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【道具の目利きが推す土鍋3選】土鍋は育てるもの!寄せ鍋、チゲ鍋、しゃぶしゃぶ、水炊き、ポトフ……使いやすく素敵な見た目の優れものはこちら!

  • 2024.12.27
目利きが“育てた”土鍋は、趣あるいい味を醸し出している(すべて日野明子さんの私物)。

湯気が上がるアツアツの鍋料理が恋しい季節になりました。毎日鍋でもいいぐらい、と思う方も多いのでは?

そこで、日々、日本全国を飛び回り、全国の優れた暮らしの道具を訪ね歩く、ひとり問屋「Studio BOKE」を主宰する日野明子さんに、食卓での姿も見目麗しく、使いやすい土鍋をセレクトしてもらいました。


■山本忠正さんの飴釉土鍋

山本忠正さん作 飴釉土鍋(8寸)25,300円。

三重県伊賀に工房を構える「やまほん陶房」代表、山本忠正さんの伊賀焼の土鍋は艶やかで品のあるフォルム。あたたかみのある深い飴色にも、ほっと和みます。

土鍋はぺタライトという鉱物を混ぜてつくられることが多いそうですが、こちらは伊賀の土だけを使ってつくられています。伊賀の土は土中に小さな空洞があり、鉄分が少ないため焼締まらないことから、耐火温度が高く、土鍋本来が蓄える熱で具材がじっくり温まります。

さらに土鍋を使い込んでいくと、土の中にある小さな空洞が細かいヒビとなって熱膨張を逃がす役割をします。因みに、熱による膨張に耐えられなくなった際に“割れる”のだそうです。このあとご紹介する「目止め」はそのヒビの間を埋めるためにおこなうこと。使い続けていくうちに、土鍋は強くなっていきます。

使っていくうちに最初はきれいな鍋底にも細かいヒビが入っていくが、それは鍋が成長していく証。
縁が張っているので持ち上げやすく、飛び出した持ち手が無いことで洗いやすい。

浅型で広がりのある形は具材も見やすく、鍋の内側も飴色の釉薬がかかっているので「豆腐の白や春菊のグリーンがとても映えます。キムチ鍋などもいいですね。冬じゅう大活躍しますよ」と日野さん。

オーブン料理にも使える土鍋なので、冬の鍋ものに限らず一年中重宝しそうです。

蓋には湯気を逃がす穴が開いていないのも特徴。手びねりのため蓋と身の間に若干の隙間ができ、そこが蒸気穴がわりになる。鍋料理を食卓でする際、ひっくり返した蓋の上にお玉を置いて、その汁が蒸気穴を伝ってテーブルを汚す……といった経験のある方も多いのでは?この土鍋ならその心配は不要。

やまほん陶房

https://shop.gallery-yamahon.com/?mode=grp&gid=1030165&sort=n

土鍋の使い始めに欠かせない「目止め」

土鍋を初めて使う際に必ずおこないたい「目止め」。土鍋の原料である土(陶土)には小さな穴が無数にあるので、この穴を塞いでから使用します。陶土の無数の穴を「目」と呼ぶので、この目を塞ぐことが「目止め」となるわけです。

目止めにはいくつか方法がありますが、「米のとぎ汁や小麦粉、片栗粉を水に溶いて煮たり、お粥を炊いたりします」と日野さん。いずれも最初は極弱火で、徐々に弱火、中火と火を強めて土鍋が火に慣れてくるのを見守りながらおこないます。

さらに、土鍋を長持ちさせるための注意点として日野さんが教えてくれたのは

1 急冷・急熱しない
土鍋が熱いうちに急に冷たい水を注いだり、冷えた土鍋を急に強火にかけるのはNG

2 底が濡れた状態で火にかけない
致命的なヒビ割れなどの原因になるのでNG

3 完全に乾かしてから収納
生乾きはカビや臭いの原因になるので、天日などで完全に乾かしてから収納する

もし、使っている間にヒビ割れて水漏れした際には、「目止め」をすると表面に模様のように入るヒビ(貫入・かんにゅう)が埋まります。「折りをみて、おかゆを炊くといいですよ」と日野さん。

■kanaeだえん土鍋

三陶のkanaeだえん土鍋 ブラウン、グレー(各1.5L)各11,000円。

「だえん形」というあまり見かけない形状のこちらは、三重県四日市で作られる萬古焼(ばんこやき)の土鍋。萬古焼の土鍋は、国内生産第1位、全国シェア80%を占める定評のあるものです。

江戸時代の中期に桑名の豪商が窯を開いたことに始まる萬古焼。約300年もの歴史ある産地の土鍋はペタライトという鉱物を配合した低熱膨張性陶土で作られているので、高火力のガスでも割れにくい土鍋として全国に広がったそうです。

だえんの形状は小さなテーブルでも場所をとらず、食器のようなリム(縁)があるので、調理鍋として使ったときもほかの器に盛りかえずに、そのまま食卓に並べられるという利点もあります。

だえんの可愛いい形は、食卓でおさまりもよいので、蒸し物やオーブン焼きなどそのまま食卓に出せる。

「野菜を敷き詰め、肉をのせて蒸し焼きにしたり、ポトフや炊き込みご飯などにも使える便利な土鍋です。リムがあるので吹きこぼれも防いでくれます」と日野さんも絶賛。シチューやビーフストロガノフなどの洋風煮込み料理や、油をしいて肉を焼くなどフライパンのような使い方も可能です。

一般的な土鍋よりも軽くて扱いやすいので、冬の鍋もの以外に毎日の調理鍋としても使い勝手のよい土鍋。この冬、鍋を囲むことをきっかけに育ててみてはいかがでしょう。

三陶

https://santo-kanae.jp/

■野村亜矢さんのオーバル土鍋

野村亜矢さん作 土鍋(小)オーバル145(L約30cm×D約20cm×H約10cm)24,200円

姿形からも、表面の質感からもぬくもりが感じられる野村亜矢さんのオーバル土鍋。型もろくろも使わずに手びねりによって形づくられる土鍋は、焼成前の成形の時にヘラで削る工程により、ろくろでつくった土鍋とは異なる独特な表情が生まれます。

和とも洋とも分類しがたく、無国籍な雰囲気を纏う野村さんの土鍋は、寄せ鍋やしゃぶしゃぶ、鶏の水炊きなどの定番鍋料理のほか、洋風のコトコト煮る料理はもちろんのこと、エスニックや参鶏湯などの韓国料理、鶏や豚の塊肉を茹でたり、蒸し焼きにするのも似合います。

工房があるのは愛知県の三河安城。お母さまが営む花と器の店に併設されており、植栽や鉢植えなど植物が生いしげる空間で土鍋やグラタン皿のほか、花器などを作陶されていますが、手びねりのため量産が難しく、入手するのに少し時間がかかるかもしれません。

野村さんのインスタグラムなどをチェックして、手びねりならではの唯一無二の土鍋と出合ってください。

鍋の内側にも釉薬がかかっているので、土鍋ご飯も映える。
両サイドの取手付近も滑らかな流線形で本体と繋がれている。
蓋のつまみも個性的なつくりで、野村さんの土鍋の特徴的な要素。

花と器 野むら

Instagram @hanatoutuwa.nomura

日野明子さんが“育てた”土鍋をご紹介

左から松山陶工場のあたため鍋、岩井窯の蓋付片手土鍋、土楽の織部釜。どれも10年ぐらい使っている。

毎日の食事づくりでも「パスタを茹でるときはステンレスの寸胴鍋を使いますが、あとはほとんど土鍋です」と言う日野さんが使ってきた土鍋は、どれもいい顔に育ちました。コロンとした愛らしい形の虜になっただけでなく、長く付き合ってきたのにはそれぞれに理由がありまして。愛用ポイントを伺いました。

あたため鍋は小(200ml)と大がある。こちらは大(500ml)2,640円

三重県伊賀の松山陶工場でつくられる、伊賀土を使用した土鍋。「スープやおかゆなどの調理や温めにとても便利ですが、私はチャイ専用に使っています。価格も手頃なので、作るものを決めて専用に使うのがおすすめです」と日野さん。電子レンジやオーブンも可能なので、ひとり分の食事にも重宝しそう。

松山陶工場

https://www.shokunin.com/jp/matsuyama/

岩井窯のロングセラー、山本教行さん作の蓋付片手土鍋・大(直径19cm)33,000円

ご飯が美味しく炊けることにも定評のある、鳥取県の岩井窯でつくられる片手鍋。“鳥取民藝の父”と呼ばれる吉田璋也の思想に感銘を受けて作陶を志した山本さんの作品に日野さんは「姿形にグッときました。“釉だまり”と呼ばれる釉薬の濃淡がかっこいいですよね。豆を炊いたり、煮込みやシチューなどにも合う土鍋です。においが付きにくのか、連続調理に耐えるのもいいところ」。

使い込むほど釉薬の艶の濃いところ、薄いところがいい表情に育っていくのを楽しみたいもの。

岩井窯

https://iwaigama.com/donabe/

10年使った土鍋の底は、こんな風に細かいヒビが入る。土楽の織部釜(6寸・直径約18.5㎝)14,300円

三重県伊賀で、伊賀の土を使い、手挽きろくろを回して作陶する土楽。日野さんはこちらの「織部釜」を長年愛用しています。「白飯が大好きな私は、土楽の定番であるこの土鍋で目分量の水加減(笑)で炊いています。ムラなくふっくらと炊き上がりますよ。木蓋は趣があるだけじゃなく、余分な水分調整もするそうです」。もちろん玄米や炊き込みご飯も炊けるので、使用頻度は高いそうです。

土楽

https://doraku-gama.com/?pid=163488013

「土鍋」は寒い冬の時期に鍋料理でしか登場しないのがもったいないぐらい、活躍してくれる優れた調理道具。使い込むほど味わいが出て、愛着も沸いてくるものです。新しい土鍋を入手したら、まずは「目止め」をおこなって、自分好みの土鍋に育ててください。

文=CREA編集部
写真=橋本 篤

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