1月9日から配信されているNetflixドラマ『阿修羅のごとく』。脚本家・向田邦子が手がけた名作を、是枝裕和監督が令和に返り咲きさせたことで話題に。主人公の四姉妹を、宮沢りえ、尾野真千子、蒼井優、広瀬すずが演じていることにくわえ、性別問わず色香を漂わせるような男性陣キャストもバラエティに富んでいる。とりわけSNS上では、ドラマ出演をきっかけにボクシングのプロテストに合格した藤原季節に言及する声が多い。
プロボクサーC級ライセンスを取得
本作への出演オファーを受け取った直後、ボクシングジムへ入会した、と明かしている藤原季節。彼が演じる役柄は、四姉妹の末っ子・咲子(広瀬すず)の恋人である陣内英光だ。
物語の冒頭では、まだ芽が出ておらずパッとしないボクサーだった陣内。しかし、ついに彼はチャンピオンの座を射止め、古いアパートの一室に二人で肩を寄せ合っていた生活とは、段違いの暮らしを送るに至っている。
藤原季節が演じる陣内とは、どんな人物なのか。あえて一言で表現するならば「気迫」だろうか。パッとしない状況だった当時も、チャンピオンとなり知らぬ人などいない環境になっても、彼の表情や周囲には濃度の異なる気迫が漂っているように見えてならない。言葉に当てはめるなら、それは「リアリティ」に繋がる要素なのだが、安易な言葉で枠にはめられないほど彼の演技には血が通っている。
『阿修羅のごとく』撮影終了後も、藤原はボクシングを続けた。そしてプロボクサーC級ライセンスを取得した、と公表。作品から離れるのが寂しく、プロテストを受けることで区切りにしようとした、と語る彼の姿勢は、そのまま作中で陣内がボクシングに向き合い続けたこととシンクロして映る。
SNS上では、四姉妹のキャスティングが発表された時点で「凄すぎる」「観ない理由がない」と話題に。くわえて本木雅弘や松田龍平、内野聖陽、藤原季節といった男性陣にも「キャスティングが強すぎる」「すべてが素晴らしい」の声も多い。
物語に奥行きを生む、男女のコントラスト
初めて『阿修羅のごとく』が放送されたのは1979年。約40年近くの時を経た、令和の時代に本作を観ると、男女差別や女性蔑視、いわゆる昭和的価値観からステレオタイプな物言いをする登場人物たちに、驚く場面も多いかもしれない。
そもそも、四姉妹の父親である竹沢恒太郎(國村隼)が長年、不倫をしており、妻のふじ(松坂慶子)はそれを知りながらもグッと奥歯を噛みしめ、耐えている。そんな構図からして、なんとも“昭和的”としか言えない。
この不倫をきっかけに物語は展開し、四姉妹を中心とした男女の悲喜劇が織りなされていくわけだ。なぜ、ふじは命が絶える瞬間まで耐えられたのだろう……と疑問に思う視聴者が多数派だろう。
「不倫」は本作における重要なキーワードである。
長女の綱子(宮沢りえ)も、アルバイト先の料亭の主人・桝川貞治(内野聖陽)と不倫している。次女の巻子(尾野真千子)は、夫の鷹男(本木雅弘)に不倫されている。三女の滝子(蒼井優)と勝又静雄(松田龍平)は、父・恒太郎の不倫をきっかけに出会って結婚しており、後にチャンピオンとなる咲子の夫・陣内も女を連れ込んでいた過去がある。
不倫に始まり、不倫でつながり、不倫で終わる男女たち。時代錯誤に思えるセリフや描写もあるものの、それこそが物語に奥行きを生む要素になっている。
Netflixシリーズ『阿修羅のごとく』独占配信中
ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_