、群馬県甘楽郡の楽山園、神奈川県横浜市の三渓園で撮影。全国各地を巡って世界観を表現している。

同映画で久能は、美術展のために広島を訪れていた。そこで犬堂我路(永山瑛太)の知り合いだという1人の女子高生・狩集汐路(原菜乃華)からバイトの話しを持ちかけられる。それは狩集家の莫大な遺産相続を巡るものだった。遺言書に書かれた「それぞれの蔵においてあるべきものをあるべき所へ過不足なくせよ」というお題に従って、一族の各人が遺産を手にすべく奔走。ただし先祖代々続くこの遺産相続には、あるいわくが。なんと遺産相続のたびに、死人が出ているというのだ。8年前に亡くなった汐路の父親も他の候補者たちと自動車事故で死亡していたと判明し…。

一族の因習と、そこに潜む大きな謎と闇が久能を襲う――。

名脇役たちが盛り上げる人間ドラマ

同作の魅力の1つとして、個性豊かな登場キャラクターたちも忘れてはいけない。ドラマ版よりレギュラーで出演している風呂光聖子(伊藤沙莉)は、男社会の警察組織で常におどおどして男性上司から叱咤されている。独自の視点から事件を解決に導いた久能に信頼をおき、捜査協力依頼をする巡査・池本優人(尾上松也)、大隣署の巡査部長・青砥成昭(筒井道隆)。彼らはそれぞれ悩みを抱えており、久能のひと言で前に歩き出せたという共通点を持つ。

ストーリーごとに登場するキャラクターもまた魅力的。特に奇妙な絆で結ばれた犬堂とのやり取りは、どこか微笑ましいものがある。犬堂と久能はある事件をきっかけに知り合った仲だが、お互いがまた会って話がしたいと考えるほどシンパシーを感じていたようす。理知的なキャラクターは似ていただけに、「友だち0人」を宣言していた久能の友だち第1号の座に近かったのだが…。

また映画版に登場するキャラクターたちも“見えない傷”を抱えている人物が。たとえば柴咲コウ演じる赤峰ゆらは、専業主婦として一人娘の幸(秋山加奈)を育てている。しかし彼女が義父に「お前は家にいて、子育てや家事だけしていればいいんだ」「それが女の幸せだろう」と言われているところを見た久能が、いつもの調子で疑問の声を上げた。

「どうしてそう思えるんだろう」から始まった長口上は、義父だけでなくゆらも驚かせた。義父の言う“女の幸せ”という言葉を引き合いに、“人から押しつけられた幸せ”ではなく「自分のなかから出てきた言葉を使ってください」と告げた久能。そこでゆらのなかに駆け巡った母として、1人の女性としてのさまざまな想いが現れた表情は、とても印象に残っている。

さらに原が演じる汐路も、物語を通して成長する人物だ。否定したい過去との向き合い方、辛い現実との戦い方、先を生きるための考え方。それらを久能だけでなく周囲とのさまざまな触れあいから学んでいく。彼女の成長もまた、同映画の大きなテーマと言えるだろう。

そんなキャラクターたちが盛り上げる同作は、タイトルの通り「ミステリ」作品ではない。社会問題、人間の本質に迫るテーマを盛り込んでいる同作だが、先述のとおり謎解き部分では「完璧に言い逃れできない証拠で犯人を自白に追い込む」わけではないのだ。

登場人物たちが抱える闇は、現代では多くの人が間違いなく持っている。そしてそこから一歩、不幸にも道を踏み外すに至ったのが犯人たち。そこに至ったのは外的要因もあり、かつ自分のコントロールの問題でもある。久能はそうした闇を責めるのではなく、事実と言葉で罪の本質を解きほぐしていくだけ。

見事な推理シーンのカタルシスはたしかに同作の魅力ではあるのだが、本質は事件にまつわる人間心理だといえる。久能の言葉は、犯人だけでなく視聴者の心にも届く。ハッとさせられるような強さはなく、淡々としたリズムに合わせるように、じんわりと沁み込んでいくのだ。

ちなみに原作2巻のあとがきでも、原作者である田村由美が同作について「すいませんミステリじゃないです」「そんな難しいもの描けるもんか!」とつづっている。この部分を取っても、同作の主軸がミステリではなく、人間ドラマであることの証左と言えるかもしれない。

放送されるたびにSNSで話題になったドラマ「ミステリと言う勿れ」。フジテレビが2025年1月2日(木)の朝7時から1月4日(土)に渡って、全12話を一挙放送するという。併せて2023年に大ヒットを記録した映画「ミステリと言う勿れ」もフジテレビ系列にて2025年1月4日(土)夜9時から完全ノーカット版を地上波初放送。久能のもたらす心が落ち着き、揺さぶられる人間ドラマをふたたび楽しむチャンスだ。

元記事で読む
の記事をもっとみる