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ダシの聖地・大阪で、下町中華をいただく

  • 2024.12.30
大阪、吉林菜館の様子

なぁんとなく、化学調味料が多そうかなぁ、と思います?写真を見て?そこが甘い。まるで逆です。ダシの聖地、大阪。下町の、いわゆる大衆中華でも、長年の名声と栄光を誇る店では、中華の基本ダシ上湯(シャンタン)スープは、そのままでも、それを使った炒め物などでも、一口味わっただけでハッと目が覚め、心洗われるようなビューティフルな滋味と、深く響く味わいがあるのです。

そもそも大阪。粉物の街ってイメージは子供の言うこと。食の都としての本懐は、日本料理を筆頭とする“極上ダシ・カルチャー”の街ってところ。京都を席捲するかの〈嵐山 吉兆〉も、エリザベス女王が訪れた岡崎の大料亭〈つる家〉も、元は大阪の料亭の一支店だったってところからも、大阪のダシへの厳しさと、その卓越性がわかろうというものだ。

そんな“極上ダシ・カルチャー”の街・大阪の至福を、まるで息をするような自然さで味わわせてくれる、下町に隠れた金字塔店たち。その信条も、なんとも潔いものばかり。

まずは西区・九条で歴史を誇る〈吉林菜館〉。チャキチャキ元気な女将・劉王光子さんいわく「料理はしっかり、いいスープさえ出したら後は大丈夫。化学調味料?そんなん入れたら料理が苦くなるやん。うちは鶏ガラ100%で、豚も入れない。だから後味がキレイなんよ」と胸を張る。そのダシ力は、ご飯ものにさりげなく添えられるスープや麺類だけでなく、仕上げに上湯スープを使う八宝菜などの炒め物にも強烈に炸裂。圧巻のエネルギー感と弾ける澄んだ旨味に、しばし呆然となり、またこれほど真摯な職人仕事が、大阪の盲点のような下町の、店丸ごとが昭和骨董品のような場所に潜んでいることに目頭が熱くなる。

吉林菜館の暖簾
静かな佇まいの中に、不動の入魂仕事へのプライドが漂う暖簾。西区・九条に凜と揺れて、約70年。
鶏唐揚げ。フワッと軽く、羽のようなエアリー感が悩殺的。鶏唐揚げ950円は〈吉林菜館〉の神話的一品にして、町中華の神秘さえ感じさせる。
吉林菜館 XO飯
名物、XO丼。XO醤は干し貝柱たっぷりで自家製。750円。
吉林菜館の店内
重厚な机と椅子は40年以上使い続けるオーダー品。
吉林菜館の中にはサインがたくさん
昭和の芸能人のサインも、歴史を感じさせる。
吉林菜館の水餃子
水餃子。中から肉汁ジュワ~ッ。800円。
吉林菜館の食品サンプル
わびさびあり。メニューサンプル。

Information

吉林菜館(九条)

全皿にまばゆく輝く、昭和中期の職人気質
昭和30(1955)年、吉林省からの留学生だった先代が創業した味を、2代目が受け継ぐ。油に頼らないあっさりと上品な味に、遠方のファンも多数。

住所:大阪市西区千代崎2−7-12
TEL:06-6582-4661
営:11時30分~14時20分LO、17時~22時20分LO(日・祝11時30分~21時50分LO)
休:水曜

大阪の盲点といえば焼肉の街・鶴橋の1駅北で、一気に静かな住宅が増える玉造〈純華楼〉も同様。スープはまるで極上のビオ白ワインの余韻のような自然で優しい味わい。秘密は、店主・林愛英さんいわく「鶏も豚も、骨を煮込み始める前に徹底的にお湯で洗ってキレイにしてから鍋に入れること。中国料理は細かい作業がいっぱいあるけど、その小さな作業を一つ一つちゃんと積み重ねることで、最終的に大きな味の差になる。化学調味料?家にもない。変な味になる」とは金言至極。その上湯スープで仕上げる名物の一つ、エビの卵白仕立ての美しく澄み切った高貴な味わいは……香港の高級ホテルでそのまま出せそうな域、とさえ思えるほどです。

純華楼のエビの卵白仕立て
エビの卵白仕立て。油ゼロ。湯通しで仕上げるジェントルで雅な名品。880円。
純華楼の四川焼きそば
四川焼きそば750円。自家製豆板醤の辛さと、野菜の甘味が絶妙に響き合う。
純華楼の店内
時には客席で、スタッフが餃子を包む姿も。
大阪の純華楼
「都心部は家賃が高い」と玉造に出店。
純華楼の主人・林愛英さん
主人・林愛英さん。四川出身。

Information

純華楼

大阪の死角、玉造でも、予約必須の超人気
脂っこさをまるで感じさせず、野菜の自然な味わいを生かす料理と、ジューシーな焼き餃子でブレイク。全36席あるが、平日も満席ゆえ予約はマスト。

住所:大阪市中央区玉造1-13-1 丸勝ビル1F
TEL:06-6763-1998
営:11時~14時30分LO、17時~22時30分LO
休:月曜(祝日の場合営業)

美空ひばりが愛した一皿も決め手はダシでした

もう一軒、大阪・キタの町中華のレジェンドとして畏敬されるのが〈共平亭〉(現在は閉店)。看板料理の皿うどんは、美空ひばりが大阪での公演時、度々楽屋に出前させたという由緒ある一皿。パリッと軽やかな揚げ麺に加え、旨さの支柱は豚と鶏のコクが凝縮したスープのあんかけ。女将いわく「豚骨と鶏ガラを20時間、しっかり煮込むのが大切。スープはどこにも負けないと思いますよ」と静かに、揺るがぬ自信を見せる。

そのすぐ近くの木造住宅密集地、本庄西で歴史を誇る〈一品香〉も参詣不可欠の一軒。わずか28席に対し、厨房のスープ用寸胴はドラム缶大。ここに主人が「鶏ガラ、ミンチ、豚足、昆布を寸胴いっぱいまで入れて、蓋で押さえつけながら煮込むから旨い。見えへんところに原価かけてるねん」とのスープも、妖艶至極な滋味深さ。例えば写真の牛タンうま煮などの煮物にも、スープに豚足から溶け出たゼラチンがトロ~リと絡み広がる滋味は……まさにエロティック、でありますよ。

一品香の牛タンうま煮
牛タンうま煮。タン丸ごと90分、スープでコトコト煮込んで旨味が染みる。1,200円。
一品香、店全体がアンティークな佇まい
店全体がアンティークな佇まいも、たまらない非日常感。
一品香、店全体がアンティークな佇まい
店全体がアンティークな佇まいも、たまらない非日常感。
一品香のお弁当
8種のおかずから2種を選べる特別定食1,300円。カニ玉にもしっかり、素朴で温かなダシの旨味。
一品香の豚足
スープ用の豚足。これで1日分。

Information

一品香(中崎町)

北京料理一筋。主人の昔気質の味
夜はひっそり静まり返る本庄西で開業。ご親族の多くは〈神仙閣〉〈東天閣〉など別格の高級中華の料理長というDNAを、28席の小フロアで惜しみなく発揮。

住所:大阪市北区本庄西1−12-23
TEL:06-6373-0198
営:11時~21時(月~14時)
休:月曜夜

最後に、大阪・町中華の最有名店の一つ〈一芳亭〉についても、知られざるダシ気概を。この店、名物の焼売は全国的に有名ですが、同様に見逃せないのが豚天などの揚げ物。軽いだけじゃなく、衣にほんのりと幸せな甘味と奥深い味があるのは……なんと揚げ油が、焼売を蒸した時に出る油ゆえ。つまり焼売の豚肉と野菜の旨味が、揚げ油に最初から入ってるわけで。それって、揚げ油にまで“ダシ”利かせてるってことですよ。恐れ入ります。ダシの魔都・大阪のディープ仕事。心より。

一芳亭 船場店の春巻き
焼売同様、小麦粉ではなく卵の皮で包む春巻き。あっさり、サラダ感覚で楽しめる。900円。
一芳亭 船場店の豚の揚げ物
豚天。衣の優しい甘味が悩殺的。490円。
一芳亭 船場店の暖簾
暖簾の書体も昭和の粋。
一芳亭 船場店のお土産シュウマイ
焼売1,000円(15個)は取り寄せにも人気。
一芳亭 船場店の店内
蛍光灯のわびさびある照明も味。

Information

一芳亭 船場店(堺筋本町)

焼売以外にも無数。この店だけの、しみじみ味
難波の本店(1933年創業)が有名だけど、店の佇まいとその風情では船場店(1984年~)も都市遺産もの。焼売以外にも、豚天や鶏肝照り焼きなど、21品の料理すべてに、歴史が磨いた矜恃が光る。

住所:大阪市中央区船場中央1-4 船場センタービル2号館B2北通路
TEL:06-6263-1146
営:11時~20時50分LO(土~15時LO)
休:日曜・祝日

ともあれ、昔から中国ではこんな諺があるそうです。「1万両の黄金はたやすく手に入れることができても、一人の親友に出会うことは難しい」。でも、これらのお店を知れば思えるはず。「出会えたよ。その親友に」と。おそらく。きっとね。

最エッジ・ワインがあるのも、星付き店じゃなく、町中華です

東京・新橋の〈ビーフン東〉。実はその発祥の地である大阪のお店も、タイヘンなことになってます。

それはこの店のワインセラー。堂々、2フロアにまたがる巨大ウォークイン・セラーに2,000本以上。DRCやヴォギュエなどブルゴーニュの熟成酒だけでなく、ヴァン・ナチュールの最先端のジョージア、オーストラリア、スペインの最高峰自然派生産者まで見事に網羅。かの〈ホテルニューオータニ〉出身ソムリエ、田代啓氏渾身のセレクトで今や「大阪で最高のワインは、星付きフレンチじゃなく中華にある!」との声まで、高まる一方です。

昼はビーフンとちまきの定食中心。夜はフレンチも取り入れた中華ビストロとして、ワインに合うアラカルトを多彩に展開。

AZ/ビーフン東 大阪店のワインセラー
AZ/ビーフン東 大阪店の店内の様子

Information

AZ/ビーフン東 大阪店

住所:大阪市北区西天満4−4-8 B1
TEL:06-6940-0617
営:11時30分~13時30分LO、17時30分~21時30分LO
休:日曜・祝

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