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妻の「卵があったら10個買ってきて」に牛乳を10個買ってきた夫…"思考力"のなさが引き起こす意外すぎる結末

  • 2024.12.29

日々の決断や問題解決において最も重要なのは、適切に物事を判断し、的確な行動をとるための思考力だ。外資系コンサルタントの吉澤準特さんは「その思考力を体系的に高めるためのフレームワークが『PAC思考』であり、これが本質的に物事を探究する思考(クリティカルシンキング)の基礎となる」という――。

※本記事は吉澤準特『クリティカルシンキング入門』(PHPビジネス新書)の一部を再編集したものです。

食料品店で鶏の卵を選ぶ
※写真はイメージです
なぜ、思い違いが生じるのか

ある日、プログラマーの夫に妻が買い物のお願いをしました。

「買い物に行って、牛乳を1個買ってきてね。卵があったら10個お願い」

(※説明のわかりやすさを優先し、牛乳と卵の数え方を「個」で統一しています)

夫はしばらくして、牛乳を10個買ってきました。妻は驚いて言いました。

「どうして牛乳を10個も買ってきたの!」

夫は答えました。

「だって、卵があったから……」

これはインターネットで話題になったエピソードをアレンジしたものです。この話の面白い点は、妻による条件の指定が精密ではなかったことから、プログラマーである夫が誤った条件を設定してしまったところにあります。

2人の思い違いはどうして生じてしまったのか、それは買い物に対する前提が異なっていたからです。二人はそれぞれ次のように捉えていました。

(妻)前提:牛乳を1個買う必要がある。卵があったら、卵も買いたい。
(夫)前提:牛乳を1個買う必要がある。

この前提のもとで買い物をすると、「卵があれば10個お願い」という条件(仮定)を示した時の2人の捉え方は次のようになります。

(妻)条件:卵があれば、卵を10個買う。(牛乳以外に卵もほしいから)
(夫)条件:卵があれば、牛乳を10個買う。(牛乳だけほしいから)

前提と条件が正しければ結果も正しくなる

買い物ミスの直接的な原因は、条件において「何を10個買うか」を指定していなかったことです。しかし、前提として「卵があったら、卵も買いたい」という共通認識を持てていれば、条件の意図を正しく把握して、牛乳ではなく卵を追加で買う指示だと、夫は理解できたことでしょう。

前提と条件の正しさを夫が確認していれば、正しい結果になっていました。前提と条件の関係が適切であるか、図表1で整理してみましょう。

【図表1】前提と条件の関係
出典=吉澤準特『クリティカルシンキング入門』(PHPビジネス新書)

まず、妻の考え方について。牛乳と卵を同時に必要とする状況はあり得るものであり、前提として明確に示されていませんでしたが、卵を10個買うことには合理性があるといえます。

一方、夫の考え方について。卵が店にあるかどうかが牛乳の購入数に影響すると考えたのでしょうか? 卵の有無が牛乳の購入数を変化させる要因であると考えたにもかかわらず、卵自体は購入していないとしたら、その行動に合理性はありません。これらのロジック構造を前提と条件に分けて示すと、合理性の有無をより簡単に理解できます。夫の考え(ロジック)を見れば、「なぜそう考えた?」という疑問しか生まれません。

「PAC思考」を使うと間違いは生じない

前提と条件の関係が適切であるか把握するには、ロジックの構造を図解することが早道です。

私がビジネスパーソンや学生に教えているクリティカルシンキングのフレームワークの基礎として「PAC思考」(Premise-Assumption-Conclusion)というものがあります。これを使うと、先ほどの買い物の間違いは、そもそも発生しなかったでしょう。

ソファに座ってイライラした不幸な若いカップル
※写真はイメージです

PAC思考は、意思決定とその根拠を3つの要素、Premise(前提)、Assumption(仮定)、Conclusion(結論)で構造化します。PACとは、各要素の頭文字を取ったものです。

①前提:ある決定や判断の基礎となる事実や一般的な認識
②仮定:前提に基づいて立てられる、特定の状況や将来に対する予測や推測
③結論:前提と仮定を基に導き出される最終的な判断や決定

たとえば、出かける時に曇っていて、あなたは「雨が降りそう」と考え、傘を持って行くことにしたとします。

前提は「空が曇っている」です。すでに事実として確認できることが該当します。仮定は「雨が降りそう」という不確定な要素。雨は降るかもしれませんし、降らないかもしれません。結論は「傘を持って行くことにした」です。前提に仮定を照らし合わせて、この結論を出しました。

前提と仮定から合理性のある結論を導く

このように、前提と仮定から合理性のある結論を導くのがPAC思考の構造です。先ほどの買い物の例で登場したのは前提と条件でしたが、このうち「条件」はPAC思考における「仮定」にあたります。

妻の指定する「前提」と「仮定」は十分ではありませんから、不足している次の点を加えることにします。

(前提への追加)買い物の背景として、料理で卵を使いたいと考えている。
(仮定への追加)卵がなければ買わなくてもよいが、あるなら10個ほしい。

こうして前提と仮定の不明瞭だった部分をはっきりさせれば、夫は正しい結論を導き出すことができるでしょう。

前提:料理に使うため、牛乳1個が必要であり、もし卵もあれば買いたい。
仮定:店に卵があれば、卵を10個、買ってほしい。
結論:店で卵を見かけたら、牛乳1個に加えて、卵を10個買う。

何かを判断する時、PAC思考でその前提と仮定を意識することで、思い違いや考慮不足による失敗を防ぐことができます。前提と仮定を明確にし、それをしっかり検証することで、結論の妥当性を高めることができるのです。

3つの思考法を組み合わせて問題を解く

「ロジカルシンキング」を知る人は多いでしょうが、それを最大限活用するのに必要な「ラテラルシンキング」と「クリティカルシンキング」は知っているでしょうか?

ロジカルシンキング(垂直思考・論理的思考)

「それなら」と、客観的に正しい答えをゴールと考え、そこへ向けた道筋を切り開く「ドリル」です。ただし、まっすぐ突き進むことが最短経路になるとは限りません。大きな問題が行く手を塞いでいる場合、その解決には多大な労力を要します。

ラテラルシンキング(水平思考)

「むしろ」と、問題を避けたり減らしたりして効率的に取り組みます。様々な方向性から問題を捉える「双眼鏡」です。ただし、進め方に工夫を凝らしても、道が進むのに適していないこともあります。前提条件が厳しいなら、その見直しも考えるべきです。

クリティカルシンキング(探究思考・批判的思考)
吉澤準特『クリティカルシンキング入門』(PHPビジネス新書)
吉澤準特『クリティカルシンキング入門』(PHPビジネス新書)

「そもそも」と、ロジカル・ラテラルに考える最適アプローチを見つけます。全体を確かめる「地図」です。ただし、見直しをやりすぎると、中身を議論する時間が不足して期限に間に合わなくなります。時間制限を設けた取り組み方が必要です。

考えをまとめることが得意な人は、ごく自然にこれら3つの思考法を組み合わせて問題を解くことができます。やり方さえ知っていれば、誰であっても同じ答えに考え至ることができます。私はこのやり方を「ビジネス思考フレームワークモデル」と呼んでいます。

PAC思考は、クリティカルシンキングの基本フレームワークです。問題の前提・仮定・結論の関係性を「そもそも正しいのか?」と問い、論理整合性と確実性の観点で評価します。これによって、現在のロジックを本質的にどう改善すべきか、判断できるようになるのです。

吉澤 準特(よしざわ・じゅんとく)
外資系コンサルタント
ビジネスからシステムまで幅広くコンサルティングを行う。『外資系コンサルの仕事を片づける技術』ほか著書多数。

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