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のん×柚木麻子 映画『私にふさわしいホテル』ダークヒロイン・加代子の魅力を語る。 不遇な新人作家が、旧態依然の文壇に“ド根性と奇策”で挑む痛快映画【主演×原作者 対談】

  • 2024.12.26

映画『私にふさわしいホテル』が12月27日に公開される。日本の文芸史上、最もついてない新人作家・相田大樹こと中島加代子は文学新人賞の大賞を受賞しながら大御所作家・東十条に酷評されいまだ単行本は出版されぬまま。

そんな逆境を跳ね返すべく、大学の先輩で大手出版社の編集者・遠藤の力を借りながら、天敵・東十条とバトルの火花を散らし、持ち前の執念とハッタリで文壇をなり上がっていく――。年末年始映画きっての痛快な今作品の主演を演じる女優のんと原作者の柚木麻子が、それぞれが表現したダークヒロイン加代子について語り尽くす!

(取材・文=編集部、撮影=三宅勝士)

悪いやつの役をずっとやりたくて待ち望んでいた

――いよいよ映画『私にふさわしいホテル』の公開が迫ってきましたが、映画化の話を聞いたとき、どんなことを思いましたか?

のん 私は悪いやつの役をずっとやりたくて待ち望んでいたんです。だからこのお話をいただいて本当にうれしくて。しかも原作を読ませていただいたら、加代子とは共通するところが割とある気がして。何があってもヘコまないところとか、仕返ししたいと思ったらヘンテコな作戦になるところとか(笑)。だから、「やったー! 頑張るぞー」という気持ちでした。

柚木麻子(以下柚木) のんさんは仕返しするんですね。

のん 仕返し癖です(笑)。でも、やるからには今後、加代子みたいにド派手にやりたいなってすごい思いました。

柚木 私は中島加代子を演じるのがのんさんと知って「やったー!」でした(笑)。「これは勝ちパターンが来たぞ~!」と思いました。あと、この山の上ホテルに泊まったときに思いついた妄想が、最高のキャストで映画化されるのが本当うれしいです。まさか、原作通りにこのホテルで撮影されるとは思ってもみなかったので(老朽化を理由に今年2月より休業中)。

のん わー、うれしい(笑)

柚木 最初にのんさんを知ったのは『あまちゃん』だったと思いますが、その後の演技やお声のお仕事もCMも素晴らしくて、ずっとファンだったんです。のんさんは意識していないかもしれないんですけど、時代を変えていってしまうような求心力というか台風の目みたいな魅力があって。いい意味ですごいオタクっぽいんですよね。何かに過集中している人のお芝居がほんとお上手で。

のん もし柚木先生に事前にお会いできたら、加代子の「悪さ」についてうかがいたかったなって思ってたんです。

柚木 のんさんの演じる加代子はちゃんと悪いですよ、めちゃくちゃ悪い(笑)。なにかを思いついたときに目がギラギラするところとか、すごい食べちゃうところとか、どんどん飲んじゃうところとか、すごくいいなと思いました。生きる力が強そうで。

のん うれしい、よかった……。加代子を演じるにあたって、何事も突き抜けさせるということをすごく意識したんです。結構ひどいことをやってのけたりするのですが、そういうことすら観てくださる方が、清々しく感じるくらいに、気持ちがよくなるくらいに突き抜けさせて演じるということを大事にしてました。

原作通りに、加代子はマジで悪いやつのまま

――そのほかにも柚木先生に聞いてみたかったことはありますか?

のん 小説は平成が舞台でしたが、映画では80年代になったんです。この時代設定の変更を柚木先生はどう思われたのかなって……。

柚木 出版界は旧態依然としているので、80年代でもなんの問題もないなと思いました。執筆がパソコンか万年筆かの違いだけなので、なんの抵抗もなく……むしろ80年代のほうが加代子が伸び伸びできるかな、とちょっと思ったくらい。

のん 映画にも素敵なシーンがいっぱいあるんですけど、原作にあって映画には描かれていない、加代子に彼氏ができて(小説が)書けなくなっちゃうところが私、すごい好きでした。

柚木 加代子はすごくイヤなやつだけど、でもそんな一面もあるから、いい子に変えられちゃうだろうなと思っていたんです。のんさんは皆に愛されている国民的な俳優さんだし。映画化のお報せを聞いたときには、加代子がいい人になったり、ちょっとラブストーリーが入ったりとか、そういう変更があったらちょっとイヤだなと気になっていたんです。一生懸命で、(原作には存在しない)妹とかが登場して、その妹のために小説を書いているみたいな、そういう感じに変わるだろうなって。でも、のんさんが演じてくれるんだから、ちょっといい子になっちゃったとしても別にいいやと思っていたら、マジで悪いやつのままだったから、本当にうれしかったです。

のん よかったー(笑)。安心しました。

――柚木先生も、授賞式のシーンでご出演されてましたね

柚木 はい、出てます。全力の演技をしてます!

のん 清々しかったです!

柚木 私、「文化人映画チョイ出演大好き人間」なんですが、実名を挙げると角が立つんですけれど、照れた演技をする人がいるじゃないですか。セリフを棒読みだったりちょっと含羞を含んだような。なぜかそういうのって「自然な演技でいい!」って絶賛されるんですよ。でも、私イライラするんです(笑)。映画に呼ばれて出るような人なんだから出たがりのはずなのに、「なに照れたような喋り方をしているんだよ!」って。だからもし、自分に出演のお話が来たら全力でいく!って決めていたので夢が叶いました(笑)。

セリフがめちゃくちゃ面白い

――映画でも原作でも、加代子の発する言葉には実は名言がいっぱい見つかりますよね。

柚木 加代子の言うことはあんまり信じないほうがいいですよ。ちょっとイカレてるので。

のん (爆笑)。書店で万引きをつかまえたときに加代子が言う「犯罪者のくせして、世の中のものさしに従ってんじゃねえよ!」ってセリフがめちゃくちゃ面白いと思って、大好きです。あのシーンは気合い入ってました!

柚木 あそこ最高でした! 殴るんだ~って思って。たぶん加代子は、あのとき自分の本を盗んでくれてたら、万引き犯を逃がしていたと思うんですよ。

のん よりによって、東十条の本は盗んでいて(笑)。

柚木 「頼むぞ、東十条~!」ってところがすごくいいですよね。

のん 東十条に力を借りちゃいました(笑)

柚木 デビュー数年のころに書店廻りにひとりで行ったことがあったんです、トランクに色紙とか入れてずるずる引き摺って……。編集者さんはなんでだったか覚えてないんですが、ついてきてなくて…。当時の雰囲気としては「なんだ、柚月裕子さんじゃないのかよ〜」みたいな……。ちなみに柚木裕子さんとは、デビューが同じくらいだったんですが、あちらは飛ぶ鳥を落とす勢いで……。よく名前を間違えられて、書店員さんたちをがっかりさせちゃって。「反社とか暴力とか書けないほうの柚木です。う~ごめんなさい、ちょっとサインさせてもらえませんか」って。そのときに書店のバックヤードに万引き犯の写真とか、盗まれた本のリストがあったんですが、「めっちゃ売れてる本ばかりじゃん! 私の本は盗まないんだ!」ってすごくひっかかって(笑)。

のん あと、映画の終盤で遠藤先輩に言う「私の望みは、私と同じところに、あんたが、編集者が、落ちてくることよ。鮫島賞をとるために一緒に落ちてくれますか⁉︎」というくだりも印象深いんです。

柚木 すごいセリフですよね。でも、加代子はそんなに深い意味では言ってないかもしれません。加代子は幅広い読者を獲得するために、ニュースをしっかり読んで、調べ物をたくさんするタイプなんですよ。ポリティカルコレクトネスもすごいちゃんとしていて現代に合わせた話を職人的に書くことのできる作家なんです。でも遠藤先輩はそういう作家はあんまり好きじゃない。加代子を買ってないとか才能がない、ということじゃなくて遠藤先輩は文学青年なんですよね。圧倒的に作家として加代子は好みじゃないから、加代子はそれが許せないんです。「担当をやるのであれば私を一番に考えろ!」と言いたいんだと思います。

のん 加代子に手を汚させて、それを面白がってるし。

柚木 そこもイラっとするんだと思います。「もっとお前は汗をかいて、しっかり仕事しろ。 面白がるな!」みたいなことを言いたいんだと思うんです。

のん 加代子は小説を書くことでたくさんの人に認められたいという人生の目標を持っているけれど、性格だったり運の悪さもあってすんなり認めてもらえるような人間ではないという痛みを抱えてもいる、と私は思ったんです。

柚木 加代子は、自分より偉い人の前だとめちゃくちゃ悪いけど、きっと同世代とか自分と同じようなデビューしたての作家に対しては愛嬌のあるやつだと思うし、年下の女の子には優しいと思うんですよね。原作だったり映画を観られた方は、加代子も、私のことも「気骨のあるやつだ」と思うかもしれないですけど、私は加代子ほど強くはなく、でも一番伸び伸びと書いた小説なんです。文芸界の裏側を書くのは、本来、地位がある作家さんなんですね。でも当時出たてのやつが書いた、俯瞰的でもマクロ的でもない物語として、楽しんでもらえたらうれしいですね。

ダ・ヴィンチWeb
©2012柚木麻子/新潮社 ©2024「私にふさわしいホテル」製作委員会
【映画情報】 映画『私にふさわしいホテル』 川端康成、三島由紀夫、池波正太郎……昭和の文豪たちに愛された『山の上ホテル』に自腹で宿泊する中島加代子は文学新人賞を受賞したものの大御所作家・東十条宗典に酷評され単行本はいまだ出ずデビューもままならない。そんな加代子を訪ねてきた文芸誌編集者で大学の先輩、遠藤から東十条が真上のフロアにカンヅメになっていることを知らされる。そのとき加代子の頭にはあるアイディアがひらめいて――。テンポよく展開される痛快な逆転劇はもちろん、のんの振り切った演技やキュートな衣装など見どころ満載だ。 ■監督:堤幸彦 ■キャスト: のん―中島加代子(相田大樹、白鳥氷、有森樹李) 田中圭―遠藤道雄 滝藤賢一―東十条宗典 田中みな実―明美 服部樹咲―有森光来 髙石あかり―東十条美和子 橋本愛―カリスマ書店員 橘ケンチ―俳優 光石研―ホテル支配人 若村麻由美―東十条千恵子 ■原作:『私にふさわしいホテル』(柚⽊⿇⼦/新潮⽂庫刊) ■主題歌:奇妙礼太郎「夢暴ダンス」(ビクターエンタテインメント) ■配給:⽇活/KDDI ■公式サイト:https://www.watahote-movie.com/ ■2024年12月27日(金) 全国ロードショーダ・ヴィンチWeb

【プロフィール】 のん 俳優、音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。2022年2月に脚本・監督・主演を務めた映画『Ribbon』公開、同年9月公開の主演映画『さかなのこ』で第46回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。2024年、第16回伊丹十三賞を受賞。2025年2月にDMMTVでの実写ドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』の公開が控えている。また音楽活動では23年6月に2ndフルアルバム『PURSUE』をリリースした。柚木麻子 2008年『フォーゲットミー、ノットブルー』でオール讀物新人賞を受賞し、同作を含む連作集『終点のあの子』で作家デビュー。『伊藤くんA to E』『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』『マジカルグランマ』『あいにくあんたのためじゃない』などヒット作多数。『ナイルパーチの女子会』で第28回山本周五郎賞を受賞。25年3月に『早稲女、女、男』を原作とする映画『早乙女カナコの場合は』が公開予定。

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