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疲れが取れない? 真の休み方と疲労回復の方法を専門家が解説

  • 2024.12.31

話を伺った人……
片野秀樹(HIDEKI KATANO)博士(医学)、一般社団法人日本リカバリー協会代表理事。株式会社べネクス執行役員。休養に関する社会の不理解解消やリテラシー向上を目指して啓発活動に取り組んでいる。著書に『休養学』(東洋経済新報社)など。

森田敦子(ATSUKO MORITA)日本における植物療法の第一人者、サンルイ・インターナッショナル代表。フィトテラピー普及医学協会のアジア唯一となる認定校「ルボア フィトテラピースクール」を主宰。著書に『自然のお守り薬』(永岡書店)など。

From Harper's BAZAAR December 2024 Issue

疲れ方が大きく変わった今、“本当の休み方”を見直そう

Harper's BAZAAR

昭和から平成にかけてさまざまなものが機械化されて働き方は大きく変わり、肉体労働から頭脳労働の時代に移ったのは周知の通り。便利になったはずの世の中だが、「ここ25年ほどで疲労を抱えている人の数が逆に増えた」と医学博士の片野秀樹先生。

「1999年に厚生省が60代までの就労者を対象に疲労度の調査をした際、『疲れている』と答えたのは約6割。それが今は約8割の人が疲労を感じています。しかもここ数年で増えている傾向」(片野先生)

その原因はパソコンとスマートホンの普及にある。

「ネットにつながれば、今はどこにいても仕事ができてしまう時代。一日にまわれる訪問先の数が限られていた昔と違い、オンラインなら何件もこなせてしまいます。楽になったかのように思えるけれど、その分詰め込みすぎて、余白がない状況です。スマホはさまざまな情報が次から次へと流れていきます。そのスピードが脳を疲労させないわけがありません」(片野先生)

社会への不安も現代ならではの疲労の原因のひとつ」と話すのは植物療法士の森田敦子さん。「非正規雇用や少子高齢化の問題など、先が見えない将来に対して不安を抱えている人も多く、そのストレスが疲労物質をつくることも。そんななか人とのコミュニケーションはSNSが中心で、合理的ではあるけれどスピードについていけず、気持ちが疲れてしまったり、取り残されているような不安を感じる人もいます」(森田さん)

そしてバザー世代ならではの疲労要因も指摘。「30代後半からホルモンバランスが乱れ始め、早い人では40代前半から更年期を迎える場合も。体やメンタルの変化が起こりやすい時期は、よりいっそう自分へのケアを見直さなくては」(森田さん)

【Check! あなたの疲労度はどのくらい?】

□ 寝ても寝ても眠い

□ 体は疲れているのに、いざ寝ようとすると寝つけない

□ 朝、起きた瞬間から疲れている

□ 休みの日は思いっきり朝寝坊をして、そのままゴロゴロして過ごす

□ 有休がとりづらい職場に勤めている

□ 残業は当たり前だ

□ 人間関係に悩んでいる

□ 育児や介護など定休日のない仕事をしている

□ 最近、つまらないことでイライラする

□ 眼精疲労や肩こりがある

□ 入浴は湯船につからず、シャワー派

□ 夜の付き合いが多いが、毎朝9時には出社する

□ 栄養ドリンクやコーヒーを飲まないとやる気が出ない

□ 性欲が低下してきた

□ 最近、著しく気力・体力が衰えた自覚がある

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睡眠だけではとれない、現代の疲労の正体とは?

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疲れをとるためには睡眠がいちばん。でも寝ても寝ても疲れがとれないのはなぜだろうか? 「ひとつは睡眠の質が悪いこと」と森田さん。

「まず、夜遅くまでPC作業をしたり、スマホが手放せない人は、ブルーライトのために睡眠をつかさどるホルモンであるメラトニンがうまく発動しません。それだけでなく、頭は流れ続ける情報によって記憶を整理する“脳道”を使いすぎている状態。よい睡眠は脳を冷やすことによって得られるものなのに、不必要な情報によってオーバーヒートしたまま。ぐっすり眠ることができず、脳疲労をとることはできません」(森田さん)

「まず、“疲労”と“疲労感”の違いを知ることが大切」と片野先生。「走ったり暗算など、肉体的、精神的活動を続けていると1~2時間でパフォーマンスが落ちてきます。これが“疲労”。“疲労感”は自分が“疲労”していることをだるさやおっくうさなどで知るアラートです」(片野先生)。

例えば、犬の散歩で犬が突然座り込んでリードを引っ張っても動かなくなることがあるが、これこそ“疲労感”によって“疲労”を認識した状態。疲れがとれるまで動かないという動物の本能なのだ。

「ですが、私たち人間は脳が発達しているために“疲労感”をマスキングできてしまうんです。つまり、“疲労”しているにもかかわらず、“疲労感”を感じずに活動を続けることができるということ。責任感や使命感、達成感のために一時的にそういうことも必要かもしれませんが、それが続いたらどうなるか……自分が疲れていることを認めずに、活動を続けることで疲労が蓄積され、少し休んだくらいでは体が回復しなくなります。だから寝ても朝起きた時点で、すでに疲れているのです」(片野先生)

【疲労にまつわる疑問を専門家にASK!】

Q.頭が疲労するとはどういうこと?

「活字を読んでいた頃は、自分で情報を選んで、好きなペースで読めました。ですが、今はデジタルでさまざまな情報がひっきりなしに流れてくる。積極的に見ようとしなくても目に入ってくるだけで脳は活動します。膨大な情報を処理しきれません」(片野先生)

Q.体の疲労は頭と心にも影響する?

「体が疲れていると肩コリや腰痛など、痛みが生じる場合も。そうなるとやる気にならないし、痛みがストレスになって脳を疲れさせます。逆に長期的な脳疲労も肉体に影響をもたらします。悪循環なので、体と頭の双方のケアが必要なんです」(森田さん)

Q.疲労を放置するとどうなる?

「痛み、発熱、疲労は、体の異常を知らせる3大アラート。痛みや発熱は病気を疑いますが、疲労も病気につながる重要なサイン。休まずに放置することで、慢性疲労から慢性疲労症候群という病気に。そのほかさまざまな体の不調をもたらす原因にも」(片野先生)

Q.脳の栄養は糖分というけれど…

「甘いものを食べることによって急激に乱高下した血糖値を抑えるためにコルチゾールが分泌されて元気が出ると言われています。ただコルチゾールが出続けると副腎が疲労して不調を招くことも。なので甘いものの食べすぎには注意が必要」(片野先生)

Q.お酒でリラックスするのはNG?

「『酒は百薬の長』と言われ、血行促進や精神的なリラックス効果が望めますが、肉体的には負担のほうが大きいようです。肝臓に負担をかけるだけでなく、睡眠にも影響を与え、寝ている間にしなくてはならない回復過程が機能しなくなる原因にも」(片野先生)

Q.頭と心を休めるアロマは?

「香りは感情や自律神経を整えるといわれている視床下部に直接働きかけます。私自身、日々のお守りとして活用しているのが、ホーリーフ、ゼラニウム、ベルガモット、ネロリ、サンダルウッドの精油。これらは単品でも組み合わせてもおすすめ」(森田さん)

疲労回復のカギとなる、”活力”とは?

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睡眠はもちろん大切。でも睡眠だけでは十分な休養をとれていない人が多いのが現実だ。それには休養のとり方に問題がある、と片野先生。

「活動する→疲れる→休養する→そしてまた活動する……このサイクルを私たちは繰り返しています。ですがひとつ足りないのが、疲労の対義語にあたる“活力”を養うこと。つまり休養したあとすぐに活動に入るのではなく、活力に満ちた状態までもっていき、再び活動する、というサイクルです」(片野先生)

森田さんも同意見だ。「日本人と海外の友人を比べて思うのですが、彼女たちはいつもパワーにあふれています。いい意味で自分ファーストでだれかと比較したりしない。いくつになっても恋する心を忘れずに女磨きに精を出している。恋愛だけではないですが、活力をみなぎらせる何かを日常的に行っているんです」(森田さん)

では活力を高めるにはどうしたらいいのだろう?

「意外かもしれませんが、あえて軽い負荷を自分に与えると活力が高まることがわかっています。負荷といっても軽いもので、人から押し付けられるのではなく自分で決めることが大切。仕事とは関係なく、挑戦することで自分が成長できること、そして楽しむ余裕があるといいでしょう。だらだらと寝るだけの『守りの休養』だけではなく、積極的に休む『攻めの休養』をとることで、徐々に基礎体力が上がり、疲れにくい体づくりができます」(片野先生)

具体的な方法を下記にTIPSでまとめた。それぞれ単体でもいいが、複数を組み合わせると疲労回復効果が2倍にも3倍にも高まるとのこと。今後もデジタル社会はスピードを増していくことが予測される。

今こそ、休み方を見直すべき。

【活力をためる“攻めの休養” 7TIPS 】

1 だらだらと休まず、積極的に休む

「一日中ベッドでごろごろしたり、ソファで横になって動画を見まくるといった休み方は疲労をゼロにすることはできても活力を高めることはできません。休むときは“自分で決めて休む”ことが大切」(片野先生)

「海外でもシエスタを大切にしていますよね。例えば移動時間など、休めそうな時間を確保して、少しうとうとしてみるのはいかがでしょうか? 短時間でも体を休める効果のあるバレリアンを数滴たらした飲み物をとって、シルク製のアイマスクをして20分ほど休憩するだけで、かなり活力が出ますよ」(森田さん)

2 疲れているときこそ、軽い運動を

「運動と休養は正反対のように思えますが、実は適度な運動をするほうが疲労は回復します。というのも血液の流れがよくなり、細胞のひとつひとつにしっかりと酸素と栄養を運ぶことができるから。それによって老廃物の排出が促されてリンパの流れがよくなり、疲労感が軽減するのです。昼間に適度な運動をすると夜に副交感神経が高まって睡眠の質が上がる効果も。具体的にはヨガ、ストレッチ、ウォーキングなどがよいでしょう。もちろん疲れるほどのハードな運動は逆効果。あくまでも体を軽く動かすことが大切」(片野先生)

3 必要以上に食べすぎない

「飽食の時代でもある現代は、栄養不足よりも食べすぎによる害が大きくなっています。つまり食べすぎないことが体を休めることにつながるのです。例えば、正月の後は七草がゆを食べますよね。このように体の消化器官を休めたり、老廃物を排出してデトックスするためにできることをときどき取り入れましょう。また時間栄養学では、食事をとる時間によって体内時計を調整できるという考え方がされています。まずは朝食を毎日決まった時間に食べてみませんか?体がリセットされ自律神経も整ってきます」(片野先生)

4 人と親しく交わったり、自然に触れる

「最近はリモートワークが多くなりましたが、職場での雑談や友人との会話なども攻めの休養のひとつ。話をすることで人とのつながりを実感し、気分転換ができます。家族や恋人とハグやスキンシップをとることも疲れをとるのにおすすめ。人でなくてもペットと触れ合うのもよいでしょう」(片野先生)

「アーシングといって自然に触れることも大切。森林浴などに出かけられれば理想ですが、近くの公園の芝生の上をはだしで歩いてみたり、仕事の合間に空を眺めて地球の大きさを感じてみるだけでも有効です」(森田さん)

5 趣味嗜好を追求する

「何か自分の楽しみになるような習い事や趣味を見つけることも活力の源に。今から新しいことを始めるのがハードな場合は『これをすると何となく気分がよくなる』という行いをしてみましょう。例えば、歯磨きをする、爪を切る、鼻歌を歌う……どれもささいなことですが気分転換になります」(片野先生)

「恋愛も大きな活力をもたらします。きれいでいたいと自分を磨き、いつでもどんなときでも会いに行くなど、相手のために努力を惜しまないですよね。恋人でなくても、推しがいるだけでも最強ですよ」(森田さん)

6 何かを作ったり、空想する

「絵を描く、詩を書く、日曜大工をするなど、ひとつのことに集中すると疲労を忘れることができます。形のあるものを残さなくてもかまいません。好きなことを空想したり、瞑想などもおすすめ」(片野先生)

「バブルなど日本が元気だった時代は、個人個人の夢見る力が大きかったと思います。『〇〇したい』『〇〇になる』といった夢や妄想などが大きな活力につながっていたのでは。またおばあさんに赤いリップをつけると途端に元気になるようにメイクの力も絶大。メイクに集中して気分を上げてみても」(森田さん)

7 まわりの環境を変えてみる

「引っ越しや転職など大がかりなものでなくてもかまいません。例えば、普段とまったく違う環境に身をおけるのが旅行。ほかにも家具の配置を変えたり、カーテンを替える、整理整頓するのもいいでしょう」(片野先生)

「出張先で少し時間ができたらぱっと観光に行くのもリフレッシュできていいですね。日常では、定例のミーティングを会議室ではなく、好きなカフェでおいしいコーヒーを飲みながら行うのも気分転換におすすめ。いつも以上にいいアイデアが出てきて逆に仕事がはかどることもあります」(森田さん)

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