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狼像の謎を探るべく全国の神社へフィールドワーク! オオカミ(お犬さま)は火防・盗賊除けの守り神/新編オオカミは大神

  • 2024.12.31

狼(オオカミ)信仰の影響を色濃く遺す“狼像”を求め、「旅する写真家」が各地を訪ねて写真と文章で表現した渾身のフォト・ルポルタージュ。狼像を訪ねるガイドブックにもなる、失われたニホンオオカミの記憶を掘り起こすユニークな旅の記録をお楽しみください。※本記事は『新編 オオカミは大神 狼像をめぐる旅』(青柳健二/イカロス出版)から一部抜粋・編集しました。※『新編 オオカミは大神 狼像をめぐる旅』は2019年に刊行されたのち入手困難になっていた『オオカミは大神』(天夢人)をベースに増ページして再編集、新編として再刊行したものです。

ダ・ヴィンチWeb
『新編 オオカミは大神ー狼像をめぐる旅』(青柳健二/イカロス出版)

お犬さま信仰の三峯神社と武蔵御嶽神社

埼玉県秩父市(旧大滝村)の三峯神社と東京都青梅(おうめ)市の武蔵御嶽神社は、関東地方でのお犬さま信仰の二大聖地といってもいいだろう。

三峯神社は、最近はパワースポットとして人気で、訪れる人も多い。白いお守り「氣守(きまもり)」が異常な人気を博し、とうとう頒布休止の事態にまで陥ったほどだ。

神社の由来によると、景行(けいこう)天皇の時、ヤマトタケルが東征中、雁坂峠を出たとき霧の道に迷った。そのときオオカミが現れ、ヤマトタケルはその後をついていった。するとあるところで霧が晴れた。現在の三峯神社のある山に伊弉諾尊(いざなぎのみこと)・伊弉册尊(いざなみのみこと)を祀った。オオカミは三峯の神の使い「眷属」になった。眷属とは神の意志を伝える動物で、三峯神社では「御眷属様」と呼ばれている。

神社への入口、三つ鳥居の両側に一対の像が鎮座する。これは狛犬ではなくて、三峯神社のお犬さま(御眷属様)の像だ。筋肉質のムキムキの体をしていて、神域を守るにはふさわしい力強さを感じる。境内にはほかにも複数のお犬さま像が鎮座している。

秩父でお犬さま(御眷属様)信仰が盛んになったのは享保5年(1720年)、三峯神社に入山した大僧都(だいそうず)「日光法印」が、境内に狼が満ちたことに神託を感じ、「御眷属拝借」と称して、狼のお札の配布を始めたのがきっかけだといわれている。

以来、三峯信仰は全国に広まり、三峯講が組織され、三峯山の名は全国に知られた。現在も岩手県奥州市の衣川(ころもがわ)三峯神社をはじめとして、東北各地に三峯山の影響力が残っている。

埼玉県寄居町にある川の博物館で平成29年7月15日から9月3日まで、特別展「神になったオオカミ 秩父山地のオオカミとお犬様信仰」が開催された。

この特別展は、動物としてのオオカミと、神として崇められたオオカミ(お犬さま)を紹介していた。展示物は、日本国内で三体のみ確認されているニホンオオカミの剝製(はくせい)(和歌山大学教育学部蔵)をはじめとして貴重なものが多く、狼好きの人間にとってはたまらないものだったと思う。

この関連イベントとして講演会「ニホンオオカミと三峯」が行われたので私も参加した。

三峯神社では、どのようにお犬さま(御眷属様)信仰が始まったのか、そして江戸時代には多くの人が参拝したこと、オオカミの民俗学的な視点からの話を主に、あとは秩父で発見された動物の毛皮がニホンオオカミのものだったとわかったときのエピソードなどが紹介された。

狼信仰は、一般的には、害獣の鹿や猪を食べてくれる益獣としての信仰から始まったが、とくに江戸で流行した理由は、火防・盗賊除けの守り神としてだったという。

犬は火事がボヤのうちに気がつき、また盗賊が店や蔵に侵入したときも騒いで知らせたり、賊を襲うという習性があることから、お犬さまが火防・盗賊除けの守り神となった。

江戸は「火災都市」と呼ばれるほど、大火が頻繁に発生した。ちなみに江戸時代の265年間に、江戸では49回もの大火が発生している。

浅草の浅草寺(せんそうじ)内に三峯神社があるが、ほかのお堂はみな南を向いているが、火防の守り神として三峯神社は東側の本堂を向いているそうだ。

火を消す水の水源地が三峯など秩父の山であったことも江戸の人たちが三峯を信仰した理由のひとつだったようだ。それは武蔵御嶽神社もそうで、江戸の水源地である奥多摩の山の森の大切さを感じていたのは神社関係者だけではなく、江戸の人たちもそうだったろう。

お犬さま信仰を追ったノンフィクション、小倉(おぐら)美惠子著『オオカミの護符』には、〈庶民がお山に参拝する行いの源には、遥かな古代から脈々と続いてきた「山への信仰」が息づいているように思われた。/私たちの暮らし、いや命は、今も変わらず山から生まれ出る水が支えてくれている〉とある。水への感謝は、山の信仰へとつながっているということなのだ。

現在、三峯神社は関東屈指のパワースポットとして知られているが、これは、現代版の自然崇拝・狼信仰といえなくもないだろう。動物・植物・岩・山・洞窟・川など、生物・無生物にかかわらず、すべてのものに霊が宿るという観念は、日本人のアニミズムの痕跡だそうだ。そういった霊的なものが宿るところは、現在「パワースポット」と呼ばれる。新しい自然崇拝の形だ。

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