1. トップ
  2. ライフスタイル
  3. 2024年に亡くなった絵本作家さんを偲んで

2024年に亡くなった絵本作家さんを偲んで

  • 2025.1.15

こんにちは、リビングふくおか・北九州の絵本専門士チームです。

今回は、2024年に亡くなられた絵本作家の方々を偲び、私たち4人がリレートーク形式で、心に残った絵本、ぜひ手にとっていただきたい「私の1冊」を紹介したいと思います。

さとうわきこさん(3月28日没)

花田雅子です。 「私の 1 冊」は・・・

出典:リビングふくおか・北九州Web

『せんたくかあちゃん』 さとうわきこ 作・絵(福音館書店)1982

せんたくが大好きなかあちゃんのお話です。 かあちゃんはなんでもかんでもたらいに放り込み、洗濯板と石鹼でごしごし洗います。ついには空から落ちてきたかみなりさままで洗ってしまいます。汚かったかみなりさまをきれいに洗ったのはよかったのですが……。

私が初めて読んださとうわきこさんの絵本が、この『せんたくかあちゃん』です。 かあちゃんは洗濯機を使いません。庭の水道から出てくる水を使い、素手で洗うのです。 現代ではなかなか見ない光景ですが、パワフルなかあちゃんがたくさんの洗濯物をごしごし洗っていく様子を見ていると、なんだかとても清々しい気持ちになります。 特に、洗濯物がたくさん干してあるページは圧巻です。洋服だけじゃなく、ねこやいぬ、にわとり、ソーセージ、くつ、子どもなど、あらゆるものが干してあり、こんなものまで洗ったのかと驚かされます。 楽しくて爽快な気分になる素敵な絵本です。

そんなさとうわきこさんが創設したのが、「小さな絵本美術館」です。長野県の諏訪湖畔の本館と、八ヶ岳の分館があります。 りんご園のなかにある本館の入口では、ばばばあちゃんの絵が出迎えてくれます。さとうわきこさんの作品だけでなく、国内外の絵本原画やオブジェなどがたくさん所蔵されていて、とても見ごたえのある絵本美術館です。 2階にはセルフサービスのカフェがあり、紅茶やクッキー、畑のりんごで作ったジュースなどをいただきながら、ゆっくり絵本を読むことができます。 近くに寄った際は是非訪ねてみてください。

さとうわきこさんの絵本は、どれもユーモアに満ちていて、元気をもらえるお話ばかりです。 皆さんも是非、「疲れたな」とか「元気になりたいな」と思った時は、この『せんたくかあちゃん』を開いてみてください。 どこからか、かあちゃんの元気な声が聞こえてくるようですよ。

「よしきた まかしときい」

花田雅子 ボランティアグループ「おはなしの木」代表。絵本専門士3期生。絵本コンシェルジュ。 絵本サイト「にこっと絵本」サポートメンバー。

駒形克己さん(3月29日没)

柴田香です。 「私の 1 冊」は・・・

出典:リビングふくおか・北九州Web

『ごぶごぶ ごぼごぼ』 駒形克己 作 福音館書店

幼い子どもたちにとって、絵本とは「はじめてのアートとの出あい」という一面があります。緻密に計算された絵と文の配置、色やことば選びなど、1冊の絵本の中には想像以上に深く豊かなアートの世界が広がっているからです。 駒形克己さんは広告やCIデザインをメインに手掛けてきた造本作家・デザイナーで、たくさんの「アートとの出あい」を提供されています。 福岡市南区の「絵本と図鑑の親子ライブラリービブリオ」は駒形さんがロゴや本棚をはじめ、全体のプロデュースにも携わられた私設図書館。実際に利用してみると随所に子どもたちへのあたたかい心くばりが感じられます。

『ごぶごぶ ごぼごぼ』は下の子が0歳の時、友人から譲ってもらい、わが家に迎えました。 自治体のブックファースト事業や「0歳向けおすすめ絵本」としてよくラインナップされているので、上の子にも図書館で借りて読みましたが、それまで手元には持っていませんでした。

角丸のボードブックタイプで破れにくく丈夫、原色のはっきりとした色使いとかたち。ページをめくるとマルの抜型が前のページとは全く違う表情を見せます。その穴に指を抜いたり差したりして遊ぶのも仕掛け絵本の醍醐味。そこに降ってくるようなたくさんのオノマトペのシャワーは、読み手によっていろいろに変化します。かくして、『ごぶごぶ ごぼごぼ』は幼い娘の大好きなお気に入りの1冊となりました。 そののち絵本専門士として赤ちゃん向け絵本講座を担当するようになってからも、当時の娘のエピソードとともに鉄板本のうちの1冊として紹介しています。

「本は一緒に歳を取ってくれる」とは、駒形さんが残された言葉。めくって、触れて、オノマトペを体感して、ぜひ『ごぶごぶ ごぼごぼ』で読み手と聞き手のコミュニケーションを図ってみてください。 「絵本を読んでもらうってたのしいなあ」という体験が、きっと歳をかさねる子どもたちのこころを耕していくことでしょう。

柴田香 絵本専門士2期生。読み聞かせボランティアもこもこ、NPOふくおか子どものこころサポート研究所所属。

中川李枝子さん(10月14日没)

尾場瀬淳美です。 「私の 1 冊」は・・・

出典:リビングふくおか・北九州Web

『ぐりとぐらのおきゃくさま』 中川李枝子 文 山脇百合子 絵(福音館書店)

野ねずみのぐりとぐらは、雪の上におかしな穴を見つけます。よく見ると、それは大きな足あと。その足あとをたどっていくと、そこはなんと自分たちの家でした。 ドアを開けると大きな長靴。その他にも真っ赤なオーバーや真っ白なえりまきや真っ赤な帽子…。 そして、カステラをやくいいにおい。台所では、おじいさんがクリスマスのケーキを焼いていたのです。

「おきゃくさま」がサンタさんであることは、絵本のどこにも書かれていませんが、サンタさんは、ぐりとぐらの大好物が、カステラであるとちゃんと知っていて、驚きとプレゼントを用意してくれているというクリスマスのわくわくが詰まった絵本です。 この作品は、1966年こどものとも12月号として刊行され、1967年絵本化されました。ぐりとぐらシリーズは、横長形状が多いですが、この作品は、縦長形状となっており、その仕様にも特別な思いが込められているように感じます。

中でも、ぐりとぐらが、目をつぶってカステラのにおいをかいでいるシーンはとても印象的です。幸せそうなぐりとぐらの表情(20・21ページ)には、自然と五感をくすぐられ、読んでいる私たちを幸せいっぱいな気持ちにしてくれます。

長年保育士をされていた中川さんは、日ごろから「子どもたちは子どもらしいのが一番よ」と言われており、このシンプルでありながらとても力強いメッセージで、子ども達の親をも勇気づけていらっしゃいました。

この愛に満ち溢れたメッセージは、各作品において、丁寧に優しく描かれており、これからもページをめくるすべての人に幸せを届け続けてくれることしょう。

尾場瀬淳美 絵本専門士1期生。JPIC読書アドバイザー。日本子どもの本研究会会員。 北九州市子ども読書推進会議委員。おはなしアリス代表。

谷川俊太郎さん(11月13日没)

二田水ゆかりです。 「私の 1 冊」は・・・

出典:リビングふくおか・北九州Web

『子どもたちの遺言』 谷川俊太郎/詩 田淵章三/写真(佼成出版社)2009

おすわりした幼い子がまっすぐにこちらを見ている写真が表紙の写真絵本です。 生まれたばかり、へその尾をつけて産声を上げている赤ちゃんの写真とともに、 「いつかぼくが ここから出て行くときのために いまからぼくは遺言する」 「ぼくが幸せになるのを」「邪魔しないで」と、 生まれた喜びを高らかに謳いあげる詩から始まります。 0歳から成人式の晴れ着を着た若者までの「子ども」が謳い語る連作詩です。

勤務先の中学の2年生に、この写真絵本を読み聞かせしました。 まずは『スイミー』(レオ・レオニ作 好学社)を読み、『スイミー』を翻訳した谷川俊太郎さんの写真絵本です、と紹介してから、連作詩のうちふたつを読みました。

ひとつは、中学生世代の「いや」。この詩はこんなふうに始まります。

「いやだ と言っていいですか 本当にからだの底からいやなことを 我慢しなくていいですか 我がままだと思わなくていいですか」

そしてその後、冒頭にあげた赤ちゃんの詩「生まれたよ ぼく」を読みました。

人生の長さは、人それぞれです。 どの人も、その人生のたった今を生きている。 谷川さんの詩、言葉は、たった今を生きているすべての人の心にまっすぐ入っていきます。 そして、心にまっすぐ入ったものが柔らかくあるいは強く残り、時間を経て改めて読みなおした時に、更に深く心を揺さぶるのではないでしょうか。

年が改まれば3年生は卒業の季節へ向かいます。 毎年卒業の季節には、『子どもたちの遺言』連作詩の中から、「ありがとう」という詩を、折り紙の花束とともに掲示しています。 この詩は、えがしらみちこさんが絵を描き、講談社から絵本としても出版されています。

『子どもたちの遺言』は、死から一番遠いイメージの赤ちゃんが未来に向かって遺言するという、作者の逆転の発想から生まれました。 あとがきには、「生まれたばかりの赤ん坊に遺言されるような危うい時代に私たちは生きている」とあります。 心の底にある芯のようなもの、確かにあるのに見えない大切なものを、谷川さんは言葉という宝物にして遺してくださいました。 どうもありがとうございました。

二田水ゆかり 学校司書、読み聞かせボランティアグループおはなしどうぶつじま代表。 絵本専門士2期生。JPIC読書アドバイザー。日本子どもの本研究会会員。

元記事で読む
の記事をもっとみる