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【年末年始に読みたい本】ママたちの「力をもらえる一冊」を著名人・小説家が厳選

  • 2024.12.30

今年出版された本の中からオススメの三冊を古市憲寿さん、三宅香帆さん、外山 薫さん、松尾亜紀子さんにそれぞれ伺いました。日常からワープする時間、日常を見つめる時間をぜひ楽しんで。

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力をもらえる一冊、教えてください 「VERYママ書店」

古市憲寿さん、三宅香帆さん、外山 薫さん、松尾亜紀子さんが選書

いつか子どもは手を離れる、 そのときの自分のために 今何ができるか

社会学者、作家
古市憲寿さん

古市憲寿さんがママにオススメする3冊の本

建築家、作家、アーティストである坂口さんが、まだ何者でもなかった自分を主人公にした『生きのびるための事務』。芸術家になるにも、「一番大切なのは感性を磨くことより事務」と言い切ります。夢が叶った10年後の1日の時間割りを作るという提案は、夢を叶えるために逆算的に何をすべきかわかります。結婚、出産してここから夢を叶える?と感じるかもですが、僕が仕事で出会う70代・80代は口を揃えて50代が楽しかったと言うんですよ。目の前の育児や仕事が大変でも、いつか子どもも手が離れる。皆さん優秀だからこそ毒親になりかねない部分もあると思うので、これを読んで子どものことだけでなく自分の未来を考え、自分に優しくあってほしいです。『往復書簡 限界から始まる』は母と娘、結婚、セックスなどについて日常会話ではしない込み入った話を、親子ほど歳の離れた社会学者同士濃厚に赤裸々にやりとりしています。上野千鶴子先生は「結婚とは、自分の身体の性的使用権を、特定の唯一の異性に、生涯にわたって排他的に譲渡する契約のこと」と書いていて、普通結婚のことをそうは考えないからおもしろい。手紙だからこそ内省や熟慮があり、でもひとつひとつは長くなく読みやすいです。『路傍のフジイ』は「何もなくていいんだ」ということが救いになる一冊。VERYでは幸せにならなきゃ、仕事頑張らなきゃと思って生きる人が多いと思いますが、ただ日常を生きている人がここにいます。人生には違う軸もあり、幸せの基準は自分で決めていいんですよね。僕自身はあまりこういう生き方は好きじゃないから選びませんが(笑)、自分の価値観を確かめるきっかけとしてもおすすめです。

古市憲寿さん選書3選

『生きのびるための事務』
坂口恭平 著、道草晴子 漫画(マガジンハウス/¥1,760)
芸術家も会社員も、事務作業をおろそかにしては何も成し遂げられない。夢を現実にする唯一の技術、事務について。

『往復書簡 限界から始まる』
上野千鶴子、鈴木涼美 著(幻冬舎文庫/¥869)
稀代のフェミニストと気鋭の作家が、結婚や親子の在り方など自らを赤裸々に晒し合いながらやり取りをする書簡集。

『路傍のフジイ(全3巻)』
鍋 倉夫 著 (ビッグコミックス 小学館/各¥770)
職場では空気、誰の眼中にも入らない男・フジイ。現代で幸せとされる価値観を壊していく隠れたヒーローの物語。

 

未来に備えられたり、 日常を照らしてくれる一冊で 心を灯して

文芸評論家
三宅香帆さん

三宅香帆さんが選ぶオススメの本3選

『ナチュラルボーンチキン』。の独り身で起伏のない生活を大切にしている40代の主人公は一見、VERY読者の方からしたら自分とは違う世界の人と思えるかもしれません。その彼女がまったく違うタイプの20代の女の子と関わっていくお話。全然異なるタイプに見えても同じ時代・国に生きている者同士、同じようなことに悩んでいるんだなと思えるラストが特に良くて。女性が歳を重ねることについても、悩んでみたり受け入れてみたり、奇抜に描かれながら普遍性を感じるところに惹かれます。あと金原ひとみ作品はオーディブルで楽しむのも最高です!
まるで一人芝居を見ているようでもあり、変な女友達のPodcastを聴いているみたいでもあり(笑)。金原・綿矢りさ世代が今さらにおもしろく、昔読んだきりという方もぜひ出会い直してほしいです。小説は、現実逃避でもありながら日常を照らしてくれるものがいいなと思うのですが、そういう意味でもすごく良い一作。『義父母の介護』はドンピシャ世代ではなくても不安だけはある「介護」についてのエッセイ。何が起きるかの予習として使えるだけでなく、読み物としてまず絶品。「夫はなぜ介護をしないのか」とキレたりもしつつ最後には夫を巻き込み、夫婦関係の話としても読めます。『アメリカ革命』はアメリカの大統領選挙に際して、ニュースをより理解したいと思って読んだ一冊。少し頭に入っているだけでも話の入ってき方が違うものだと実感。アメリカでことさらに「チェンジ」「変化しよう」と言われている理由がよくわかりました。大統領選挙は終わりましたが、これは今年の当たり新書としてイチオシします!

三宅香帆さん選書3選

『ナチュラルボーンチキン』
金原ひとみ 著(河出書房新社/¥1,760)
ルーティンを愛する45歳の事務職×ホストクラブ狂いの20代パリピ編集者。忘れかけていた本当の私に出会う物語。

『義父母の介護』
村井理子 著(新潮新書/¥924)
仕事と家事を抱えながらの、認知症の義母&90歳の義父の介護。綺麗事ゼロ、本音で語り尽くす介護奮闘記。

『アメリカ革命 独立戦争から憲法制定、民主主義の拡大まで』
上村 剛 著(中公新書/¥990)
植民地時代から独立戦争、憲法制定、党派の始まり、南北戦争。先住民や黒人奴隷の視点も踏まえた70年の歴史。

 

新タワマン文学!?が生まれる予感。 幸せに生きる上で大切な ファクターを示してくれる

小説家
外山薫さん

外山薫さんが選ぶオススメの本3選

『あいにくあんたのためじゃない』は登場人物に皆一癖あり、悪い部分や嫌な部分も描き込まれているのがすごく良いんです。昨今、小説などフィクションですら道徳的・政治的に正しい振舞いを求められ窮屈さを感じることもありましたが、この本にはそれが一切ない。イチオシの一篇「BAKESHOP MIREY’S」は努力しないくせに一丁前に夢を語るフリーターの美怜と、彼女を応援し期待をかけ空回りするバリキャリの秀美のすれ違いが現代的で、後輩指導や子育てにも通じるなと思いました。キャリアと子育ての二兎を追わされている我々が、現実からもスマホからも逃れ息抜きできる、エンタメとして非常に痛快な短編集です。『ルポ 超高級老人ホーム』、これはネオ・タワマン文学の可能性を感じます。いい大学を出ていい会社に入り35年ローンでタワマンを買う、タワマンとは人生の通信簿なのだと言ってきましたが、3億円払った超高級老人ホームですら高層階や理事会の人間が偉そうにしている。トップクラスの富豪ですら、結局そういう価値観から逃れられないのかと諦観します。結局幸せになるためにはコミュニケーションや周囲の人間との継続的な関係性が大事なファクターで、お金だけあってもダメなんだなと実感しました。『あなたの言葉を』は小学校高学年になったお子さんの本棚に忍び込ませてほしい一冊。新型コロナ禍で子どもたちが学校に行けず「大変だ」と皆いうけど、本当に悲しまないといけないのか。本当はホッとしている人もいるでしょう、というくだりが印象的。辻村さんが常に一人の人として子どもに語りかけていて、自分も子どもの頃にこういう言葉が欲しかったなと感動した一冊です。

外山薫さん選書3選

『あいにくあんたのためじゃない』
柚木麻子 著(新潮社/¥1,760)
ブログが炎上中のラーメン評論家、孤独な妊婦……。今は手詰まりでも、道の先はきっとある。生きる勇気が湧く6篇。

『ルポ 超高級老人ホーム』
甚野博則 著(ダイヤモンド社/¥1,760)
カネさえあれば幸せに死ねるのか、入居金3億円超えのホームは桃源郷なのか。実態に迫ったノンフィクション。

『あなたの言葉を』
辻村深月 著(毎日新聞出版/¥1,540)
学校生活、出会いと別れ、言葉について。これから大人になる人たちへ、辻村深月が同じ目線で一緒に考えるエッセイ。

 

女性たちの「生」を知ることは、 私にとってのフェミニズム

エトセトラブックス代表・編集者
松尾亜紀子さん

エトセトラブックス代表・編集者 松尾亜紀子さんが選ぶオススメの本

昨年エトセトラブックスから『小山さんノート』という、ホームレス女性が書き残したノートをまとめた本を出しました。ノートの文字起こしをするワークショップのメンバーのひとりで、自身も公園に暮らすいちむらみさこさんが書いたのが『ホームレスでいること』。ホームレスは、社会で見えないものにされている存在であり、女性はさらに周縁に追いやられている現実があります。でもこの本に出てくる女性ホームレスそれぞれに暮らしがあって、生きてきた時間があります。ときには派閥争いしたり(笑)おしゃれを楽しんだり。女性の「生」を知ることは、私にとってのフェミニズム。彼女たちがこの社会に一緒に生きているということを見つめてほしいです。『ディア・マイ・シスター』は、主人公の女の子が性暴力被害に遭います。加害者は遠い親戚で地元の有力者。母親すら守ってくれない辛い状況のなか、被害者がその後の人生をどう生きていくのか、目を逸らさず、寄り添って描く韓国小説です。絶対に守られるべき未成年が守れていない日本の現実にも思いを馳せて、保護者であればぜひ読んでほしい本。最後妹に宛てた手紙は、思い出すだけで泣けてしまいます。『帝国主義と闘った14人の朝鮮フェミニスト』は、100年前に独立運動で闘った朝鮮の女性たちを描いたノンフィクション。私たちも日々生活を守るため、自分であるために何かしら闘っていると思います。いざ大切なものが権力に奪われそうになったとき、何をするべきか。声をあげなければという気持ちを後押ししてくれる一冊でもあり、14人の物語仕立てなので、韓国ドラマ好きも心に響くはず!

松尾亜紀子さん選書3選

『ディア・マイ・シスター』
チェ・ジニョン 著(亜紀書房/¥2,200)
他者に起きた暴力に無関心でいることは、暴力に加担すること。性暴力がもたらす恐れや怒りを切々と綴る物語。

『ホームレスでいること:見えるものと見えないもののあいだ』
いちむらみさこ 著(創元社/¥1,540)
現代社会の中で、見えているのに見えないことにされ、隠され、消されているものについて読者に問いかける一冊。

『帝国主義と闘った14人の朝鮮フェミニスト~独立運動を描きなおす~』
ユン・ソンナム 絵、キム・イギョン 著、ソン・ヨノク、キム・ミヘ 訳(花束書房/¥2,750)
日本帝国主義と家父長制に抑圧された朝鮮女性たちが、自由を切望し性差別とも闘う様を描く歴史ノンフィクション。

PROFILE

●古市憲寿さん
1985年生まれ、東京都出身。日本大学藝術学部客員教授。社会学者として活躍するほか、小説2作品が芥川賞候補に。

●三宅香帆さん
1994年生まれ、高知県出身。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。著作に『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)など。

●外山薫さん
1985年生まれ、慶應義塾大学卒業。別名義のXアカウントで“タワマン文学”の旗手として話題となり2023年『息が詰まるようなこの場所で』で作家デビュー。2作目は『君の背中に見た夢は』(ともにKADOKAWA)。

●松尾亜紀子さん
フェミニスト出版社「エトセトラブックス」代表。雑誌「エトセトラ」を年2回発行。2021年に、東京新代田でフェミニズム書を集めた同名BOOKSHOPをオープン。

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撮影/西原秀岳〈TENT〉(静物)、小石謙太(三宅香帆さん)、SAMSON YEE(松尾亜紀子さん) 取材・文/有馬美穂 編集/中台麻理恵
*VERY2024年12月号「力をもらえる一冊、教えてください『VERYママ書店』」より。
*掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。

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