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日本の水道水は安全ではなかった…発がん性PFASの水汚染問題で世界的に注目される技術をもつ日本企業の名前

  • 2024.12.28

日本の水道水は安全でそのまま飲めると思われていたが、基準値を超える発がん性PFASが発見されたことで不安が広がっている。複眼経済塾の瀧澤信さんは「日本ではあまり報道されないがPFASは世界中で大きな課題となっている。それを解決する手法として日本の技術が見直されつつある。2025年の投資テーマの一つとなるだろう」という――。

グラスに注がれる水
※写真はイメージです
PFASで日本の技術が世界をリードする

発がん性が懸念される「PFAS」(有機フッ素化合物)が全国の水道水から検出され、心配が広がっています。11月29日は環境省と国土交通省が水道水の全国調査結果を公表しました。それによると、2024年度に富山県を除く46都道府県でPFASが検出されたといいます。

このPFAS、実は日本だけではなく世界中で大きな問題となっていますが、ここにきて解決のために日本の技術が見直されつつあり、日本が世界をリードする可能性が出てきました。そうした日本企業は今後、成長が期待できますから、投資の面からも注目に値します。この記事では、PFASで注目される日本企業について考えてみたいと思います。

どんな日本技術が注目されているかを紹介する前に、PFAS問題の動向について整理しておきましょう。

現在の地球環境がどのくらい危機的な状況にあるかをわかりやすく示す研究に「プラネタリー・バウンダリー」があります。プラネタリー・バウンダリーは、ストックホルム・レジリエンス・センター所長(当時)の環境学者ヨハン・ロックストローム氏らを中心とする研究グループが2009年に発表した論文の中で提唱したもので、昨年8年ぶりにその研究成果が更新されました。

PFASは地球の自浄能力では処理できない

この研究の狙いは、地球自体の「新陳代謝」を見定め、その処理能力を超えているような課題はないか、を炙り出す事にあります。9つのテーマに関し、自然に回復する力が維持できる限界値を設定し、各システムがその回復能力(レジリエンス)の限界を超えていないかどうかを分析・検証しています。

最新版では、前回の発表では明確ではなかった「Novel Entities(新規化学物質)」の影響が他のカテゴリーと比較して最も問題が大きいと指摘されています。新規化学物質とは「PFAS(有機フッ素化合物」)」や「プラスチック」、「化学系農薬」などです。

この問題は、日本であまり報道されませんが、最近の国際会議などでは必ず最初に取り上げられる話題です。地球には新陳代謝や自浄能力で処理できるものと処理できないものがあります。

何が処理できて、何が処理できていないかを調べてみると、処理できていないもののうち、突出して大きいのが新規化学物質による汚染でした。つまり、人間が化学物質として作ってしまったものが地球の能力では分解できていないことが明確になったのです。一方で以前話題になったオゾン層の破壊は、さまざまな努力の結果、問題は解決しつつあることがわかりました。

2024年4月に米国が規制強化

そして化学物質の影響は気候変動問題よりも深刻と評価されています。いま世界中で気候変動対策として脱炭素に取り組んでいますが、化学物質はそれよりも問題が大きく、先に取り組まなければならないのではないかとの議論が出てきたのです。

新規化学物質のうち、PFASと呼ばれる物質は1万種類以上あります。2004年発効のPOPs条約(ストックホルム条約)で、そのうちの3つの物質、PFOS・PFOA・PFHxSは、すでに廃絶対象(製造・輸入など原則禁止措置)となっていました。この条約にあわせ、日本でも然るべき規制が敷かれており、各国も同様です。

ところが、今年に入り、米国が今までにない強力な規制強化を決定しこの問題が再び注目を集める事となりました。米国の今回の取り組みは、PFOS/PFOA等に加え、新たに数種類のPFAS物質を対象に、事実上の完全排除を初めて法制化しました。また、EUはオールPFASと称して全PFASを対象とした規制に取り組んでいて、将来的には全てのPFASの使用を広く停止する方向で動き始めています。

米スリーエムは飲料水の汚染で1.8兆円を賠償

なぜ急速に、かつ強力にPFASを規制することになったのか。これは、昨年米国でスリーエム(3M)がPFASによる飲料水汚染の責任を巡り125億ドル(約1.8兆円)の賠償金を支払うことが決定したことがこの流れを決定的にしたと考えられます。この金額は賠償金としては過去2番目に高いものです。これを受けて3Mは2025年末までに全てのPFAS製品の製造を全廃すると発表し、業界に激震が走りました。

PFASは難分解性で生物蓄積性があり、人および動植物に対する慢性的な毒性がある物質です。すでに規制されているPFOSは、半導体をつくるときに溶剤として使われたり、金属メッキや泡消化薬剤などに利用されています。

また同じく規制対象のPFOAはフッ素ポリマー加工助剤(撥水剤など)や界面活性剤などに利用されています。身近なところではレインコートなどに使われている撥水剤もこの仲間です。

もちろん、日本でも規制しています。例えば水道水であれば1L当たり50ngを超えることはできません。ところが、米国では2024年4月に大幅に基準を強化して、1Lあたり4ngにしました(図表1)。これは事実上0ともいえる厳しい規制です。3年以内に水道水の状況を報告し、基準を超えていれば5年以内に改善せよ、との命令が出ました。

EUは2028年までの目標として、すべてのPFASを使用停止にする方向で動いています。そうなるとテフロン加工のフライパンや、撥水処理しているウインドブレーカーなども含めてすべてが使用できなくなります。3Mのような訴訟は今後も増える可能性があるでしょう。

【図表1】水道水1L当たりのPFOS/PFOA基準
出典=国連資料等より筆者作成
ファストフードチェーンが採用した王子製紙の「おはじき」

こうした規制強化の中で、日本の技術が再評価されそうです。たとえばハンバーガー店のフライドポテトやハンバーガーなどを包んでいる紙には、PFASが利用されています。アメリカで大型訴訟のターゲットになっていることもあり、マクドナルドは2025年中に全てのPFAS製品の使用を停止する、と発表しました。業界最大手の動きは、他のファストフード店等にも波及する可能性が高いと思われます。

ハンバーガーとフライドポテト
※写真はイメージです

そこで、PFASを使用せず油分等をはじく代替製品が求められてきますが、王子製紙はPFASを使わずに油をはじく特殊な紙を製造する技術を持っています。この製品は「O-hajiki(オハジキ)」という製品名で既に2000年初頭に開発していたものですが、当時はコストが高く、ほとんど売れずに一旦は製造中止に追い込まれた製品でした。ところが、今回の米国における規制強化の流れの中で急に引き合いが増え、予想を超える需要になっています。

また、衣料品の世界でもPFASは広く使われてきました。撥水処理能力の高いゴア・テックス等は、元々PFASを使ってきたことで知られています。ゴア・テックス社をはじめ各社がPFASフリーの製品を開発する中、東レは2023年11月にPFASを使わずに、水をはじく機能をもつ衣料品向け新素材を開発したと発表しました。

これまでの水をはじく素材は、PFASの溶剤を生地に塗ってコーティングしていました。東レは太い繊維と細い繊維をうまく組み合わせて、隙間をつくることで水をはじく技術開発したのです。ハスの葉やチョウの羽などの表面にも同じ構造があることを知って開発の参考にしたそうです。

このような方法はバイオ・ミミクリーと呼ばれます。自然界の生き物や生態系の仕組みや性質を真似して、新たな技術や製品を生み出す考え方です。自然界には人間にも有益な技術がまだまだ眠っているのです。日本は早くから自然を観察して技術に転用していこうとの取り組みをしていますから、それがいま実を結ぶタイミングに来ていると感じます。

東レは先端半導体の分野で貢献するフィルムを開発

実は東レには、もう一つ大きな動きがあります。前述のように半導体の製造にもPFASが大きく関わってくるのですが、使用が規制されると産業界も打撃を受けます。東レは半導体の製造工程で使われるフィルムで全くPFASを使わずに成果が出せるものをつくりました。

これまでのフィルムはフッ素系樹脂のためPFASが使われることが多かったのですが、東レの新製品はPFASを含まないポリエステル樹脂を使いました。AI(人工知能)向けなど先端半導体製造での利用を想定していますが、すでに販売を開始していて、2030年には売上高で40億円を目指しています。

米国が強化した水道水規制を達成するには、全米の水道各社が5年以内に取り組みをしなければなりませんが、何らかの除去技術が必要になってきます。クラレは、独自の活性炭フィルター技術で水道水中のPFASを僅か2週間で200ngから米国新基準の4ngまで落とせる水処理システムを持っています。同社は今回の規制強化を背景に2030年までにこの事業の売上高を年平均10~15%伸ばす方針を打ち出しています。

米国のPFAS基準を達成できるフィルターも日本が強い

このクラレが販売している製品は、水処理用などに展開する石炭系活性炭「FILTRASORB」です。この製品の特徴は、石炭を数マイクロメートル(マイクロは100万分の1)レベルまで粉砕した後、固めて再び数ミリメートル程度に破砕することで粒子同士の隙間を確保し、表面と内部の吸着性能を均一に高めるという、非常に細かく高度な独自技術の結晶です。

こうした細かい技術は日本がお家芸だと思います。海外で規制が強化されてきたという中で、日本の技術が日の目を見る日が近づいていると感じます。

ほとんどのテーブルソルトにマイクロプラスチックが含有

PFASに加えもう一つの化学物質問題はマイクロプラスチックです。世界のプラスチック廃棄物は20年前の2倍になっています。日本も例外ではなく、東京海洋大の推計によると、東京湾には25トンのマイクロプラスチックが存在しています。

このままでは、2050年には海に流れ出してしまったプラスチックのゴミが魚の量を上回るともいわれています。これを何とかしなければいけないとINC5で議論しており、近々大きな国際的規制条約が締結される可能性があります。

マイクロプラスチックは多くのテーブルソルト(市販の塩)にも含まれていることがわかっています。コンビニエンスストアやスーパーマーケットで売っている塩を世界64カ所・154種類を調べたところ、マイクロプラスチックが含まれてなかった塩は2つしかなかったのです。

それだけマイクロプラスチックは世界中に滞留しています。その理由は分解年数が長いことです。WWFによると、釣り糸は600年経たないと自然分解しません。ペットボトルも400年、レジ袋でも20年かかります。プラスチックゴミがどれだけ分解されにくいかがわかります。

プラスチックゴミを世界最大に排出しているのはインドです。世界の5分の1を占めるといわれています。発展途上国の方がプラスチック消費量は多いですし、規制するのも難しいのです。

王子ファイバーが紙製の人工芝を開発

そこで注目されているのが代替プラスチックです。たとえば、カネカは古くから生分解性プラスチックの開発に定評があります。また、国内のマイクロプラスチックの最大の原因となっている人工芝については、紙で代替する技術が進んでおり、やはり王子製紙グループが、紙製の人工芝を開発に取り組んでいます。この代替人工芝については、住友ゴムやミズノも開発を進めるなど、新たな技術的な競争も生んでいます。コンビニのレジ袋も、代わりは紙袋になることが容易に想像できるように、脱プラスチックを考える時に、紙の技術は今後重要になるでしょう。古くから和紙の技術を持つ日本勢は、その意味でも優位性があると期待されます。

ただ、プラスチック規制については、いまさら「使うのをやめろ」と言っても特に発展途上国はプラスチックが使えなくなると経済的なダメージが大きすぎて、実際には規制できないだろうと見る向きもあります。このため、マイクロプラスチック問題を解決に導くには、リサイクル・システムをいかに世界的に実現するか、という論点が注目されています。

日本ではゴミの分別収集は今や当たり前の光景ではないかと思いますが、実は世界広しといえどもこれだけ完璧なリサイクル・システムを、この人口と経済規模の中で実現している国はほとんどありません。経産省や環境省も、今回のINC5での議論を踏まえ、リサイクル・システム全体を海外輸出していく戦略を検討しています。民間企業も積極的にリサイクル・システムの開発に取り組んでおり、例えば花王や日立などは自社の部分だけではなくて広い範囲でのプラ容器の再生に取り組んでいます。こうした先進的なリサイクル・システムを武器に、世界をリードできる存在に日本がなっていく事が期待されます。

【図表2】再評価が期待される日本の技術
作成=筆者

瀧澤 信(たきざわ・しん)
複眼経済塾取締役シニアESGアナリスト
Second Baptist Middle School卒(米国)、渋谷教育学園幕張高校卒、成蹊大学経済学部経済学科卒。明治生命、グッドバンカー(日本初のESG専門投資顧問)、野村證券を経て、サステイナブル・インベスターを2006年に起業、代表取締役社長就任(現任)。2016年より複眼経済塾株式会社取締役シニアESGアナリスト兼事務局長。琉球大学講師(2007)、清泉女子大学講師(2019~)。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。

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