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名前は私のかたちであり、生まれた時から一緒の大切な相棒だから

  • 2024.12.31

「夫婦で違う名字を名乗る」ことがあると知ったとき、嬉しくなったのを覚えている。
自分を取り巻く環境が変わっても、私が私である証明を持ち続けられるのではないかと思って。

◎ ◎

幼いころは、自分の名字がきらいだった。

小学生だった当時、バラエティ番組で人気の漫画家と、名字の読みが同じという理由でネタにされていた。
テレビで見ない日はないような、有名なお笑い芸人とも同じ。
彼らは少々柄の悪いイメージのキャラ付けをしていたので、かわいいもの好きだった私は、あまり喜べなかった。

大好きな少女漫画に出てくるヒロインたちは、みんなおしゃれな名字で、私は羨ましくて仕方がなかった。
世の中にはたくさんの名字がある。
かっこいい名字はいくらでもあるのに、なんで私はこれなんだろう……。
嫌で嫌で、母親に泣きついたこともあった。
誰にも、どうしようもないのに。
わかっていても、駄々をこねて困らせた。

◎ ◎

学校では提出物が出されるたび、名前を書いた。
持ち物にも、手紙にも、書類にも。
何度も何度も書くうち、それは特別なものに思えてきた。
字を構成する、線の一本一本を描き出すと、命が芽生える気がした。
他でもない、わたしの名前。
いつしか愛着が湧いたのだと思う。

今では、名前を書くたびなんだか誇らしい。
「どうよ?私の名前、いいでしょ」
初めて名前を見せるときには、そんな気持ちすら抱く。

◎ ◎

私は、私なりに一生懸命生きてきた。
名前は、そんな私を何よりも長く表してきたもの。
生まれた時から一緒の相棒。
私のアイデンティティ。
自分を受け入れ、好きになっていくにつれ、名前への愛も大きくなっていった。

私の名字には少しめずらしい字が使われているので、間違われることはしょっちゅう。
メールなどでたまに正しく書いてもらえると、相手をきちんとした人だなと思うし、重要な書類では真っ先に確認する。
デジタル媒体だと、入力フォームで弾かれることも多くて、問い合わせと修正が必要なこともある。

◎ ◎

つまり、不便なことも多い。
それでも、私はこの名前がいい。

自分の名字が嫌だと泣いていたあの頃、憧れていた漫画を思い出す。
ラストシーンでは、ヒロインがヒーローと結婚して名字が変わっていた。
「今日から同じ名字だね」なんて、幸せそうに笑う彼らを幾度も見た。

それが幸せの形だというように、温かくすてきに描かれていた。

それを見て、私は「おしゃれな名字の人と結婚して、違う名前になりたいな」と夢想していた。
どうして結婚することで不満を解消しようなどとと目論んだのか、今となっては本当にわからない。
伴侶と同じ名字を名乗ることと、自分の名前を好きになることには、なんの関係もないのだから。

◎ ◎

むしろ、現代社会で女性が名字を変えることには疑問を抱くようになった。
現実的な都合だけでなく、それがある種のロマンであるかのようなイメージも手伝って、「そういうもの」と刷り込まれている気がする。

男女どちらの名字を名乗ってもいいし、ビジネスネームや夫婦別姓の考え方を採用してもいいと思う。
大切なのは、自分で考えて決めること。
「結婚したら妻は夫の名字になる」という固定観念を理由に、選択することはなんだか悲しいから。

◎ ◎

もちろん法的、観念的問題はあるけれど、いつまでも同じことで悩み続ける日本ではないと信じている。

この先結婚したとしても、できるなら今の名字のままでいたい。
相手男性の名字を名乗ることには、ちっとも憧れがない。
性と名、ふたつ揃って私の名前だから。

名前が変わったくらいで、私の何が変わるわけでもない。

けれど、名前は私だけの、大切なもの。
そう主張することくらいは、「わがまま」と捉えられない世界であってほしい。

■夏永遊楽のプロフィール
なつなが ゆら といいます。
きれいなものに目がない。
どうでもいいことを納得するまで調べる癖あり。眠り損ねた夜がいくつもあります。
すべてはナラティブです。

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