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一番の注目作ではなかったのに… アニメ『メダリスト』の注目度が一気に高まったワケ

  • 2025.2.25
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(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

フィギュアスケートを題材にしたアニメ『メダリスト』が、話数を重ねるごとに盛り上がっている。

本作は、小学5年生の結束いのりが、26歳のコーチ・明浦路司の指導の元でフィギュアスケートの選手としてオリンピックを目指す物語だ。
司は元々、全日本選手権に出場した実績のあるアイスダンスの選手だったが、24歳で現役を引退。アイスショーの面接に落ち続けて仕事がない時に、アイスダンス選手時代のパートナーだった高峰瞳の紹介で「ルクス東山FSC」のアシスタントコーチとなるのだが、そこで両親に内緒でスケートリンクに潜り込んで練習をしていた結束いのりと出会う。
いのりのスケートを見て、彼女には才能があると感じた司だが、5歳から始めるのが当たり前の世界だったため、11歳のいのりがプロ選手を目指すにはギリギリの年齢だった。それでもスケートをやりたいと決意したいのりは母親を説得し、司の指導の元でめきめきと成長していく。

コーチと選手の理想の関係を描いた現代的なスポーツアニメ

『メダリスト』の魅力は大きく分けて二つ。

一つは作品の見せ場と言える、アニメならではのフィギュアスケートの演技シーン。 いのり達選手が劇中で披露するフィギュアスケートの場面は、プロフィギュアスケーターで振付師の鈴木明子が担当しており、彼女の演技をモーションキャプチャーで取り込んだ3DCGを元に、手書きアニメによるメリハリのある細部の描写を加えることで、アニメならではのダイナミックな映像表現を成立させている。

また、テレビの実況中継では視点が限定されるカメラワークも、アニメならば様々な角度から見せることができる。中でもスケートシューズのブレードが氷のステージを滑降する際に飛び散る氷の飛沫を足元から捉えたカットは、実に心地良い。
手足の伸びた姿勢の美しさも、遠近感を強調することで一枚絵としての美しさが際立っており、リアルでありながらもケレン味のあるアニメならではの気持ちよさに溢れている。

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(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

もう一つの魅力は、司といのりの師弟関係。

劇中ではフィギュアスケートが選手の競争率が高く、経済的にも負担の多いスポーツであることが序盤に強調される。スケートを始める年齢が遅かったことを後悔していた司は、自分と同じ境遇にあるいのりにシンパシーを感じ、あまり乗り気でなかったいのりの母を説得してコーチを自ら引き受ける。

短期間で成果を出せるように難しいトレーニングを積ませる一方、司はいのりの気持ちを常に気遣い、ネガティブに物事を考えてしまういのりのメンタルに寄り添って励ます。
その姿はカウンセラーのようでもあるし、彼女を推す熱狂的なアイドルオタクのようでもある。

『巨人の星』や『エースをねらえ!』といった昔のスポーツ漫画の師匠は選手にとても厳しく、過酷な特訓によって、精神的、肉体的に追い込むことで成長を促していた。もちろん、根底には選手に対する深い愛情が存在し、愛ゆえの厳しさがドラマを盛り上げたのだが、今の時代のスポーツ漫画は厳しさ以上に、選手の一番の味方となってメンタルを支え応援する溺愛要素が不可欠なのだと『メダリスト』を観ていると感じる。

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(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

OP映像の冒頭では、司といのりの他にも、劇中に登場するコーチと選手がいっしょに映っているカットが立て続けに表示されるのだが、本作は選手だけでなくコーチの比重も大きく、双方の立場から描いた理想のスポーツアニメとなっている。

そのため、幼い少年少女はトップを目指すいのりたち若き選手たちに感情移入し、年齢を重ねた20代以上の大人は、司たちコーチの立場に感情移入して楽しむことができる。本作のコーチと選手の関係は、スポーツだけでなく、会社の新入社員と上司や学校の教師と生徒の関係に落とし込むことも可能で、年下の若者とどう向き合うべきかで悩んでいる大人ならば、必見のアニメである。

米津玄師が自ら「やりたい」と打診した主題歌

最後に、米津玄師の主題歌についても触れておきたい。

本作は月刊アフタヌーンでつるまいかだが連載している同名漫画を原作としている。
2020年から連載がスタートした本作は、2023年に小学館漫画賞の一般向け部門を、2024年には講談社漫画賞の総合部門を受賞し、すでに漫画ファンの間では高い評価を獲得していた。 それでも、フィギュアスポーツを題材にしたスポーツモノという珍しいジャンルだったこともあり、冬クールのアニメでは一番の注目作というわけではなかった。

しかし、本作のファンを公言する米津玄師が主題歌をやりたいと自ら打診したというニュースが流れたことをきっかけに、『メダリスト』の注目度は一気に高まった。

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(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会

テレビドラマ『アンナチュラル』の「Lemon」、連続テレビ小説『虎に翼』の「さよーならまたいつか!」、アニメ『チェンソーマン』の「KICK BACK」、そして現在、劇場公開されているアニメ映画『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』の「Plazma」など、米津は様々な映像作品の主題歌を手掛けており、作品のテーマを理解した上で書かれる深い歌詞が、作品のファンを毎回唸らせている。

今のミュージシャンの主戦場は、ドラマやアニメの主題歌となっており、いかに作品の世界と合致した主題歌を作り出せるかが評価の指標となっている。 そんな中、米津はもっとも優れたタイアップソングの担い手で、逆に現在は、米津が主題歌を歌うということ自体が、作品のブランドイメージを高める要素となっている。

だからこそ、米津に主題歌の依頼は絶えないのだが、そんな彼が自ら『メダリスト』の主題歌を「やりたい」と打診したというニュースは、音楽業界、アニメ業界にとって、一つの事件だったと言えるだろう。おそらく、彼が主題歌を担当するから見てみようと思った視聴者も多かったのではないかと思う。

『メダリスト』の主題歌「BOW AND ARROW」は、コーチと選手の関係を弓と矢に例えたスピード感のある曲で、司がいのりのスケートを見守りながら応援している姿が目に浮かぶ。
アニメを見た後、「BOW AND ARROW」の歌詞をじっくり読むと米津の原作理解の深さに驚くのだが、同時に作品とミュージシャンの理想の関係が、司といのりの関係に重ねられているようにも感じる。

このコラボレーションを生み出したという意味においても『メダリスト』は理想のアニメ化である。

メダリスト
ABEMAにて毎週木曜26時より無料放送
放送後1週間、最新話を無料で視聴できる。
[番組URL]https://abema.tv/video/title/25-279
【(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会】


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。