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義実家に帰らない女たち 両親とのちょうどいいバランスは?

  • 2024.12.26

私たちはさまざまな「HAVE TO:しなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研プラスによる連載「XXしない女たち」。今回は「義実家に帰省しない女たち」。毎年この頃になると、義実家に帰るか帰らないか問題がSNSでも盛り上がりを見せる。「帰らない」宣言をしている3名の女性たちに取材しました。

家族なのか、客なのか、立ち振る舞いがムズかしい

現在27歳、メーカーのマーケティング部門で働くMさんは、今年10月に結婚したばかりだ。結婚して初めて迎える年末だが、夫と話し、晦日や大晦日、元旦はそれぞれの実家で過ごし、1月3日ごろに両家に挨拶だけすることを二人で決めた。

もともとMさんは、誰かの家に泊まることに苦手意識がある。父が宮城、母が大阪出身のため、幼い頃から年末年始にはどちらかの祖父母の家に行くことが恒例行事だったが、祖父母の家であっても、落ち着かなかった。どこでダラダラしたらいいんだろう、おばあちゃんは今何しているのかな? 手伝ったほうがいいかな―――。「くつろいでね」と祖母は言ってくれたが、「家族」なのか、「招かれた客」なのか、いつも立ち振る舞いに困った。「『過敏ちゃん』過ぎて自分でも面倒だと思うけど」と笑うMさんだが、そういった自分の性格を理解しているからこそ、他人の家にお邪魔することに気苦労が絶えないのだという。

kazuma seki/iStock/Getty Images Plus

「通例」をつくることは、壊すことでもある

結婚1年目で「最初が肝心」だと思ったMさんは、夫の実家に行くことを「恒例行事」にはしたくなかった。夫の実家は、親戚一同が大集合する“オールド・スタイル”な年末年始の過ごし方だ。それでも、夫はすぐにMさんの考え方に対して「それでいいと思う」と賛同してくれた。

Mさんが自身の実家に帰ることを報告すると、両親は嬉しそうだった。結婚を理由に相手の実家に行くという新しい「通例」を作ることは、Mさんがこれまで年末は実家に帰省していたという、自分の両親にとっての「通例」を壊すことでもある。自分の両親たちの「通例」も守りたいのだと、Mさんは言った。

義実家との関係性は全く悪くはないが、まだ距離はあり、いきなり家族になれるわけじゃないと思っている。今のMさんは、心安らぐ実家に帰りたい気持ちが勝る。「でも今後、義実家との関係性が深まり、居心地が良い場所になったら、帰省するかどうかはその時に考えればいいかなと。長い目で、信頼関係をゆっくり築いていきたい」とMさんは話した。

寒くて高い年末年始に帰らなくても……

次に話を聞いたのは、マスメディアで働くTさん(42歳・既婚)。今年7歳になった娘と夫との3人暮らしだ。

Tさんは、娘が2-3歳になった頃から、年末年始に義実家に帰省することをやめた。それまでは、娘が生まれる前の婚約時代から、年末年始には夫の実家に帰っていた。夫の実家は九州にあり、年末年始には親戚一同が夫の祖母の家に会して『紅白歌合戦』を見て、年越し蕎麦を食べ、元旦には近所の人が挨拶に来るといった、かなり「きっちり」した慣習があった。夫の祖母からしたら、「長男の嫁」だった義母は、いつも忙しく働いていて、Tさんはそんな義母を手伝ったりしていた。

maroke iStock / Getty Images Plus

夫の祖母が亡くなると、自然とその慣習は無くなった。義母が大変だったからこそ、「お嫁さんに嫌われちゃうし、やりたくない」と義母が「帰省しなくてもいいよ」と提案してくれたのだ。

それでも、年末年始には顔を見せようかなと思うこともあったが、コロナ禍が重なったことや、年末年始に九州に帰ったところで、旅行代が高くつくし寒くて観光もままならないのでよいことがない。だったら無理に年末年始に帰らなくてもいいよね、と夫と話し、ここ数年は春や秋に時期をズラして帰省している。

2つの「実家」とは、バランスをとりたい

「合理的」に帰省しないことを決めたTさんだが、不安が全く無い訳ではない。夫を介して義母に連絡してもらっているが、義母は、元・小学校教師という職業柄もあり、みんなでわいわい集まることやお祝い事には前向きな人だ。もしかしたら、義母は少しだけ寂しいと思っているかもしれない。ただ、その話を自らすると、年末年始にも行きましょうかという話になるから、気づかないふりをしていると言う。

そんなTさんの今年の年末年始は、娘の小学校受験を経て通学のために引っ越した新居に、自分の母を呼ぶつもりだ。母は離婚しており、年の節目や誕生日なども一人で過ごさせてしまっていて、ちょっとした罪悪感もあるため、久しぶりに年末年始に母を招くことにした。今年は呼ぶけど、夫も気を遣うだろうし、来年以降は分からない。「お互いの実家との距離感は、バランスをとるのが一番かなーー」。Tさんは言った。

yamasan/iStock/Getty Images Plus

人を招く大変さが分かるだけに

最後に話を聞いたのは、PR会社に勤めるSさん(29歳・既婚)。結婚3年目を迎えるが、年末年始には一度も義実家に帰っていない。

Sさんにとって、年末年始は家族みんなで賑やかに過ごすもの。特別な何かがあるわけではないが、こたつを囲んで年末のTV番組を見たり、鍋を囲んだり、テーブル麻雀をしたり。幼い時からの家族4人で過ごしてきた思い出があるからこそ、夫と二人で年末年始を過ごすのは寂しいと感じ、結婚早々、それぞれの実家に帰ればいいよね、と夫と決めたと言う。

そんなSさんだが、昨年の年末年始には、泊まらずとも、義実家で義両親たちと食事でもするか、という話が一度持ち上がっていた。他人の家で過ごす年末年始はどんなだろうと楽しみにしていたが、直前になって義母の仕事が忙しくなり、予定は無くなった。自分よりも気を遣う義母の性格を知っているし、人を招くとなったら掃除や料理と用意することが多いことも分かっている。フルタイムで働く大変さはSさんも共感できるから、「せっかくの貴重な年末年始休暇に、無理して会わなくてもいいのかもしれないです。その方が“Win-win”なのではーー」とSさんは言う。

CandyRetriever/iStock/Getty Images Plus

直接連絡をとらない関係が「ちょうどいい」

ただ、将来子どもができれば、今のようにはいかないかもしれない、とも思う。義母とは血の繋がりもなく、ドライに聞こえるが、結局は「他人」。でも、もし子どもが生まれたら、夫の血も繋がった「孫」になるため、自分の両親と同じように、義実家にも顔を見せることが「義務」のように感じるのだと言う。義母たちが「寂しい」と思わないように、色々気は遣うようになるのかもしれない、と考えている。

それでも今は、年に数回は一緒に食事をして、何かお祝い事があればプレゼントを渡し合い、直接は連絡せずに夫経由で義実家と話をするなどの距離感が「ちょうどいい」。あまり距離を詰め過ぎないくらいが、良好な関係を保つ秘訣なのかも、とSさんは言った。

「義実家に帰らない」は4割弱

博報堂キャリジョ研プラスは今年12月、20-40代の既婚女性100名を対象に「義実家への帰省に関する意識アンケート調査」を実施した。今年の年末年始の予定を聞いたところ、「義実家に帰る」と答えた女性は47%、「帰らない」と答えた女性は39%と、分かれた。

【グラフ1】

博報堂キャリジョ研プラス「義実家への帰省に関する意識アンケート調査」グラフ1

帰らない理由としては、「子どもの受験」「出産したばかりで遠出ができない」など子どもに関する都合のほか、「お金がかかる」「面倒」「遠い」などとの回答も目立った。

【グラフ2】

博報堂キャリジョ研プラス「義実家への帰省に関する意識アンケート調査」グラフ2

義実家に帰る理由を尋ねたところ、「子どもの顔を見せるため」が34%と最も多い結果になり、次いで「夫が帰りたいから」「子どもが行きたいから」など家族の希望によって帰省していることが明らかになった。その他には、義両親が亡くなっていたり、離婚などにより、義実家がないと答える声なども挙がった。

【グラフ3】

朝日新聞telling,(テリング)
博報堂キャリジョ研プラス「義実家への帰省に関する意識アンケート調査」グラフ3

義実家に帰ることに対する気持ちを聞くと、54%と半数以上の女性が「気が進まないことがある」「少しある」と回答。気が進まない理由として、もっとも多く挙がったのは「気を遣うのが大変」で35%だった。次いで「自分の時間を大切にしたい」など慣習より自分の過ごし方を優先させたい思いや、「義実家に気を遣わせたくない」など義実家への配慮、「混雑や距離的に帰りづらい」といった合理的な意見も挙がった。

「義実家へ帰ること」が慣習的に残っている一方で、合理的な観点からみて不都合があること、自分らしい過ごし方を優先させたいことなどの理由から、必ずしもそれだけが「解」でもない実情が浮かんできた。新しい年末年始の過ごし方が、スタンダードな選択肢として浸透しつつあるように思う。

■下萩千耀のプロフィール
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1995年生まれ。雑誌・新聞の広告メディア領域を経験したのち、PRプラナーとしてクライアントの情報戦略、企画に携わる。だれもがハッピーに生きる社会を目指して、キャリジョ研での活動や日々のプランニングに邁進。大好きなのは高知県、もんじゃ、夏。

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