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川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う

  • 2024.12.29
川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う

Text by 取材記者

今季契約満了となったJリーガーたちが集う『JPFA(日本プロサッカー選手会)トライアウト』が11日、12日に実施された。11日の部に参加したFC岐阜DF小川真輝(まさき)、FC大阪DF藤田雄士(ゆうと)、水戸ホーリーホックMF髙岸憲伸(けんしん)は川崎フロンターレアカデミーの同期で、小学生年代から中学生年代までチームメイトだった。奇しくも同日にトライアウト会場でプレーした3選手の挑戦を追った。

昨年はトライアウトを受験できなかった男

11日午前の部に参加した小川はトライアウト初参加となった。昨年テゲバジャーロ宮崎を契約満了により退団したが、アマチュア契約だったため昨年開催されたトライアウトには参加できなかった。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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「アマチュア契約はチームの事情もあると思いますから、しょうがない部分があります。でもここでのアピールは現役続行の意思を表明する場所でもあると思います。そこに出られなかったことは他の選手よりも、スタートラインが遅れるというか…。すごく焦りが去年ありました。自分はたまたまFC岐阜さんに入ることができましたが、今後Jリーグ全体としてプロ契約の選手が増えていくように、そういう思いをする選手が減っていくといいと思います」と複雑な心境を吐露した。

トライアウトは原則JPFA会員が参加できるため、アマチュア選手だった小川は入会の選択肢がなかった。今回は岐阜でリーグ戦11試合出場と契約満了になった小川は、初めて参加するアピールの機会に向けて思い残しがないようにしっかりと準備して臨んだ。

トライアウトは独特の緊張感が張り詰めており、トライアウトを経験した一部の選手は「あの空気の中で、できればサッカーはしたくない」と話すほどだ。それでも小川は初のトライアウトではそういった空気の中でも問題なくプレーできたという。

「独特の雰囲気があって、みんな人生をかけている雰囲気があった。自分も緊張すると思っていましたけど、こういった経験はなかなかできるものではないですから、楽しもうと思って臨みました」と強心臓の一面を見せた。

紅白戦では川崎アカデミーの同期藤田と右サイドでコンビを組み、藤田が右ウィング、小川が右サイドバックを務めた。小川は「(藤田は)小学校から中学まで一緒にやっていたので、話しやすかったです。『こういうときはこうしよう』と話してコミュニケーションを取れたので良かった」と同期の存在は心強かったという。

直接フリーキックをチームが得ると、足元の技術に優れた小川と藤田はキッカーを名乗り出るも、小川はキッカーを決めるじゃんけんに負けてボールを蹴ることができなかった。

「自分が蹴りたいという一心でした。3人いたので『これはじゃんけんをしよう』と言って、自分は負けてしまったんですけど…。みんなが自分の良さをアピールしたいと思いますから」と悔しさをにじませた。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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この日は自身が守るサイドを何度か突破を許す場面もあったが、持ち前の足元の技術や正確なパスで立て直しを図るなどピッチ上で奮闘した。

進路については「この先のことは分からないですけど、自分としてはここまでシーズンが終わってからトライアウトに向けて、できることは全部やったというのはあります。悔いはないというか、この先どうなるかはお任せというか。巡り合わせだと思うので、楽しみに待ちたいと思います」

吉報を待つ小川の新天地はどこになるのか。再び鋭い軌道を描くプレースキックをピッチ上で見せてほしい。

海外挑戦で考え方が変わった男

今季リーグ戦4試合でFC大阪を満了となった藤田は11日午前の部に参加し、紅白戦では右ウィングで出場。攻守両面に存在感を出そうとサイドを往復しながら、局面に顔を出すアグレッシブなプレーを見せた。「状況的には選手として崖っぷちの状態。何がなんでも死にものぐるいで、このチャンスをつかまなければいけない強い気持ちでやりました」と無我夢中でボールを追いかけた。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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今年7月に韓国3部抱川シチズンFCへ期限付き移籍で加入し、リーグ戦5試合に出場した。チームは15位で4部チームとの入れ替え戦に回るも、後半頭から出場して3-1の勝利でチームの3部残留に大きく貢献した。初の海外挑戦と韓国での経験が大きな財産となっている。

「(チームに)通訳がいなかったので、その中で監督が何を求めているのかをより考えなければいけなかった。チームとして求められていることや、自分が監督に何を求められているかをより意識するようになりました。自分は狭い考え方でプレーしていたので、韓国に行ってそれが広がった。チャンスがあれば、どんどん違う国にもチャレンジしてみたいですね」と海外にも視野を向けた。

今回初参加となったトライアウトではこれまで関わりがなかった選手たちと急造チームを組んだ。豊富な運動量をベースに攻守の局面に顔を出して、気の利いたサポートを得意とする藤田にとって連係の質は自身のプレー内容に直結する。急造チームでは難しさもあったが、積極的に声がけをして自身の強みを出そうと奮闘した。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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「初めての経験だったので、ほとんど知らない選手でしたからコミュニケーションを増やしました。その中で自分の特徴を出さなければいけないとか、いろいろな難しさがあって少し緊張してプレーしていました」と胸中を明かすも、会場には幼馴染の小川の姿があった。「(紅白戦で)同サイドで右サイドハーフとサイドバックで組めたので、試合前からも喋りながらロッカールームでも喋りました。一緒にプレーするのは中学以来でしたね」と明かし、川崎アカデミーで共にプレーした仲間と再び共闘した。

紅白戦で直接フリーキックを獲得すると、藤田はプレースキッカーを名乗り出た。ただ小川や他のチームメイトも名乗り出たため、じゃんけんでキッカーを決めることに。ただ藤田も小川もじゃんけんに敗れ、「自分が打って決めたいという気持ちでした」とスカウトに向けたアピールをする絶好の機会を逃してしまった。

右サイドで小川とともに奮戦するも、何度かサイド突破を許すなど苦しい場面もあった。それでも笛がなるまで積極性を見せて、新天地に向けたアピールを続けた。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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「チャンスがもしもあるのであればきょうみたいな難しい状況を経験できたので、この経験を生かして強い気持ちでプレーできたらいいと思います」と吉報を待つのみとなった藤田。海外挑戦やこのトライアウトで得た経験などを糧にして、新天地で躍動してほしい。

トライアウトで輝きを放った男

11日午後の部に登場した選手の中で最も存在感を見せた男は髙岸だった。紅白戦で直接フリーキックを獲得すると、プレースキッカーを務めたテクニシャンは鋭い軌道を描くシュートをゴールネットに突き刺した。ゴール前でボールを受ければ緩急を生かした相手を置き去りにするドリブルでゴール前に迫るなど、独壇場といってもいいほどの輝きを放った。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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「本当に崖っぷちだったので、人生をかけてトライアウトに向けて気持ちを入れて取り組んできました。結果がどうであれ、まずはここから先にチャンスがあれば、本番で結果を出せるように気を引き締め直してやっていきたいと思います」と言葉に力を込めていた。

水戸ではリーグ戦11試合に出場するも、先発出場はゼロだった髙岸。そのうっ憤を晴らすかのように華麗なプレーで攻撃をけん引するも、トライアウト後の取材では「後半にもチャンスがあったので、それを決めきらないといけなかったことが自分の中ですごく悔しいです。でもフリーキックでは一つ結果、数字を残したのは自分の中で良かったです」と一喜一憂せず、冷静に自身のプレーを振り返っていた。

小学年代から中学年代まで川崎アカデミーで育った男はU-18へ昇格できなかったが、北信越の名門星稜高(石川県)で背番号10を背負うほどの存在に成長した。中央大を経て水戸へ渡っても、アカデミーで築いた絆は切れていなかった。

川崎アカデミーで後輩だったJ3ギラヴァンツ北九州MF高吉正真(しょうま)が先天性多合趾症(センテンセイタゴウシショウ)により、生まれつき足の指が6本と先天性異常に苦しんでいた。6本目の足指は幼少期に切除したが、先天性異常の影響により足幅が広かったため、自身の足にフィットするスパイクがなかった。自身に合うスパイクを探すためにSNSで呼びかけをすると、髙岸が知り合いのメーカーを紹介した縁で念願の足にフィットするスパイクを手に入れた。

Qolyの取材を受けた際に高吉は「本当に感謝しきれないです」と先輩に深く感謝していた。髙岸は「アカデミーに6年間川崎フロンターレにいて、サポーターの皆さんも温かくて、いまだに川崎家族だと言ってくれる方もいらっしゃいます。そういった意味では本当に同じチームにいた後輩が困っていたので、僕にできる限りのことをしました。僕がただスパイクのメーカーさんを紹介しただけなので、スパイクのメーカーさんに僕自身もすごく感謝していますし、高吉自身もすごく感謝していると思いますね」と笑みを浮かべた。

この日午前の部に参加したアカデミーの同期である小川、藤田ともトライアウト前日に再会した。髙岸は「昨日藤田と小川と直接話しましたけど、『もっとお互い頑張っていかなければいけない』と話しました」と励まし合った。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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プロデビューした水戸での3年間は大きな財産となっている。自身を支えたサポーターの存在、成長を促してくれたクラブスタッフ、同僚と感謝が尽きない。新天地で結果を出して、水戸に恩返しをする決意を明かした。

「(水戸は)プロサッカー選手にならせていただいたチームなので、本当に感謝しかないです。プライベート、オフザピッチのところでもすごく成長させていただきました。自由にさまざまな取り組み、いろいろな活動に、クラブとしても後押ししていただいたので、この恩を結果で返したいと思います。

自分はいま厳しい立場にいますけど、必ずどこかでいままでいただいた応援や、サポートしていただいた感謝を結果で恩返しできるようにしたいです。自分自身も毎日サッカーに取り組んでいきたいです。いろいろなところから応援していただいて、自分の元にも届いています。応援を力に頑張っているので、これからも引き続き応援いただけたらと思います」とクラブ、水戸サポーターに感謝を伝えた。

川崎フロンターレアカデミー育ち同期3人のトライアウト、三者三様の挑戦を追う
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新天地に向けて「チャンスがあるところで自分が成長できるように、(必要とする)チームのためにやることを全力でやっていきたいと思います」と前を見据えていた。

川崎アカデミーの1999年生まれ世代は9選手がプロになっており、8選手がJリーガーとなった。高校卒業後のトップチーム昇格がゼロと不作の世代と揶揄(やゆ)されることもあったが、一人、一人がたくましく成長した。髙岸、小川、藤田は奇しくもトライアウトをきっかけに再会したが、次はJリーグの舞台で再会するシーンをこの目に焼き付けたい。

(文・撮影・高橋アオ、取材・高橋アオ、浅野凜太郎)

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