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ミュージカル映画の金字塔『レ・ミゼラブル』がスクリーンに蘇る!“リミックス”で進化した生歌・サウンドの魅力とは

  • 2024.12.28

2012年に公開され、日本でも興行収入58.9億円という大ヒットを記録。アカデミー賞では作品賞など7部門にノミネートされ、アン・ハサウェイの助演女優賞など3部門を受賞。『レ・ミゼラブル』はミュージカル映画の金字塔として、多くの人に愛された。その“レミゼ”が12年の時を経て大スクリーンに帰ってくる。この『レ・ミゼラブル デジタルリマスター/リミックス』(公開中)は、どのような新たな興奮と感動の体験を導くのか。

【写真を見る】役のための身体づくりも徹底し、『レミゼ』のヒロイン役を体現したアン・ハサウェイ

「リマスター/リミックス」で映像も音もクリアになって蘇った“レミゼ”

投獄されていたジャン・バルジャンが、仮出獄で心を入れ替えて市長になるも、ジャベール警部に正体を見破られて追われる物語に、若者たちが革命で血を流す悲劇が重なる『レ・ミゼラブル』。その荘厳な世界がミュージカルで描かれたという意味で、今回の再公開でぜひ味わってほしいのが、Dolby Cinema、Dolby Atmosでの鑑賞だ。「リミックス」とあるように、12年前の公開時から、さらに豊かになった「音」が、作品の真髄を提供してくれる。

19年間投獄されていた主人公、ジャン・バルジャンを演じるヒュー・ジャックマン [c]2012,2023 UNIVERSAL PICTURES
19年間投獄されていた主人公、ジャン・バルジャンを演じるヒュー・ジャックマン [c]2012,2023 UNIVERSAL PICTURES

今回のリミックスの効果は、オープニングからいきなり発揮される。ユニバーサル・ピクチャーズのロゴが出たあと、スクリーンの奥のほうからドラムの音が静かに迫ってくる。徐々に大きくなるその音とともに、観ているこちらは身体の芯の部分が震えだす。そんな感覚が作品への期待も高める。そしていきなり大波の音が炸裂すると、ほかの投獄者とともに船のオールを漕ぐ、ヒュー・ジャックマン演じるジャン・バルジャンの悲壮な表情が映し出される。ゆっくり高まるオーケストラのドラム、そして波の轟音で、ジャン・バルジャンの苦しみをここまで臨場体験させるのは、Dolby音響のなせる業(わざ)ではないか。作品の“つかみ”で、いっきに世界に没入してしまう…。

そしてもうひとつ、リミックスによってクリアになったのは、ミュージカルシーンでの繊細な音の数々だ。この『レ・ミゼラブル』はミュージカル映画としての大きな特徴がある。歌以外のセリフがごくわずかという点だ。つまり登場人物の言葉が、ほとんど歌で伝えられる。通常のミュージカル映画は、ダンスや歌の“ミュージカルパート”と、日常と同じ会話で展開される“通常パート”にくっきり二分されるが、本作は、全編が歌で語られる『シェルブールの雨傘』(64)に近く、俳優の演技と歌のパフォーマンスがほぼ一体化している。

第17回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールも受賞した名作ミュージカル『シェルブールの雨傘』 [c]Everett Collection/AFLO
第17回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールも受賞した名作ミュージカル『シェルブールの雨傘』 [c]Everett Collection/AFLO

こうしたスタイルのため、『レ・ミゼラブル』は革新的な演出が試みられた。事前にレコーディングされた歌に合わせ、俳優がいわゆる口パクで演じる通常のミュージカル映画と違って、俳優が撮影時に歌った音源が使われたのだ。演じている時の感情をそのまま歌声として収めるという、当時としてはチャレンジングな手法。このスタイルは、ちょうど来年(2025年)3月に日本で公開される、話題のミュージカル映画『ウィキッド ふたりの魔女』でも取り入れられている。つまり“生歌”の荒々しさや切なさ、繊細さが、映画を観る側にアピールするわけで、それがリミックスでさらに強化された印象だ。

音質の向上により、キャストの生歌や劇中のサウンドがさらにエモーショナルに

【写真を見る】役のための身体づくりも徹底し、『レミゼ』のヒロイン役を体現したアン・ハサウェイ [c]2012,2023 UNIVERSAL PICTURES
【写真を見る】役のための身体づくりも徹底し、『レミゼ』のヒロイン役を体現したアン・ハサウェイ [c]2012,2023 UNIVERSAL PICTURES

耳に残る「音」の体験は劇中で何度も訪れる。ジャン・バルジャン役のジャックマンが山の上を彷徨う冒頭での、歌の合間の苦しそうな息遣い(「独白」)。ファンテーヌ役、ハサウェイの鼻をすすり上げる音(「夢やぶれて」)。これは直前の髪を削ぐ音と相まって哀切さを倍増する。そしてエポニーヌ役、サマンサ・バークスの歌に重なる雨音(「オン・マイ・オウン」)など。歌声以外のサウンドがここまで感情を揺さぶるのも、Dolby体験ならではだろう。

その「オン・マイ・オウン」から、メインの登場人物がそれぞれの想いを歌い上げる「ワン・デイ・モア」(舞台版1幕のラストの曲らしく異常なテンションで盛り上がる)、若き勇士たちの「共に飲もう」、さらにフランス軍との闘いまでの息もつかせぬ流れは、この映画でも最大の見せ場であるが、楽曲の怒涛の果てに、耳をつんざく銃声が鳴り響くことで、ここまでサウンドのパワーに圧倒されることになるとは…。

リミックスによって、クライマックスがより大迫力に! [c]2012,2023 UNIVERSAL PICTURES
リミックスによって、クライマックスがより大迫力に! [c]2012,2023 UNIVERSAL PICTURES

キャストでは、ジャックマンの高音が改めてエモーショナルに響くことを確認できるが、リミックスで最も感心したのは、マリウス役のエディ・レッドメイン。やわらかく甘く、その場の空気を包み込むような歌声は、音質がよくなったことでその真価を堪能できる。「レミゼ」から2年後、レッドメインは『博士と彼女のセオリー』(14)でオスカーを手にし、演技の実力が評価されるが、歌での才能をもっと開拓してもいいと、このリミックスで感じる人も多いのではないか。これはファンテーヌ役のハサウェイも同様だ。一方で、本作のあとにも『グレイテスト・ショーマン』(17)で主演を務め、これから待機する作品(ニール・ダイヤモンドのトリビュートバンドで歌う主人公を演じる『Song Sung Blue』)でも歌の才能を披露し続けるジャックマンと異なり、レッドメインやハサウェイの熱唱は「レミゼ」限定という貴重なモーメントとなっている。

なかなかお目にかかれない、アン・ハサウェイの歌唱が楽しめるのも本作の魅力 [c]Everett Collection/AFLO
なかなかお目にかかれない、アン・ハサウェイの歌唱が楽しめるのも本作の魅力 [c]Everett Collection/AFLO

当時のキャストはいま…?12年経ったいま、『レ・ミゼラブル』を観るということ

このように現在もトップスターとして活躍を続けるキャストは別にして、12年前の作品を再見すると「あの人はいま?」のような感慨にもふける。最も気になったのは、バリケードの闘いで衝撃的な運命をたどるガブローシュ少年役のダニエル・ハトルストーン。本作から2年後にも『イントゥ・ザ・ウッズ』(14)のジャック役(「ジャックと豆の木」の主人公)で、ミュージカル俳優としての若き才能を発揮したが、2016年のジェームズ・グレイ監督作のアドベンチャー映画『ロスト・シティZ 失われた黄金都市』で小さな役を演じたあと、俳優のキャリアが途絶えてしまった。ハトルストーンは、ガブローシュ役の勇姿として永遠に人々の心に刻み込まれることになる。

当時13歳だったガブローシュ少年役のダニエル・ハトルストーン [c]Everett Collection/AFLO
当時13歳だったガブローシュ少年役のダニエル・ハトルストーン [c]Everett Collection/AFLO

もう1人、映画スターで占められたメインキャストのなかで異彩を放っていたのが、エポニーヌ役のバークス。舞台版「レミゼ」からの抜擢だった彼女は、この映画のあともブロードウェイやウエストエンドで活躍を続けており、映画でも2022年に日本で公開されたミュージカル『トゥモロー・モーニング』で主演を務めた。同作での相手役ラミン・カリムルーは、「レミゼ」のジャン・バルジャン役でブロードウェイデビューを飾った俳優というのも奇縁で、ミュージカル映画ファンは、バークスの躍進とエポニーヌのパフォーマンスを重ねながら観るのもいいかもしれない。同じくアンジョルラス役のアーロン・トヴェイトも、ミュージカルを中心に活躍し、2020年には「ムーラン・ルージュ」でトニー賞ミュージカル主演男優賞の栄誉に輝いた。

いまでもミュージカル映画などで活躍するエポニーヌ役のサマンサ・バークス(写真右) [c]Everett Collection/AFLO
いまでもミュージカル映画などで活躍するエポニーヌ役のサマンサ・バークス(写真右) [c]Everett Collection/AFLO

公開から12年も経てば、ミュージカル映画のトレンドはもちろん、世界の情勢も大きく変わっているので、この『レ・ミゼラブル』から受け取るインパクトも当時とは違ったものになるだろう。しかし、映画ならではのあの壮大で美しすぎるラストシーンを迎えた時の、信じがたい満足感は不変のような気もする。そこを再確認するためにも、今回のリマスター/リミックス版は、またとないチャンスなのではないか。

文/斉藤博昭

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